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男扱いされてる女子、俺の前では可愛い女の子  作者: ときたま@黒聖女様


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 昼休憩を挟んで午後からの部が始まった。

 その最初の競技として二人三脚が行われる。

 つまり、俺の出番がやって来たという訳だ。


 今はスタート位置にて順番を待っている間だ。側には西宮。それに、北上と南條もいる。


「いよいよ本番だね。みんな、調子はどう? 私はばっちり!」


 ピースサインを作って絶好調をアピールしてくる南條。この様子から問題なさそうだ。


「ボクもばっちりだよ。やる気がみなぎってる」


 そんな南條に合わせるようにピースサインを作った西宮。問題なさそうだ。すごく燃えている。


「僕も大丈夫……ちゃんとご飯食べたし」

「お、偉い。昔から腹が減っては戦はできぬって言われてるもんね。頼りにしてるよ、北上くん」


 南條が親指を立てて北上に向ける。大丈夫というわりには北上の様子はあまり大丈夫そうじゃない。大丈夫だろうか。


「東野くんは?」

「この時のために全力を尽くしてきた。今の俺に死角はない」

「おお……言ってる意味はよく分からないけど、みんな調子良さそうだね。頑張ろ」


 もちろん、俺も絶好調……とは微妙に言い切れない。本番が近付くにつれて、緊張してきたからだ。正直に言って体育祭なんて興味がない。勝とうが負けようがどうだっていい。それが、去年までの俺の考え。

 でも、今年は違う。勝ちたい。西宮と何度も練習してきたんだ。勝って西宮と喜びたい。西宮のことを笑顔にしたい。

 そう思えば思うほど頑張らないといけない、と緊張感が増していく。


「西宮さんのシュシュ、ドーナツみたいでおもしろ可愛いね。ポニテもよく似合ってるよ」

「ありがとう。宝物なんだ」


 おまけに、俺が聞いていると知っているはずなのに西宮はシュシュをそんな風に言ってくれて変に居心地が悪い。いい気しかしていないのにだ。何かして気を紛らわせないと緊張でどうにかなってしまいそうだ。


「北上北上」


 西宮と南條が二人で話しているので顔を曇らせている北上を話し相手に決めた。小声で呼べば北上が耳を近付けてくる。


「ど、どうしたの?」

「いや、顔色悪いから話でもしてた方がマシだと思ってな……俺も緊張してるから話し相手になってくれ」

「うう。助かるよ……今日で最後だからって自分に言い聞かせてね。南條さんからも勝ちたいねーって言われてるから頑張ろうって思ってたんだ。でも、気付いちゃったんだよね」

「何に?」

「クラスじゃ僕が南條さんのペアだって知られてるけど、他のクラスはそうじゃないでしょ。南條さんって他のクラスからも人気があるから恨まれそうだなって」

「考え過ぎだろ……って言いたいところだけど、羨ましがられはするかもな」

「だよねぇぇぇ……うう。胃が痛い」


 お腹を押さえて呻く北上。ため息も多く、辛そうだ。それでも、仮病も使えたであろう状況で逃げずにここにいる。北上なりに覚悟を決めて頑張っているんだろう。


「東野くんは?」

「俺は勝てるかなっていう不安から緊張で体が震えてる。既に心臓バクバクだ」

「顔に出さないあたり、分かりづらいよ」

「必死に耐えてるからな。俺みたいな冷めてそうな人間が体育祭で緊張してるのも馬鹿みたいだろ」

「そんなことないよ。不安なのは東野くんが西宮さんと頑張ってきた証しだし。それに、東野くんは冷めてないと思うよ。本当に冷めてる人は他人のことで気分を悪くしたりしないはずだから」

「恥ずいこと言うな北上は」

「そ、そうかな。でも、ほら。体が温まってきたでしょ」

「意外と脳筋か」


 ツッコミを入れると北上が小さく吹いた。それにつられて俺も「はっ」と声を出した。ちょっと緊張が緩んだ気がする。気が楽になった。


「次のペア、準備してください」


 二人三脚を担当している先生からの合図だ。俺達のクラスの順番がやって来た。まずは、北上と南條ペアが出る。


「よし、行こう。北上くん」

「う、うん……!」


 北上と南條がスタート位置に立った。南條が自分と北上の足にベルトを巻き付ける。


「あ、あの、南條さん」

「どうしたの?」

「僕、出来る限りのことは頑張るから」

「あはは。意気込みすぎだよ、北上くん。もっと、気楽に。リラックスしていこ」


 いつの間にか、北上もすっかりやる気に満ちた顔になっていた。


「二人とも頑張ってね」

「ファイト」


 西宮と一緒に声援を送る。


「ゴールで待ってるよ」


 南條が頼もしく、堂々と答えた。北上も頷いている。そうして二人はスタートの合図とともに走り出した。

 二人三脚ではグラウンドを一周するとゴールになる。距離でいえば約四百メートルくらいだ。一緒に走るのは五クラス分。北上と南條はしっかり動きを合わせながら走っている。


「最初の頃とは動きがぜんぜんいいね」

「あの二人もなんだかんだいっぱい練習してたからな」


 二人三脚の練習もそうだが、南條が自分に慣れてもらうと北上と積極的にコミュニケーションを取っていた。そのおかげで北上も少しは南條に耐性らしきものが付いたのだろう。

 それでも、結果は二位だった。北上と南條に何か問題があったり、アクシデントが起こったとかじゃない。ただ、一緒に走っていたペアが一組だけ尋常じゃない速さだっただけ。たぶん、俺と西宮でもあそこまで速くは走れない。物凄く息があった二人だった。


「うー惜しかった。とっても惜しかったね」


 北上が南條に手を合わせている。勝てなくてごめん、と謝っているのだろう。そんな北上に南條は笑って背中を叩いていた。気にしてないよ、と励ましているんだと思う。こういう時、南條は相手を責めたりしないはずだ。というか、北上が責められる理由がないし。


「一位の二人が速すぎたんだ。あの二人、ヤバすぎる」

「でも、南條さんも北上くんもよく頑張ったよね」

「二位だからな。じゅうぶん凄いよ」

「だよね。あーん。でも、悔しい」


 その場で足をバタバタさせながら悔しがる西宮。鼻息も荒くしていて、本気で悔しそうにしている。自分のことのように悔しがれる西宮は本当にいい子だ。

 だからこそ、俺は西宮を勝たせて喜ばせてあげたい。けど、北上と南條のレースを見て気付いた。俺と西宮がどれだけ練習したって今みたいに他のクラスにとんでもない速さのペアがいるかもしれない。ますます不安になってきた。


「次のペア、準備してください」


 先生から呼ばれる。いよいよ、俺と西宮の番だ。スタート位置に並ぶと西宮がベルトを足に巻き付けてくれた。練習の時に使っていたタオルよりもベルトの方が結びがしっかりで西宮と足がぴったりくっつく。練習の時よりも密着度が増す。


「……デコボコペア過ぎんだろ」

「しかも、女子の方が大きいって珍しい」


 後ろからそんな声が聞こえた。相手は残っている三年生だ。西宮は目立つ存在だろうけど、こうして目の当たりにするとその大きさに驚くものなんだろう。

 いちいち言う必要ないだろ、と思って腹を立てていると西宮が腰に腕を回してきた。それから、ぐいっと西宮の方に力強く寄せられる。

 俺と西宮の間には指一本も通らないくらい隙間がない。俺の心臓が大きく跳ねた。驚いて西宮を見れば真っ直ぐ前を向いている。外野の声なんて気にしてないみたいに。


 西宮が集中してるんだ。俺も外野の声には耳を貸さないで集中しろ。西宮の腰に腕を回して体をくっつける。


「……東野くん、震えてる?」


 近付いたからか西宮に緊張が伝わってしまったらしい。


「西宮と一緒に勝ちたい。けど、そう思う度に勝てるかどうかって不安でな。緊張してるんだ」

「あれだけ練習しても勝負はすぐだもんね。相手にどれだけ速いペアがいるかも分からないんだし」


 どのペアを見渡してもみんな速そうに見える。


「だから、楽しもう。せっかく、東野くんと一緒に出来るんだからボクは楽しめないで終わる方が嫌だな。勝てるかどうかは二の次で」


 笑い掛けてくる西宮に緊張が緩む。真剣だったくせにこうやって気を緩められるとこっちまで気が抜けるというか。


「西宮のおかげで楽しめそうだ」

「楽しんでいこうね」


 スタートの合図と同時に俺と西宮は足を出した。練習通り、動きを合わせながら前に進んでいく。掛け声を合わせながらとにかく前へと足を出す。他のペアは気にしない。ただ、西宮と今この瞬間を楽しもう。楽しみたい。

 そうして夢中で走っていれば気が付けばゴールテープを切っていた。いつの間にか、グラウンドを一周走り終えていたらしい。

 え、もう終わりなのか。練習で走ってた距離も短い気がするんだけど。ああ、でも。足を止めたら息が上がってきた。肩で息をしてしまう。


「やった……やったよ、東野くん!」

「うええ」


 西宮に両肩に手を置かれた俺は前後に思い切り揺さぶられた。


「ボク達一位だよ!」


 いまいち現実感がない。一位。俺達が。確かに、ゴールテープを切ったのは俺達だ。そうか。勝ったのか。


「あれ、どうしたの?」

「いや、気付いたら終わってたし、勝てたってのも気付けてなくて呆然としてる」

「呆然としてても一位。一位だよ、ボク達が。んーーーー!」


 嬉しさのあまりか西宮が肩を組んできた。大喜びの様子だ。そんな西宮を見ていればだんだん受け止めが済んで現実を直視出来た。っし。勝ったああああ――って、近っ。近ぁっ!

 あまりの近さに顔が熱くなってきたぞ。離れてくれないかなあ。


「練習したかいがあったね」


 ずっと西宮は喜んだまま。俺も嬉しいけどさ。いつまで喜んでるんだ。冷静になる俺に対して西宮の熱は冷め切らないらしい。まるで、小さな子どもみたいだ。

 でも、そんな姿も俺には微笑ましく見えて。心の底から笑った。

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