2:第二王子ジェイド・第三王子クレイ
前作である
『【闇】が深い王女の愛が重すぎてゾクゾクするんですけど!』を先に読んでいただいた方が楽しめると思います。
完結まで書き溜めているお話です。
母が死んでから5年が過ぎ、アマリリスはもう少しで10歳になろうとしていた。
暮らしは何も変わっておらず、サラとジョージおじいさんとゆったり穏やかな日々を過ごしていた。
アマリリスはシアンと喋った日から物語に興味を持ち、王宮の図書館に出向くようになった。
ここは貴族なら誰でも使用出来るようで、受付で身元を確認されると中に入ることが出来る。
アマリリスは一応王族のためか顔パスで通ることが出来た。
あの日シアンが語ってくれたお話は、どうやら神話を元にした物で昔から広く知れ渡っているものだった。
各地で話の一部が変わっていたり登場人物が増えていたりと様々だが、それを少し前にスタンダードなものをまとめた人が居てそれが本になっていた。
アマリリスは神話も勉強した。
〝サンカトルの深い海の底から
エダベティオスの星々を引き裂く程の光を放つ
女神フィロディアが誕生した〟
この一節は特に人々から愛されており、街にある教会はこの女神フィロディアを信仰しているものらしい。
教会にいつか行ってみたかったが、アマリリスは王宮から出ることは出来なかった。
淡い夢だった。
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ある日、いつものように離宮のテラスでのんびりしていたら、突然の訪問者が現れた。
一応、王族の端くれであるアマリリスの元に前触れもなくフラッと来ることは大変失礼なのだが。
「やぁ」
明るい茶髪に緑色の目をした、顔立ちが妙に整った男の人が立っていた。
「?」
アマリリスは誰か分からず首をかしげた。
「あれ? 覚えてない? 君の兄のジェイドだよ」
男の人はそう言って無遠慮にアマリリスの隣の席に座った。
アマリリスは近くに立っていたサラに戸惑いの表情を向けた。
「本当でございます」
サラはアマリリスを安心させるかのように、ゆっくりと頷く。
「会ったことあるかしら……お母様が亡くなる前に会っていても覚えてないわ」
アマリリスは正直に、ジェイドと名乗る兄に伝えた。
「それは寂しいなぁ」
ジェイドは少し肩をすくめた。
「それで、何かご用ですか?」
「君が引きこもっていると聞いてさ、ちょっとは運動しないとと思って」
「……」
アマリリスは好きで引きこもっている訳では無い。
王族の役目を与えられてないから、することが無いだけだ。
アマリリスは思わず不機嫌な表情をした。
「フフッ。手始めに王宮を案内してあげよう」
ジェイドはそう言って手を差し出す。
「……?」
アマリリスは何か分からず首を傾げた。
「ほら、エスコートだよ。分からないのかい?」
ジェイドは本当に驚いたようで目をわずかに見開いた。
「……」
アマリリスは悔しくって、真っ赤になりながら俯いた。
「アハハ! 教えてあげる。僕の手を取って。そう、それで立ち上がって」
ジェイドは何が楽しいのか、ニコニコ笑いながらアマリリスに教え始めた。
アマリリスはますますバカにされたようで不貞腐れた。
高揚させた頬を少し膨らませてジェイドをちょっぴり睨む。
「!! ……アハハハハ!!」
ジェイドは何かがツボにハマったらしく、大声で笑いだした。
王族らしくない振る舞いだったのか、近くの侍従に嗜められていた。
「くふふッ。じゃぁ行こっか」
ジェイドは上機嫌で歩き出した。
アマリリスは慌てて足を動かした。
それから、なかばジェイドに引っ張られながら歩き、王宮内を案内された。
アマリリスにとってはボンヤリとは覚えているものの、何年も足を踏み入れていない所だ。
しかも王宮の外である園庭とは違い、すれ違う従者達がジェイドとアマリリスに気付くと深々と礼をする。
もしかしたら、ジェイドに対してだけの礼かもしれないがアマリリスは緊張した。
思わずジェイドの腕をギュっと握ってしまう。
そんなアマリリスの様子も可笑しいのかジェイドはニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「兄様、楽しそうに何をしているんだ?」
そんな時にジェイドによく似た男の子に話しかけられた。
茶髪に緑色の目、顔立ちもよく似ている。
けどジェイドよりは幼い。
「クレイか、アマリリスと散歩してるんだよ」
ジェイドがそう答えた男の子はクレイと言うそうだ。
ジェイドのことを兄と呼んでいたし、弟なのかしら?
じゃぁきっと私の兄なのね。
覚えてないわ。
アマリリスはそっとクレイの様子をうかがった。
クレイもジェイドの影に隠れているアマリリスを見る。
「……誰?」
クレイがそう言いながらジェイドを見る。
「妹のアマリリスだよ」
「妹はメルだけじゃないのか?」
そう言ってクレイが怪訝そうな顔でアマリリスを見た。
メル……エスメルお姉様のことかしら。
アマリリスより1つ年上の姉で、王太子とエスメルお姉様は王妃様の子だ。
アマリリスは年が近く同性のためか、母が生きている時にエスメルお姉様とは会う機会が度々あった。
どの時も挨拶するぐらいで終わっていたけれど。
あっ!挨拶!
「こんにちは、クレイ様。アマリリスと申します」
アマリリスは記憶の彼方にあるカテーシーの仕方を必死に思い出して何とか挨拶をした。
母が生きていた頃にマナーの教育を少しだけ受けており、エスメルお姉様に会った時にもカテーシーをしていたのを思い出したのだ。
顔を上げるとジェイドがアマリリスの耳元でささやいた。
「……カテーシーは出来るんだね」
「!!」
アマリリスは真っ赤になってジェイドを見た。
ジェイドは相変わらず堪えられないというように笑みを浮かべている。
「お、俺はクレイ。お前が妹だなんて認めない。俺の妹はメルだけだ!」
ジェイドに怒っていたアマリリスは、クレイの言葉を聞いて途端に悲しくなった。
面と向かって言われる罵倒は初めてだ。
目の奥がツンと痛くなった時
〝泣きたい時こそ笑いなさい〟
という母の言葉が頭の中によみがえる。
アマリリスは少しあごを引き相手をしっかりと見据え口に笑みを浮べた。
その笑みは相手を少し挑発しているようにも見えた。
「!!」
クレイのさっきの発言は初めて聞いた妹の存在に動揺してしまったからだった。
ちょっと悪いことをしたと罪悪感を感じているところに、余裕の笑みを自分より幼い女の子に浮かべられて狼狽えた。
「さぁアマリリス、今度はあっちに行こうか」
ジェイドがそっとアマリリスの手を引いた。
「ど、どこ行くんだ?」
慌ててクレイが2人を止める。
「あっちのサロンに行って休憩するんだよ」
「俺もいく!」
移動しだしたアマリリスたちにクレイも付いてきた。
アマリリスはジェイドにもクレイにも良い感情を持っておらず、あんまり3人で過ごしたく無いんだけど……と心の中でため息をついた。
第二王子のジェイドはアマリリスより4歳年上の基本優しい兄だった。
基本態度は紳士的だし。
ただアマリリスをからかって遊ぶのが好きになったらしく、アマリリスは真っ赤になってプルプルして睨むことが多かった。
第三王子のクレイは3歳年上のちょっと乱暴な兄だった。
剣の訓練が好きらしく、アマリリスが引き篭もりだと聞くと「鍛えてやる!」と言って騎士の訓練場に連れていかれそうになった。
その時はたまらず半泣きになってジェイドにしがみ付いた。
頭上からジェイドの笑い声が聞こえていた気がする。
そしてクレイは何かと突っかかってくる。
特に妹にあたるエスメルを可愛がっているらしく「メルはピアノがとても上手なんだぞ!」とかアマリリスに事あるごとに自慢してきた。
アマリリスはそのたびに自分との境遇を比べて悲しくなってしまうのだが、笑顔を浮かべる努力をした。
2人の兄とは何かと会うことが多くなった。
嫌われてはなさそう……と思い、少し騒がしくなった日常をアマリリスなりに楽しく思っていた。
ある時、ジェイドとクレイに連れられて王宮内の国宝庫に来た。
宝石や剣といった物から古い書物まである。
眺めるているには楽しい空間だった。
「こんな所に格好いい短剣があるぜ!?」
クレイが国宝である短剣の鞘を外して振り回し始めた。
「こんな所で振り回しちゃ危ないぞ」
ジェイドがはしゃいでいるクレイを戒める。
「あっ……」
その時、クレイの手から剣が落ちた。
グリップ部分だけがクレイの手に残る。
「……双剣?」
クレイが両端が刃の形状になった剣を慎重に持ち上げた。
「ここに何か書いてある……古い文字過ぎて読めないわ」
アマリリスが刃の一部に何か文字が書いてあるのを見つけた。
「うーん……前に王宮図書館の本で見たことあるような……」
アマリリスは首をかしげた。
思い出せるようで思い出せない。
何て書いてあったのかを。
なぜだかその宝剣がとても気になった。
「そんなに気になるなら、持って帰って調べていいよ」
ジェイドが困っている様子のアマリリスに優しく言ってくれた。
「……でも……」
アマリリスは困惑の表情を浮かべた。
「大丈夫。国宝庫にあるけれど、滅多に使われない物だし、いつか返してくれたらいいよ。ケガしないように持って帰ってね」
アマリリスはコクリと頷いた。
そうして時間が過ぎると、ジェイドはアマリリスを離宮まで送ってくれた。
いつもこの時間は寂しくなる。
ジェイドとクレイは王宮に住んでおり、自分だけが離宮に帰る現実を突きつけられる。
なんで私だけ離されて住んでいるのかしら。
答えは頭の片隅では分かっていた。
ーー捨てられた王族ーー
アマリリスはその考えを追い払うように頭を振り、悲しい気持ちにフタをした。




