21
体育祭もいよいよ終盤。残すところクラス選抜対抗リレーだけとなった。俺の出番は二人三脚しかなかったため、終わっている。後はリレーの結果を見届け、終了の流れを待つだけだ。
と、その前にやることがある。
「西宮」
クラスメイトの応援を受けて入場口へと向かっていた西宮に追い付いて声を掛けた。
「東野くん。どうしたの?」
「もう最後なわけだけど、疲れたりしてないか?」
俺とは違って西宮は複数の種目に出場している。全部走る系の競技だ。運動は得意な西宮でも体力的に疲れたりしていても不思議じゃない。
「うーん……急に疲れてきたかも」
「え」
「……東野くんが応援してくれたら元気が出ると思うなー」
チラチラとこっちを見ながらそんなことを言う西宮。棒読みだし、余裕はありそうな気がする。ていうか、俺の応援で元気が出るって何? 笑えるような応援なんて出来ないんだけど、俺。
「が、頑張ってな」
元々、西宮に何も言えなかったことが嫌で追い掛けてきたっていうのに変にハードルを上げられたせいでぎこちなくなってしまった。
「んふふ。東野くんの応援のおかげで元気満タン。気合い十分だよ。燃えてきた」
ぎこちない応援になってしまったというのに西宮は嬉しそうにしてくれる。期待されていたことに応えられたのか不安でしかない。そんな俺の不安なんて西宮は気にもしないんだろう。
応援一つ、さらっと出来ない俺なのに西宮は笑ってくれるんだよな。呆れもせず。それどころか、喜んでくれて。何だか胸が熱くなった。
「おーい、西宮。早くしろー」
リレーに出るクラスメイトから呼ばれた西宮。
「じゃ、行ってくるね」
「西宮のこと、誰よりも応援してる」
「う、うん。ありがとっ!」
大きく頷いて西宮は小走りで入場口へと向かっていった。最後くらい、クラスの中で西宮を応援しようと戻る。
「あ、いたいた。探したよ、東野くん」
クラスの定位置からほんの少しだけ離れた場所で西宮のお兄さんと遭遇した。しかも、どうやら俺を探していたっぽい。まだ帰ってなかったんだ。
「俺に何か用ですか?」
「用というかちょっと話したくて。時間大丈夫?」
「大丈夫、ですけど」
「よかった。じゃあ、何から話そうか。そうだな。ひとまず、礼からでも」
「礼、ですか?」
何を言われるだろうと身構えていたがその必要はあんまりなさそうだ。にしても、西宮のお兄さんから感謝されることなんてしてないんだけどな。出会って時間も経ってないんだし。
「日向のこと、女の子として接してくれてありがとう」
「礼を言われるようなことしてないです」
「東野くんにとってはそうかもしれない。けど、俺にとっては感謝したくなることなんだ。日向はあまり女の子として周りから接してもらえないだろ。日向は気にしてないように振る舞っているけど、見ていて逆に痛々しくてね」
「家でも西宮ってそうなんですか?」
「そうなんだよ。本当は気にしてるくせに強がってて見ていて辛い」
西宮のお兄さんは深い溜息をついた。西宮が気にしてることを気にしないようにしてるから、家族が気にするっていうのは家族故だからだろう。西宮家はみんな優しそうだ。
「それこそ、昔は本当に弟みたいだったんだ。俺の後をついてくる活発な子でよく俺の友達と混ざって一緒に遊んでた。木登りしたり、虫を捕まえたり、駆け回ったり」
活発な西宮か……すごく想像出来る。元気に走り回って軽快に笑ってたんだろう。あ、想像の中なのに子ども独特の可愛さが目に浮かぶ。あははって西宮が笑ってる幻聴まで聞こえてきた。ふふ。って、笑ってる場合じゃねえ。幻聴はヤバい。いよいよ、本格的に病気だ。
「ん、渋い顔してどうした? 気分でも悪い? 水でも買って来ようか?」
「ああ、いえ。個人的なことなので大丈夫です。体調はすこぶる良好なので」
「何かあったらすぐに教えてくれな」
「ありがとうございます」
西宮といい、お兄さんといい。二人とも優しい。お兄さんに関しては知り合って間もないってのに、どうしてこんなに優しく出来るんだ。
「じゃあ、日向の話に戻るけど。男に囲まれていれば男の子みたいになっても気にすることじゃない。何より、本当に小さい頃の話だし、よくあることの一つだ。けど、大きくなれば環境は変わる。日向には日向の友達が増えて、周りには女の子だって存在するようになる。そうなれば、日向にだって女の子らしさが出てくる。髪を伸ばしたり」
「今の西宮みたいにですね」
「そうだね。そりゃ、一緒に遊んでた妹が離れていくのは少し寂しかったよ。でも、いいことじゃん。ずっと俺の後をついてくることをしなくなったんだから」
「成長ですもんね」
「その通り。でも、それが今の日向になるきっかけだったんだ。ある日、母さんが日向にスカートを買ってきてね。これまで、ズボンしか履いてなかったから日向も初めてのスカートに戸惑ってたし、照れ臭そうにしてた。でも、嬉しそうにもしてた。何より俺の目から見ても似合ってて可愛かったんだ」
それから先は別に聞かなくてもどんな結末を迎えるか分かる。今の西宮が日々、言われていることを言われたんだろう。
「初めて学校にスカートを履いていった日、言われたらしい。似合ってない。男みたいなのに変。スカートが可哀想、って。その時から日向は背が大きかったから、いじるにはいい対象だったんだろう。日向からは直接聞いた訳じゃないけど、日向の友達が教えてくれた」
想像した通りだった。
「それから、日向はスカートを履かないようになった。理由は動きづらいかららしい」
絶対、嘘だろう。西宮のお母さんが初めて買ったスカートを馬鹿にされたとお母さんが知れば悲しむと考えて嘘をついている。西宮ならすることだ。
「許せませんね、西宮のことを傷付けたやつら」
「だから、ボコボコにしてやった」
「え?」
「いやいや、直接手を出した訳じゃないよ? 学校でドッジボール大会ってのがあってさ。対戦した時に、めちゃくちゃ当ててやった」
「西宮とお兄さんっていくつ違うんですか?」
「二つ。俺が六年生の時のことだな」
大人気ねえ。それに、はっきり覚えてるあたり、かなり根に持ってるようだ。けど、それだけ、西宮のことが大切な妹なんだろう。
「だからって、何の意味もなかったんだけどね。日向が制服以外でスカートを履くことはなかったし。ついでに、私って言うこともなくなった。男の子のように振る舞い始めたんだ」
「そうだったんですか……」
「でも、本当は女の子として見てほしいと思うんだよ。髪は切らないし、リップとか化粧品とか服のコマーシャルが流れると見てるからね。けど、その度に高そうとか動きづらそうとか言って見ないフリをする。それが、見てて痛々しいんだ」
どう返していいのか分からず上手く言葉が浮かんでこない。そうしている間にクラス選抜対抗リレーが始まった。
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