特別章2‐2 人見知りな私と1枚の写真
「そうだ、汐先輩。今度あたしも『Wonder Land』ってお店に連れて行ってくださいよ。陸だけ行ってるのに、あたしだけ行ってないのってズルいと思います」
放課後、いつものように3人で集まって備品を整理していると、唐突に華恋ちゃんが私にそう言って来ました。
『おう、いいぜ! なんなら、今日行ってみるか!』
なので、私の代わりにブルースが返事をすると、華恋ちゃんは嬉しそうに「やったぁ!」と言ってくれたので、何だか私も嬉しくなりました。
華恋ちゃんの前でも、ブルースが『Wonder Land』のことを話題に出すので、興味を持ってくれたのかもしれません。
これがサブリミナル効果というやつでしょうか?
多分違うと思いますけど、そういうことにしておきましょう。
「というわけで、陸。片づけはちゃっちゃと済ませるわよ」
「いや、さっきから片付けやってるの僕と汐先輩なんだけど……」
「そ、そんなことないわよ! ね、汐先輩!」
うーん、どうだろう。
正確には、陸くんが棚を整理してくれているのを、私が備品の在庫数をチェックしているという感じで、華恋ちゃんはまぁ……現場監督? みたいな感じでしょうか?
「ちょ……汐先輩の沈黙がいつも以上に刺さる……ううっ……」
と、華恋ちゃんは必要以上に落ち込んでいるようでした。
いけない、いけない。
どうやら、いつもの沈黙が意味深なものになってしまったようです。
ここは先輩として、ちゃんとフォローをしなくては。
『嬢ちゃん。何事も適材適所ってやつだ。ほら、この前、棚を整理しようとしたら逆に散らかしちまっただろ? だが、そのおかげでこうして備品整理をしておかなきゃいけないって、こいつに思い知らせたんだから、凄い才能だぜ!』
「……それ、褒めてるの、ブルース?」
褒めてる褒めてる。
私の中では拍手喝采ものです。
「……まぁ、そういうことならいいんですけど」
「そうそう、だから華恋は大人しくしておいてね? 片づけるの全部僕の仕事になるし……」
「あんたには言われたくないわよ! 陸の馬鹿っ!」
「だから、何で僕のときだけそんなに噛みついてくるんだよ!?」
こうして、しばらくは陸くんと華恋ちゃんの声が部室中に響く、とても平和な時間が始まります。
でも、ついこの間までは、そんなこともなかったんです。
色々あって、華恋ちゃんは陸くんともあまり話せなくなって、心配した私が声をかけたときも、全然元気がありませんでした。
陸くんも陸くんで、ずっと私たちに気を遣っている感じで、萎縮していたようでした。
私も、なんとかその雰囲気を充満させないために、ブルースと一緒に渾身の話術で場を盛り上げたのですが、駄目でした。
もうめっちゃ滑ってました。
思い出すだけで恥ずかしい黒歴史です。
詳細は私の口から話すべきではないと思いますので、ここでは割愛させて頂きます。
まぁ、そんな私の苦労が実ったのかどうかは分かりませんが、ちゃんと仲直りはできたみたいです。
私も話を聞いたのですが、どうやら事の発端事態が2人の可愛い勘違いだったそうです。
なので、今ではこうして、いつも通りの2人に戻りました。
本当に、陸くんと華恋ちゃんは仲良しさんです。
「……あれ? なにか引っ掛かってる?」
なんて、私が感傷に浸っていると、棚にあった箱を整理していた陸くんが、不思議そうに1枚の紙を取り出しました。
「……写真?」
陸くんの手から、華恋ちゃんがひょいっと、その写真を取り上げました。
「……ん? これって今のこの場所よね? ちょっと写真は古いみたいだけど……汐先輩、これ、誰が写ってるかわかります?」
そう言って手渡してきた写真を見ると、そこには華恋ちゃんの言う通り、この人形演劇部で使っている部室で、数人の生徒が写真に写っていました。
インスタントカメラで撮影したのでしょう。
そして、驚いたことに写真には今から10年ほど前の日付が記載されていました。
でも、それよりももっと驚くべきことが、この写真には写っていました。
「ってことは、僕たちの先輩の活動写真ってことかな?」
「へぇ~、じゃあ、結構歴史がある部活だったんだ。私たちより部員も多いみたいだし」
「いや、そりゃあ僕たちは今3人だけだし……ん、どうしたんですか、先輩?」
「 !」
陸くんが声を掛けてくれて、私はやっと我に返りました。
「先輩?」
陸くんだけでなく、華恋ちゃんも私を見つめていました。
それでも、私はすぐ2人に返事をすることができませんでした。
何故なら、そこに写っている写真の人物の中に――。
『Wonder Land』の店長である、結衣ちゃんが制服姿で写っていたからです。




