14
「西宮さんに聞いたんだけど、今日は二人三脚の練習しないって本当?」
放課後、帰る準備をしていた俺は南條から声を掛けられた。南條の側には北上もいる。
「今日は西宮が友達と遊ぶらしいからお休みだ」
「あれ、その相手って東野くんじゃないの?」
「俺じゃない」
今日、西宮は普段からよく話してるのを見掛ける田場達と四人で遊ぶらしい。西宮は俺にも一緒にどうって誘ってくれたけど、田場達からは無理だと言われた。
この前、俺も断ったし同じことをされても仕方がない。そもそも、田場達のことはよく知りもしないから遊ぶつもりもなかったんだけどな。
「じゃあ、東野くんはこれから暇?」
「特に用事はないけど」
「それじゃあ、私達の二人三脚見に来てよ。アドバイスとか欲しいし。ね?」
「うん。東野くんがいてくれた方が僕もありがたいな」
たぶん、北上は南條と二人きりだと緊張するからって理由でそう言ってるんだと思う。せっかく、今日はこの前買ったラノベを読破しようと考えてたけど、仕方がない。北上の気持ちが分からなくもないからな。
「分かった。けど、ちょっとしたら帰る」
「いーよいーよ。それで。じゃ、グラウンド行こ」
荷物を持って南條と北上と教室を出る。西宮がいない状況で二人とちゃんと話せるだろうか。ていうか、西宮がいないと話せないって何だよ。西宮は俺の保護者じゃないんだから。馬鹿だなあ。
「東野くん」
自分に呆れていると後ろから声を掛けられた。この声は振り返らなくても分かる。というか、俺に声を掛けてくれる女の子なんて一人しかいない。西宮だ。
振り返ってみれば案の定、西宮が立っていた。荷物を持っているのを見るところ、これから遊びに行くのだろう。
「東野くんも二人三脚の練習するの?」
「いや、俺はアドバイス欲しいって言われたから監督になってくる」
「……手取り足取り教える系?」
「指示出すだけの見守る系だ」
「そっか」
どういう訳か安心したように胸に手を当てている西宮。何が心配だったんだろう。あ、俺が変なこと教えて南條と北上の息がバラバラになることを想像してたのかも。俺の説明力不足を西宮はよく知ってるからな。
「しっかり監督として頑張ってね」
「この二人は俺が育てましたって威張れるように頑張るよ。目指せ、二人三脚世界最強」
「私達、そこまで目指してないから」
ツッコミを入れてくる南條に西宮が笑顔を浮かべた。楽しそうに笑っている西宮を見て、西宮も一緒なら今日だってもっと楽しくなるんだろうな、とぼんやり考える。
けど、西宮には西宮の予定がある。友達との交流だって西宮には大事な時間だ。俺がわがままを言っていい訳がない。
「おーい、西宮。いつまで話してるんだよ」
「ああ、ごめん。今、行く」
田場達が廊下を歩いて来た。西宮を呼びに来たようだ。
「また、明日ね」
「今日、楽しんでな」
「……うん」
じーっと西宮から見られる。早く行かなくていいのかと思っていれば、田場が西宮の手首を掴んで引っ張った。
「早く行こうぜ。俺達もう腹ペコなんだよ」
「う、うん。じゃあね」
手を振っていった西宮は四人で話し始めた。聞こえてきた会話の内容からラーメンを食べに行くらしい。
「ったくよぉ。あいつ、西宮の腕を掴みやがって。地獄に落ちろ」
「……急に何なの?」
俺の真後ろに立っていた南條が普段からは想像も出来ないような言葉を発した。
「東野くんの心の声を代弁してみた」
「俺、そんなこと思ってないけど」
「今の見て、何も思わなかったの?」
「ちょっとくらい待ってあげればいいのにとは思うけど、よっぽど腹が減ってたんだろう」
「はあ」
冷めた眼差しを南條から向けられる。呆れたようにため息もつかれたし、俺の回答が不満だったらしい。何も変なことを言ったつもりないのに。
「西宮さんも大変だね」
「ほんとだよな」
「どの口が言ってるの」
「だって、西宮って本当はあんまり食べる方じゃないのにさ、晩飯前にラーメンってお腹膨れるだろ」
「やっぱり、西宮さん大変だわ」
俺が心配していることを南條も理解してくれたらしい。やっぱり、女の子の中にも、たくさん食べる子とそうでない子がいるようだ。
「北上くん、もうちょっと早く動いてくれても大丈夫だよ。はい、いっちにーいっちにー」
「わ、分かった。これくらいで大丈夫?」
「うん、いい感じ」
南條と北上の二人三脚は最初の頃と比べれば随分と形になってきたと思う。転びそうになることも少なくなったし、かなり動けている。とはいえだ、北上の動きがまだぎこちなく見える。南條を相手にどこまで体に触れていいのか躊躇しているのだろう。
「ちょっと休憩。どうだった?」
「よくなってると思う」
「だって。やったね、北上くん」
「南條さんのおかげだよ。僕は何も……むしろ、足を引っ張ってる方だし」
「それは、北上くんが私を気遣ってくれてるからでしょ。もう少しくらい、密着されても私は大丈夫だよ」
南條は北上が自分のことを気にして、ぎこちない態度になっていると見抜いていたらしい。
「そ、そんなこと言われても、僕に密着されたりしたら嫌でしょ?」
「別に、二人三脚中なんだし、気にしないよ。それに、北上くんなら変なことされないと思うし」
「それはもちろん。ただでさえ、僕とペアで申し訳ないのに南條さんにこれ以上、不快なことは出来ないよ」
「卑屈だな〜。二人三脚をやりたかったし、相手はわりと誰でもよかったんだよ、私は。でも、北上くんが相手だからこそ、北上くんでよかったと思ってるよ今は。私のこと考えてくれてるなって伝わってくるし。だから、これくらいはいいんじゃない?」
「え、ちょっ」
南條が北上と隣り合う形で体をくっつけた。そのまま、北上の腰に腕を回して身を寄せるようにしている。
「はい、北上くんも私の腰に腕を回して」
「えっ。えっ」
「はい、早くー」
北上は手を当てもなく動かしていたが観念したようにゆっくりと南條の腰に腕を回した。顔は引きつっていてとても辛そうだ。南條ほど二人三脚の相手に立候補する男子が殺到していた女子を相手にする表情ではない気がする。
「ここまで近いと流石にちょっと気恥ずかしいね」
自分からしたとはいえ、南條も照れ臭そうにしている。それが、導火線に火をつけたのか北上が弾かれたようにして勢いよく距離を取った。
「ちょ、ちょっと飲み物買ってくる」
そして、逃げるように去って行った。
「ちょっとやり過ぎたかな」
「やり過ぎ。俺だってああなる」
「でも、東野くんと西宮さんだってあれくらいの距離でやってるでしょ」
「必死に耐えてるんだよ。俺も北上と同じで女子への免疫なんてないからな」
「そんなこと言うってことは東野くんは西宮さんのこと女の子だと思ってるんだ」
「思ってるも何も女の子だし」
「でも、男の子からも女の子からも西宮さんって男の子扱いされてるでしょ」
「それが、信じられないんだよな。あんなに可愛いのに」
西宮は顔も可愛いし、仕草も言動も可愛い。男子の中にも中性的な顔立ちで小動物のような、女子からすると可愛くて守ってあげたくなるような人もいる。どっちかといえば、北上がそんな感じだ。
けど、西宮のそれは女の子としてのものだと俺は思うし、見ていてそう感じるから西宮を男子扱いする連中は西宮の何を見てるのか不思議になる。
「あ、東野くんってそういうタイプなんだ」
「そういうタイプってどういうタイプ?」
南條が意外そうに口にした。俺は首を傾けた。
「女の子のこと可愛いって口にするタイプなんだと思って。東野くんのイメージってそういうこと言わなそうだったから意外」
「いや、南條の言う通りだよ。俺、そういうの言うタイプじゃないし。そもそも、女子と話すことじたい珍しいから」
「なのに、西宮さんには言うんだ」
「思っても口にしないだけで、心の中では思ってるよ」
「へえ〜」
南條が唇を綻ばせて、ニヤニヤしている。何も笑わせるようなことを言ったつもりはないんだけど。
「そもそも、疑問なんだよ。西宮のどこを見て男子扱いしてるんだろうって」
「身長でしょ」
「でも、背が大きいってだけで男子扱いしたりするか?」
「女の子であんなに背が大きいのは珍しいからね。それに、西宮さんって男の子と一緒にいるのが多いし」
「別に、西宮が誰と仲良くしたっていいだろうに」
「まあ、一番の問題は西宮さんだと思うよ。本気でやめてって言えばいいのに言ってないでしょ。性格的に難しいんだろうけど」
「案外、はっきり言うのな」
「けど、その通りでしょ。東野くんの言う通り、背が高くても、男の子と仲良くしてても西宮さんは女の子なんだから」
南條は西宮のことを女の子として見ている。だからこそ、言えることなのだろう。そして、ちゃんと的を得ているような気がした。
西宮がはっきりと嫌だと言えば、男子扱いされることも減るはずだ。でも、西宮自身が男子扱いされることに慣れて、何も言い出せずにいるから何も変わらない。
「だから、東野くんが西宮さんに女の子としての自信みたいなものを付けてあげたら。そしたら、西宮さんがはっきりやめてって言えるようになるかもしれないよ?」
「なんで、俺が」
「なんでって、東野くんが西宮さんのこと女の子として見てるからでしょ。ちゃんと可愛いって言ってあげてる?」
「二回だけあるけど、西宮は困ってた」
「もう、二回だけじゃなくて何回も言ってあげないと。っていうか、言ってるんだ……へえー。ま、それはおいといて、西宮さんは可愛いんでしょ?」
「そうだけど……なんで、俺なんだ。南條でもいいじゃん」
「馬鹿だね〜。私と東野くんじゃ東野くんが言ってあげた方が喜ぶに決まってるでしょ」
「そうなのか?」
「女の子ってそういうもんだよ」
「そうなのか……」
いまいち、ピンとこない。漫画やラノベの中ではヒロインに対して、可愛いと主人公が口にするシーンをいくつも読んできた。
確かに、ヒロインは可愛いと言われて頬を赤く染めていたけど、あれはフィクションだ。現実とは違う。実際に西宮がどんな反応をするかは不明だ。
「それに、東野くんが相手なら西宮さんも絶対に嬉しくなるよ」
いったい、南條は俺に何が出来ると思ってるんだろう。どこからそんな自信が湧いてくるのか。俺には荷が重いだけだ。
でも、もしも、西宮が男子扱いされて嫌だと言えた結果、西宮の男子扱いがなくなるなら、西宮は嬉しくなるんじゃないだろうか。西宮の幸せに繫がるならやってみたい。
「可愛い……可愛いね。よし」
「よしよし、やる気になってるね」
西宮が嫌な思いをしないように意識して、言ってみよう。そう決めた俺だった。改めて西宮に可愛いって伝えるのってこっちまで緊張するな。
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