13
西宮と南條が言い争っている。原因は分からないが西宮が南條に何か言われて反対しているっぽい。
それにしても、穏やかな西宮があんな風に言い争いをするのは珍しい。よっぽど嫌なことでも言われたのだろうか。
「け、喧嘩してる……?」
北上がハラハラした様子で呟いている。
「仲裁しにいくぞ」
「う、うん」
女子同士の言い争いに一人で割って入るのは恐ろしく北上を連れて西宮と南條の元へと向かった。
「どうどうどう。二人ともどうしたんだよ」
「どうしたもこうしたも二人三脚について意見を交換してるだけだよ」
「え、それだけで言い争いに……?」
「言い争いなんかしてないよ。西宮さんが否定ばっかりするから」
「だ、だって、ボクには本当に必要ないから」
「でも、よく考えたら私達だけで決めることでもないし、東野くんと北上くんにも考えてもらおうよ」
俺と北上は顔を見合わせて首を傾けた。
「さっきまで話してたのは、二人三脚のペアを入れ替えてみないってことなんだけど」
「俺と南條。西宮と北上ってこと?」
「そうそう。そっちの方が身長差が少ないし、バランスもいいから走りやすいんじゃないかなって思ってさ。今のままだと、身長差がお互い凄いでしょ」
言わずもがな、俺と西宮にはかなりの身長差がある。南條と北上も同じだ。南條が低くて、北上が大きい。俺と西宮くらい。もしかすると、それ以上に差があるかもしれない。
「だから、一回入れ替わって練習してみないって西宮さんにも提案してるんだけど、頑なに断られて。西宮さんにとっても、東野くんとより北上くんとの方が身長差が少なくなってやりやすくなるんじゃないかと思うんだけど」
南條の言う通り、俺は北上よりも背が低い。北上も西宮よりは低いとはいえ、俺とよりはかなりマシだ。そっちの方が西宮も走りやすくなる可能性はぜんぜんあると思う。
「二人はどう思う? 実際に入れ替わるかどうかは別として、練習してみる価値はあると思わない?」
「僕はどっちでもいいけど……」
誰よりも真っ先に北上が答えた。北上からすれば男子扱いしている西宮との方が南條とよりも緊張しないで済むとでも思っているのだろう。西宮とだってめちゃくちゃ緊張するってのに。
「東野くんは?」
南條が聞いてきた。
「俺は」
「だ、ダメっ!」
答える前に西宮が俺の腕を掴んで引っ張った。そのせいで、西宮の元へと引き寄せられる。そのまま西宮は俺の腕に腕を回して体を密着させてきた。
「東野くんはボクとペアだから……!」
西宮の体の色々な部分が腕に触れる。その柔らかい感触に心臓の動きが異様なほど速くなっていた。
けど、西宮の気持ちを聞いて頭だけは冷静になれた。今の西宮はまるで小さい子がお気に入りのおもちゃを誰にも取られないように必死に守っているみたいだ。
そんな風に言ってもらえて俺が西宮を引き離すことなんて出来るはずがなかった。
「せっかくの話だけど、俺もペアはこのままがいいと思ってる。南條の言ってることも一理あるとは思うけどさ、例え身長差があったって俺と西宮は練習で補えてるし、南條と北上も大丈夫だよ。それに、俺はこれまでの西宮との時間をなかったことにしたくない」
西宮の大胆な行動に南條も目を丸くして驚いていたがその目を閉じて、首を横に振った。
「そっか。確かに、そうだよね。二人は練習して息ぴったりになったんだし。私達も当日までたくさん練習して合わせるようになろっか」
「う、うん」
「ってことで、ごめんね西宮さん。しつこく言ったりして」
西宮が俺から勢いよく離れた。それから、手を必死に振る。
「ううん、そんなことないよ。南條さんはボクのためも思っての提案だったし」
「東野くんはとらないから安心してね」
「あっ!? な、何のことかよく」
「それにしても、西宮さんってそうなんだね。ふーん」
ニヤニヤしながら南條が西宮を詰め寄る。西宮は頬を真っ赤にして俯いた。南條と比べて西宮はずっと背が大きいのに今はなんだか小さく見える。
「嫌がらせはそこまでにしてくれ」
「え、嫌がらせじゃないよ。そうなんだ〜って思って」
どうやら、南條は西宮に対して酷いことはしてないらしい。それなら、西宮がこんな風になるはずがないと思うんだけど、女子同士の関わりはよく分からない。というか、さっきから南條が俺までニヤニヤしながら見てくる。いったい、何なんだ。
「西宮、大丈夫か?」
「……うん。ボクは平気」
「あ、疑ってるな〜?」
「そりゃ、西宮が心配だし」
友達が嫌な思いをしていたら、何か力になれないかって思うのは当然だろ。と思うんだが、南條から拍手された。意味が分からん。もしかすると、相手が西宮だから特別視してるって見抜かれているのかもしれない。女子って鋭いらしいし。
「なんか、二人のこと初めて知った気がする。こんなに話したのも初めてだもんね」
「それは、そうだな」
二人三脚がなかったら南條と北上とは一言も話すことがないまま、クラスが替わることもあっただろう。
「また、一緒に練習しようよ」
「西宮の許可を取ってからにしてくれ」
「いいよね、西宮さん。ちゃんと二人三脚の練習するから。それに、西宮さんともっと話したいし」
南條が西宮に向かって手を差し出した。握手をしようとしているようだ。その顔はニコニコと人当たりのいい笑顔を浮かべていて、西宮と仲良くしたいってのが伝わってくる。
「からかうのはほどほどにしてね。慣れてないから」
「本当に嫌なことはしないよ。それに、本当に嫌だったら言ってくれて大丈夫だから。私、反省出来る子だし」
どんな会話だよ、と思いながら西宮と南條が握手をするところを見ていた。
「南條のこと、無理したりしてない?」
二人三脚の練習が終わって西宮と帰っている時、聞いてみた。わりと西宮は自分の気持ちを押し殺して飲み込んでしまう方だと思うから、さっきも無理をしてるんじゃないかと思ったんだ。
「ううん、そんなことないよ。女の子の友達って多くないからボクも仲良くなりたいし」
「女子の友達もいるじゃん」
「話す子はいるけど、東野くんみたいに一緒に帰ったりまでする相手はいないよ」
「そうなんだ」
「男の子といる方が多いしね」
「じゃあ、南條とは仲良くなれたらいいな」
「うん」
西宮が無理してないなら俺に出る幕なんてない。無理してたって俺に何が出来たのかは不明だけど。
「それよりも、東野くんはよかった? 二人三脚の相手がボクで。南條さんの言う通り、身長差が少ない方がやりやすいとかない?」
「それは、やってみないと分かんないけど、俺は西宮とするつもりだったから最初から断るつもりだったよ」
「そっか」
「それに、西宮からあんなにも気持ちをぶつけられたらペア解消なんて出来ないだろ」
「あ、あれは、東野くんに南條さんのペアになってほしくなかったから……め、迷惑じゃなかった?」
「ぜんぜん」
「よかった。ふふ。恥ずかしいや」
西宮が手で顔を扇いでいる。照れ臭くなったのだろう。夕日も混じって頬が少し赤くなっている。パタパタ扇いでるのが可愛いな……ん。何か西宮からいい匂いがする。
「鼻をすんすんさせてどうし――あ、ボク臭い?」
焦ったように西宮が自分の腕を鼻に近付ける。制服に着替えてるとはいえ、少し前から衣替えの時期で西宮も俺も半袖で肌が出ている。運動の後だから汗臭いと勘違いしてしまったようだ。
「違うから安心してくれ。西宮からいい匂いがしたから何だろうと思って……って、嗅いでる時点でキモいな。色々とごめん」
「そうだったんだ。てっきり、臭いと思われたから安心したよ。東野くんはこの香り、好き?」
「嗅いでて安心する」
「じゃあ、これあげる」
「汗ふきシート?」
「そう」
「ありがとう」
せっかく、貰ったから腕や首などを拭いていく。汗ふきシートのひんやりした感触が肌に浸透して気持ちがいい。
しっかし、汗対策に汗ふきシートを使うなんて女の子って感じる。俺なんて気にもしてなかったし。
「ボクとお揃いだね」
「そ、そうだな」
何てことはない、肌からただ同じ香りがしているだけ。なのに、西宮から言われて俺はやたらと意識して、ドキドキしてしまっていた。
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