4:第四王女エスメル
アマリリスは変わらない日々を過ごし、16歳になっていた。
相変わらず離宮で暮らし、王族らしいことは何一つせず、好きなように日々を過ごしていた。
もうこの歳になると悲しさ半分、開き直り半分といった気持ちだった。
今日は離宮の庭のお花のお世話をしていたので、髪を1つにくくりズボンを履いていた。
離宮の近くだけだし、ちょっとラフすぎる格好だけど大丈夫かなと思いながら過ごしていると、そんな時に限ってエスメルお姉様に会ってしまった。
「…………アマリリス?」
エスメルお姉様は目を少し見開いて驚いていた。
「……はい」
アマリリスは何でこんな格好の時に会うのかしら?と涙目になりながらうつむいた。
エスメルお姉様はディヤメントお兄様と兄妹だけあり、ふわふわの白銀のような淡い金髪と赤い瞳を持つ美少女だ。
ディヤメントお兄様と目だけは似ておらず、少し吊り上がった猫目で意思の強さを感じる。
豊かな長い髪は綺麗に結い上げられていた。
そんな美しいエスメルお姉様はアマリリスを上から下までじっくり眺め
「今からお茶でもどうかしら?」
と優雅に微笑んだ。
そしてアマリリスの手を取って、ズンズンどこかへ歩いていく。
「あ、あのっ。着替えたいのですが?」
アマリリスは足がもつれて転ばないように必死で足を動かしながらしゃべった。
「大丈夫です。むしろ今のままが良くってよ」
エスメルお姉様はニッコリ微笑んだ。
けれど目つきがするどくってアマリリスは余計に怯えた。
ディヤメントお兄様と同じものを感じる!
強引にどこかに連れて行こうとする所も同じだわ!
アマリリスは途端に逃げたくなった。
けれど、エスメルお姉様に憧れを抱いており話をしてみたい気持ちも強く、つないでくれた手を振り解くことは最後まで出来なかった。
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「あなた、その格好似合うわね」
優雅で無駄の無い仕草でお茶を飲むエスメルお姉様がアマリリスを見ながら言った。
これは貴族的嫌味なのかしら?
アマリリスは喜んでいいのか分からず曖昧に笑みを浮かべていた。
エスメルお姉様とアマリリスは、王宮内の園庭で紅茶を飲んでいた。
アマリリスも緊張しながらカップを持ち上げ紅茶を口に含む。
「わたくし、確信いたしましたわ。やはり男性は可愛らしい方が好みですわ」
「?」
エスメルお姉様は何やら少し興奮気味に語り出した。
エスメルお姉様は夜会の時にいろいろな男性に声をかけられるのだけど、どのお方にも心が動かないらしい。
けれどアマリリスの男装(?)姿を見た時に〝自分の男性の理想像はこれだっ!〟と感じたそうだ。
……つまり中性的な線の細い男性が好みらしい。
「それは……ディヤメントお兄様みたいな男性がいいってことですか?」
アマリリスはおそるおそる聞いてみた。
「……考えてもみなかったけれど、そういうことになるわね。……なんだか嫌」
エスメルお姉様が笑顔を無くしてそう言った。
「お兄様は嫌いじゃないのだけど、お兄様みたいな男性が好みってお兄様大好きみたいで嫌ですわ」
「で、でも好みがハッキリ分かったなら次の夜会で探してみればいいですし、素敵な人が見つかるかもですね」
アマリリスは考えられる範囲で精一杯フォローした。
そもそもアマリリスは夜会に出たことがないので、どんなものか今いちピンとこないのだが、予想で必死に喋った。
エスメルお姉様は17歳だから結婚相手を探しているのかしら?
王族だから政略結婚のハズなのだけど、詳しく聞いてもいいお話なのかな?
エスメルお姉様は縁をつないで王族の役目を果たそうとしているんだろうなぁ。
……私は?
私は将来どうなるのかな……
「アマリリスはどんな男性が好みなの?」
少し塞ぎ込んだアマリリスを察して、エスメルお姉様は話題を変えた。
「……えっ? それは、そのぉ」
アマリリスはとっさにシアンの顔を思い浮かべた。
自分にとっては、かけがえのない思い出。
けれど最近は〝自分の近衛になってくれる話は王族である自分に対するリップサービスだろうな〟という諦めから、あまり考えないでいた。
「優しくて、私を守ってくれるような強い人がいいです」
アマリリスは顔を真っ赤にしながらしゃべった。
「あら? 何だかもう想っている人がいるのかしら?」
エルメスお姉様は扇で口元を隠し、クスクス楽しそうに笑った。
洗練された美しい所作と可愛らしい顔立ちで思わずポーッとしてしまう。
お姉様は本当に綺麗だわ。
アマリリスはほうっと感嘆のため息をもらした。
「……で、詳しく話してくれるかしら?」
次の瞬間、本気になったエスメルお姉様の目線に射抜かれた。
「えっ? えっ?」
「アマリリスの想い人はどこの誰かしら?」
このあと、幼い頃の淡い思い出を根掘り葉掘り聞かれた。
どうやらエスメルお姉様は恋愛話が大好きなようで「素敵じゃない! まさに姫と騎士ね!」と興奮していた。
「でも、今護衛がついていない私に近衛がつくのでしょうか?」
アマリリスは勇気を出して聞いてみた。
兄姉と話す時は自分だけが違う境遇のことを言わないように気をつけていた。
けれど、エスメルお姉様が以外にも話しやすく答えてくれそうに感じたからだった。
「……うーん。アマリリス、あなたは離宮に住んでいる理由を知ってて?」
「……いいえ」
「実はわたくしもよく知らないの。けど、あなたのお母様が亡くなってから長い間、わたくしたち兄姉はあなたに会ってはダメって言われていたの」
「えっ?」
アマリリスは目を見開いてエスメルお姉様の目を見つめた。
「……誰に……ですか?」
アマリリスは声を絞り出すようにしゃべった。
「私たちのお父様よ」
エスメルお姉様は、真っ直ぐな視線をよこしたまましゃべった。
「……お父様は……私のことが……」
ーー嫌いなんでしょうか?ーー
アマリリスはそう続けたかったが、涙をこらえるためにしゃべれなくなった。
「……お父様は何か事情があると思いますわ。あなたがよく着ているドレス、すごく上等なものよ。お父様がくださったのでしょう? 王家の紋章も入っていると思いますわ」
エスメルお姉様は優しくそう言うと、そっとアマリリスの手に自分の手を重ねてくれた。
「……」
アマリリスは毎年誕生日にお父様から贈られているドレスを思い浮かべた。
今日は男の子のようなズボンだか、お父様から贈られたドレスをやっぱりよく着てしまっていた。
エスメルお姉様がたまに自分を見かけてくれていたのも嬉しかった。
でも、なんで私だけ離宮で住んでいるのだろう。
兄姉たちは確かにお母様が亡くなって5年ぐらいは会えなかった。
私は王族らしいことを何もしていない。
放っておかれてるのか。
忘れられているのか。
飼い殺されているのか。
「そうだわ、来週他国の来賓も含めた大きな夜会がありますの。その前のガーデンパーティにアマリリスも参加しましょう」
エスメルお姉様がパァっと明るい顔をして、両手をパンと合わせた。
「えっ……パーティですか? 私出たことないし、マナーもなっていません」
「大丈夫ですわよ。お庭でフランクに飲んだりお菓子を摘んだりするだけですもの。少し遅れて来たら挨拶も終わっているわたくしの近くにいらっしゃいな。せっかく可愛らしい妹ですもの、少しくらい見せびらかしましょう」
エスメルお姉様はそういうと、アマリリスの返事も聞かずにメイドと何やら打ち合わせをして段取りを決めてしまった。
「いいですか、この日のこの時間にわたくしの部屋に来るんですよ」
その日のお茶会は満面の笑みのエスメルお姉様に見送られて終わりを告げた。




