3:ディヤメント王太子
アマリリスは12歳になった。
兄2人とはたまに会うが、基本的に王族としての勉強とかもなく変わらず放置されて穏やかに過ごしていた。
王宮の図書館へは積極的に通い、いろいろな本を読んだ。
だから独学で偏った知識がついていた。
最近はジョージおじいさんにガーデニングを教えてもらい、大好きな噴水のある庭の周りを花でたくさん彩ることを楽しんでいた。
またこの離宮には小さなキッチンがあり、サラに教えてもらいながら簡単なお菓子を作ったりしていた。
と、とても王族らしくない生活をしていた。
ある日、いつものようにお気に入りのカゼボに向かっていた。
シアンに会ったあの場所だ。
アマリリスは辛い時や悲しい時、よくガゼボに出向いてシアンとの暖かい思い出にひたっていた。
最近気付いてきたのだが、離宮や王宮の外には一定間隔で衛兵が配置されており、さりげなくアマリリスの護衛をしているようだった。
護衛たちの守備範囲があるのだろう。
アマリリスが移動すると担当地区の護衛の雰囲気がなんとなくピリッとしたものに変わる。
なぜ気付いたかと言うと、アマリリスが庭で転けた時の出来事がきっかけだった。
どこからともなく護衛が3人ぐらい掛けより助けおこしてアマリリスの状態を確認するとササッと離れて行ったのだ。
園庭で会う上位貴族や、自分の兄弟などはいつも近くに専属の近衛の姿がある。
アマリリスは自分には付けてくれないのだろうなぁとぼんやり思った。
シアンとの約束はどうなるんだろう?
本当に近衛になってくれるのかな?
待ってていいのかな??
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けれど、幼い子供同士の口約束だし、もう忘れているかしら。
アマリリスはそう考えるたび、胸が痛んだ。
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アマリリスがガゼボが見える場所まで着くと先客がいるようだった。
離れた所に護衛や侍女の姿が見えた。
あのアマリリスお気に入りの椅子に誰かお偉いさんがいるのだろう。
アマリリスは好奇心が湧いてきて、誰が座っているのかチラッと覗いてみようと思った。
アマリリスのお気に入りの場所で他の人はどのように過ごしているのだろう?という単純な好奇心だった。
アマリリスは自分の低い背丈を隠してくれる茂みを通り抜け、垣根と垣根の間をソロソロと進んだ。
そうすると姿を隠したままあのベンチの後ろ近くまで移動できた。
「ディヤメント、あなたは次期国王になるのですよ。そんなことを言ってはいけません」
凛とした女性の声が聞こえた。
「母上……ですが私は王の器ではございません」
なんだか弱々しい男の人の声が聞こえた。
(この声は、えーっと、えーっと…… )
アマリリスは必死に記憶をたどりながら少し背伸びをして垣根の向こう側を覗いた。
「!!」
そして急いでしゃがんだ。
王太子である1番上の兄とその母親である王妃様がいらっしゃった。
(これ、聞いちゃダメな話しだわ)
アマリリスはどうにかここを去ろうと思ったが、動き出した時に見つかったらという不安で上手く動けそうに無かった。
結局、しゃがみ込んだまま全てを聞いてしまった。
王太子であるディヤメントは本当は国王なんかになりたくなく、始終母親である王妃様が叱咤していた。
しばらくすると2人の会話も終わり、人の気配も無くなったのでホッとして顔を上げるとディヤメントお兄様が1人残っていた。
そして垣根の向こうからこちらを覗き込んでいる。
「こんな所に迷い込んだ猫がいる」
ディヤメントお兄様は笑いながらひょいとアマリリスを抱き上げた。
「えっ? えっ?」
アマリリスはお姫様抱っこをされ、どこかに連れていかれた。
「王太子様……」
抱っこされたままアマリリスはつぶやくように話しかけた。
「悲しいなぁ。昔は〝おにいたま〟って呼んでくれていたのに」
ディヤメントお兄様は人懐っこい笑顔を浮かべた。
フワフワの白銀にも見える淡い金髪に赤い瞳。
アマリリスより7歳年上のハズなのに、幼い顔立ちのためか、もっと歳が近く感じた。
フニャっとしてホワっとした雰囲気で、なるほど王様に向いてないかも……とアマリリスでも思った。
「あの、じゃぁディヤメントお兄様?」
「なんだい?」
「どこに行っているんですか?」
アマリリスは首を傾げながらディヤメントお兄様を見上げた。
「久しぶりに会えたんだから、僕専用の園庭に招待するよ」
ディヤメントお兄様はそう言って妖艶に笑った。
何か悪巧みをしているような笑顔。
そして「少しぐらい言いつけを破っても……」とか何とか独り言が聞こえた。
「あ、あの! 良かったらアマリリスの離宮の園庭に来ませんか? 今朝作ったリンゴのタルトもあります!」
アマリリスはさっき聞いてはいけない話しを聞いてしまったので、身の危険を感じた。
ディヤメントお兄様のテリトリーに入ってはいけない! そう危険信号が鳴っている。
それでアマリリスは一生懸命自分の離宮に誘った。
「それはもしかしてアマリリスが作ったの?」
「はいっ!」
「じゃぁ離宮に行こうか。楽しみだなぁ」
お兄様はフニャっと人懐っこい笑顔を浮かべ、進む方向を離宮に変えてくれた。
アマリリスはホッとして体の力を抜いた。
結局、離宮まで抱っこされたままで帰ってきたアマリリスを見たサラは、セットでいる王太子を見て青ざめながらもお茶会のセッティングをしてくれた。
「……どうぞ」
アマリリスは自分で作ったリンゴのタルトを自ら切り分けてお兄様の前に出した。
「ありがとう。アマリリスも座って一緒に食べよう」
ディヤメントお兄様はアマリリスに優しくしてくれた。
お茶会の作法が完璧ではないアマリリスを笑ったりはしなかった。
護衛たちも少し遠のいた所で見守ってくれている。
「ここは良いところだね。庭の感じも落ち着くし、アマリリスのタルトも絶品だし」
「……ありがとうございます」
アマリリスは自分がしたことを褒められたことが嬉しくて赤くなった。
「これからもたまに来ていい?」
ディヤメントお兄様が人懐っこい笑顔を浮かべ、首をかしげて聞いてくる。
「はい……」
アマリリスは思わず頷いたが、その後でもしかして監視かも……と不安に包まれた。
結局、それ以降もたまにフラッと離宮に訪れて和やかにお茶をしていった。
たまに王太子教育について愚痴を言ったり「ここでのんびり暮らしたい……」と言うたびに緊張が走ったが、それも慣れてくると王様になるのも大変なんだなぁという労りの気持ちが強くなった。
でもそれと同時に王族である自分が何もしてないので、まるで必要無いと言われているようで少し悲しかった。
それでついアマリリスは、王太子教育に愚痴を言うディヤメントお兄様に冗談を言った。
「……アマリリスがお兄様と変わりましょうか?」
アマリリスは労りの気持ちもこめてニッコリ笑う。
「フフッ。じゃぁアマリリスが王女になったら僕はここから離れて穏やかな所でのんびり暮らせるね」
ディヤメントお兄様は優しくアマリリスの頭を撫でてくれた。




