15
西宮に可愛いと言ってみる。
そう南條と話してから既に数日が経った。未だに西宮に可愛いと言うことは出来ていない。南條が相手だと西宮のことを可愛いと言えたのに、いざ本人を前にするとどうしても言えなくなってしまう。
そもそも、西宮にどう可愛いって言えばいいのか分からない。顔か。仕草か。言動か。どれにしたって、いきなり言われたら西宮もびっくりするに決まってるだろう。タイミングも大事だ。
と、そんなことを考えては今じゃないとタイミングを逃し続けている。一応、可愛いと言いやすい状況を作れそうなアイテムを用意してるっちゃしてるんだけど。
「いつがいいかなあ」
「何が?」
「うお!?」
ぼんやりとしていたところに西宮から声を掛けられて椅子から落ちそうになる。どうにかバランスを取って耐えた。危ない危ない。
「ご、ごめんね。驚かせちゃった」
「いや、いいんだ。ぼんやりしてた俺が悪い。どうかしたの?」
「東野くんが難しい顔してたからどうしたのかなって」
「そんな顔してた?」
「うん。前みたいにラノベの内容でどんでん返しでも起こったのかと思ったよ。でも、違ったみたいだね」
俺の机に本らしき類の物が出ていないのを見ての判断だろう。
「何か悩み事? ボクでよかったら相談に乗るよ」
「優しいな、西宮は」
優しい。その一言に尽きる。けど、相談は出来ない。なかなか可愛いと伝えられない相手にどうすれば伝えられると思う、と聞くほど、俺は間抜けではない。
「けど、もうちょっとだけ一人で悩みたいから今はいいや。ありがとな」
「一人で悩む時間も大事だよね。でも、限界がきたらいつでも言ってね。力になれることがあれば力になるから」
ちょっとだけ残念そうにしながら、それでも、俺を尊重してくれる西宮。ニコニコと笑っていて、胸の中が温かい気持ちに包まれた。
「そう言ってくれるとスゲー助かる」
「東野くんの力になりたいからね」
腕を曲げて力こぶを叩く西宮。顔は得意気になっている。西宮の腕は細くて、手の下の力こぶなんて大してありもしないだろうに自分には力があると思っているんだろう。ちょっと間抜けで可愛らしい。
あ、今じゃないか。今なら西宮に可愛いって言えるんじゃないか。よし、言うぞ。
「西宮」
「ん?」
こてん、と首を傾げた西宮。背中まで伸びている髪がさらりと流れる。ひと言。たったひと言、可愛いと言うだけでいいのにこうして西宮を前にすると言葉が詰まる。
「あっ……っと。に、西宮って優しいからまるで天使だな」
くそ、ひよった。せっかくのチャンスだったのにひよった。てゆーか、俺ってそういう人間じゃん。女子としばらく話してなかっただけで、緊張するような人間じゃん。最近は西宮とたくさん喋ってるからマシになったって勘違いしてただけで、女の子本人に可愛いとか絶対言えなくね。むっず。マジむっず。
「え、天使?」
西宮も困ってる。こんなことなら余計なこと言わなきゃよかった。
「いや、ほら、西宮ってめちゃくちゃ優しいから。オタク脳だと天使みたいだなって」
「ん〜?」
「理解出来ないよな……変なこと言った」
「悪い気はしてないよ。褒めてくれてるんだと思うし」
「褒めてる。ちょー褒めてる。西宮天使」
とりあえず、悪口ではないと証明するために拍手しながらもう一度、言っておく。西宮は少し照れ臭そうにして、頬をかいた。
「ははは。西宮が天使ってそれはないだろー」
「東野、見る目ねーな。西宮は天使って見た目じゃないし」
「うちのクラスで天使といえば、南條さんみたいな女子だよな〜」
「そーそー。西宮が天使とか柄じゃねえ。そもそも男みたいなんだし。あ、そうだ。昨日やってた番組見た? めっちゃ可愛い子が出てて」
「え、名前は――」
俺達の会話を聞いていたのか、クラスの男子が通り際に笑いながら去って行った。さっきまで照れ臭そうにしていた西宮は顔を曇らせている。それもそのはずだ。はっきりと西宮は女の子じゃないと馬鹿にされたんだから。
「俺が余計なこと言ったからだ……ごめん」
「あはは。ボクなんかには不相応な言葉だったみたいだね。東野くんも例えで言ってくれただけなのにごめんね。馬鹿にされたみたいになって。今度からは南條さんとか、もっと似合う子に言ってあげて」
それでも、どうにか笑っている西宮。傷付いたのを必死に隠そうしているのだろう。
「俺、言わないから。西宮にしか言わないから」
「……やめておいた方がいいよ。また馬鹿にされるよ」
「そんなのどうでもいいよ。西宮が傷付くよりはぜんぜんいい」
「別に、傷付いてなんか……女の子扱いされないことなんて昔からだし、慣れてるから平気だよ」
慣れていても、やっぱり、悲しいものは悲しいはずだ。でないと、いきなり元気がなくなるはずがない。こんな西宮、あんまり見たくない。
「あのさ、西宮。今日の放課後、時間ある?」
「あるよ」
「じゃあさ、一緒に帰ろ」
「改まってどうしたの? 今日も二人三脚の練習するよね」
「うん。けど、ちゃんと約束しておきたくて」
「分かった。じゃ、一緒に帰ろっか」
二人三脚の練習をする日は西宮と一緒に帰る流れが自然と出来ている。だから、ちゃんと約束をするのは初めてで西宮は不思議そうにしていた。
周りが西宮を男扱いして、女の子としてを否定するなら俺だけは肯定し続けてやる。可愛いと言ってやる。もう、ひよってなんていられない。やってやる。
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