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危機俺!  作者: 一集
第三部 おや、村の様子が?

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65/65

65話 そうだ、息抜きに仕事を増やしてみよう。




そういやさ、ウチの周りを囲ってた氷の壁あったじゃん?

いまでは影も形もないけど。

でも春ごろにはソコソコな問題を引き起こしていた。


それは何か。

そりゃ、氷ってのは溶けるものだから。

家の周りが、ね……ぬかるみで。ええ、そりゃもう、自分の家の土台を心配するレベル。


けどあんなの俺がどうにかできるわけないじゃん?

動かせるシロモノでもなく。無駄に頑丈なせいで壊せもしない。

俺は家の出入りにすら苦労しつつ、「想定外!」と頭を抱える羽目になった。


このデメリットはかなり頂けない。が、実際のところ冬を無事に乗り切れたのはこの壁のおかげってのも大きいから、作ったことに後悔はない。

まあ……まさかの後処理問題発覚で、今年の冬はもう少し別の方法を考えようと心に決めたのはご愛敬。


ちなみに俺が諦観の境地でぼんやりと眺めるしかなかった氷の壁は、最終的に大人たちの手によって撤去された。


「勝手に溶けると思っていたが、案外しぶといもんだな。放っておいても長くなりそうだから解体するぞ、いいな?」


ご迷惑をおかけします、はい。

お手数をおかけします、はい。

ところで、あの、撤去費用の方は勉強してもらえるんですかね?


労働には対価を、というわけで一体何を要求されるのかと戦々恐々としていたけど、ついぞ請求はこなかった。

……タダより安い物はない、っていうじゃん?

むしろ不安になったんだが?


そんなわけで、俺には使命ができた。

時計? 個人カード? わかってるって。別にサボってるワケじゃない。

ただ、たまにはね。そう、息抜きも必要じゃん?


以前からたまの手慰みにぼやっとしたアイデアを書き出しつつ、なんとなくの方向性を決めていたモノについて形にしてみることにした。


それはなにか?

ズバリ、熱源系の魔法陣。


完成したら家の周りに張り巡らせて、そもそも雪が積もらないようにできるわけだし。

イメージ的にはIHコンロみたいなもんかな。

だとすると、ついでに冬の間に燃料不足で中断した墨作りの続きもできるかも、って考えもあった。


うん? 溶解液の取り扱い試験が導入されてるんだから今更墨なんていらないだろうって?

いやいや、そうもいかないんだよ。


話は少し長くなるんだけど。

実は現在、溶解液は必ず蒸留水とセットで売られてる。


水では流せない溶解液に唯一効果があるのがそれだからだ。

万が一の場合に対処できるように、溶解液を使う際は必ず蒸留水も持っているという状況を作りたかったワケよ。


「作りたかった」と言ってることからわかるだろうけど、この制度を決めたのは俺。

……まあ、めっちゃ反発食らったけど。


気持ちはわかるよ?

作る方はコストかかるし、売る方は面倒だし、使う方も負担が増えるし。


この前、一人で歩いてる背中をふいに蹴飛ばされたのは多分コレが理由だろう。

多分ね。他にも理由が諸々思いつくから絶対とは言えないけど……。


いやはや、久々過ぎて油断した。

とはいえ、擦り傷だらけになったのは地面についた手の平だけだし。

俺にしては中々いい受け身を取ったのでは?

なんなら俺はそんな自分の成長を感じて悪くない気分だった。


傷の方は黙っとけばバレないだろうと放置してたら(ちゃんと洗ったからな!?)さすがにリンに気付かれた。

これは100%イムのせい!


忘れてたんだよなー。

俺が怪我するとイムが這い寄る。

スライムの習性なのかなんなのか。人の傷口に張り付いて離れなくなる。


なにをしてるのかはいまだに謎。まさか血を啜ってるワケじゃないよな。

なんとなく治りが気持ち早いような気がするから、そうではないと信じてるけども!


そんなイムの行動を把握してるリンが、俺の手に張り付いてるイムを見逃してくれるわけもなく。


「どうして、なんで!?」とうるさいから、ちゃんと「転んだ」と説明したさ。

なにやら長い事疑いの目を向けられたけどマジで嘘じゃないから、もーまんたい。


そもそもこんなん俺にとっては今更だし。

それより制度にケチがつくことの方が問題だ。

これは絶対に譲れない一線だった。


もちろん無理に押し込んでやったわ、オラァ!


さて、ここで重要になるのは溶解液より蒸留水の方。

作るのには大量の燃料が必要だし。ナティアさんの研究の成果で酸化に強くなった溶解液と違い、消費期限(・・・・)も長くない。


消費期限、もちろんあるんダナー……。

実は蒸留水の溶解液に対する効果は段々と薄れていく、ってのは結構早くに見つかってた懸念点。


酸化が問題だった溶解液はナティアスライムの蓋でかなり改善されたけど、蒸留水に関しては多分そういう問題じゃない。

この(・・)環境で作った蒸留水に空気中の雑菌が混じらないわけがない。で、雑菌はそのうち増殖するわけで、……つまりそういうことだ。


俺の考えに早々に賛同してくれたナティアさんと実験を繰り返し、きちんとそれを定め、今では溶解液を購入する際に渡す蒸留水には、デカデカと消費期限を書き記してある。


こん時に思ったね。

カレンダーの製作をお婆に頼んでてよかった!

――というか、この為に実用を前倒ししてもらった。とも言う。


今では村長の家やナティアさんの雑貨屋、お婆の家、それからなぜか我が家にもカレンダーが掛かっている。

村の広場にはカレンダーではなく、今日が何日だと示す日付の立て札。

なんでカレンダーじゃないのかと言われれば、一気に普及させるには材料と人手が足りなかったとしか……。

カレンダーは作るのにそこそこの労力が必要だ。だって、全部手書きだから(白目)。

それでも立て札を作ったのは、一応ね、みんなに概念としての意識付けって意味でも人目に晒すのが大事かなって。


お婆的にはカレンダー計画はもう少し揉んで、なんなら時計が実用化されてから周知するくらいの気持ちだったらしい。

急遽「もう使いたい」って言ったら、そりゃあもう怒髪天に突く勢いで怒ってた。

口は唾を飛ばしながら悪態を、手は止まらず資料をまとめ。……うぅん、器用だなぁ。


そのまま、あっという間に有力者たちへのプレゼンを終え、主な使用者になるだろう人々に説明会を開き、俺の想定よりずっと早く実用化にこぎつけた。


あのスピード感には尊敬の念を抱く。いやそもそも疑ってもないけど。

え? こん位はやるでしょ、お婆なら。


「……あ~、そういうトコだと思うんだよ、僕。イサークの悪いトコ。ほんとタチ悪い」


お、シャル悪口か? 本人の前で堂々と。

やんのか? シュッシュッ! お前になら俺だっていい勝負しちゃうよ? 多分。


というかだな(溜息)

カレンダーさ、ほぼほぼすでに出来上がってたんじゃん。これでまだ完成じゃないとか、頭おかしくない?


「おかしくないわい! これが今後の時間の軸になるのだぞ。完璧に近づけられるならその方が良いだろうが!」


いやあ、別に? 変な不都合とか出てきたら、都度直せばいいんじゃね?


「この馬鹿モノが! やることと考えることだけ無駄に大きい。そのくせ、その視界の狭さは何なのだ!! ええい、もどかしい!」

「視界が狭いって言ってもな。俺たちだけで使うんだし。そんな強い責任感を抱かなくてもいいんじゃない?」


ここがどこだと思ってんだ。

世界から切り離されたド田舎だぞ。

俺なんていまだにこの世界がどんなものなのかすら知らない。この村が所属する国や一番近い都会、文明も教育も、なんも知らない。

村人の大半が同じ。なら、俺の人生だって多分ここで完結するんだろう。

つまり関わることなんてないし、関わらないなら考える必要なんてない。


だからさ、いいんじゃない?

テキトー精神大事だよ?

完ぺきを求めたら身動き一つできなくなる。


一応目の前の事故には気を付けてるんだぞ、これでも。

ほら、溶解液と蒸留水とかいい例じゃん?

こんくらいが、程度としてはちょうどいい。

なにから何まで心配してたら、なにも進まないぜ?


「お・ま・え・はッ! これがどういうことかわかってない! 本当にわかってない!」


お、落ち着けって。頭の血管切れるよ。いい年なんだから自重しろって。


「その老人を酷使してるのはどこのどいつだ!」


あーあーあー、聞こえなーい。




閑話休題。

俺は溶解液を蒸留水とセットで売る縛りを(結構強引に)作ったけど、他にもルールはある。

蒸留水の消費期限までに溶解液を使い切らなかった場合は、必ず新たな蒸留水を購入する。というのがそれだ。


危ないからね。

効果なくなったら、安全を金で買え。というわけである。

これが俺が反感抱かれた主な理由だと思う。


――そう、蒸留水の単品購入は自腹。


その縛りのせいで溶解液を無駄に買いだめする人間がいなくなったのは幸いかもな。

なるべく蒸留水の消費期限までに使い切れる量を買うようになったのだ。


とはいえ、多分いるだろう。

まだ溶解液が残ってるのに、蒸留水を買わないヤツ。

世の中、万が一のためにコストをかけられる人間ばかりではない。


ぶっちゃけこの辺の問題もちゃんと考えていかないとなぁ、とは思ってる。

制度は作っただけでは意味がない、運用されて初めて成功だ。

危険物の管理はいつかはやらないといけない。それは早ければ早いほどいい。


例えば溶解液の瓶を回収制にして、蒸留水の消費期限までに瓶が返ってこない場合をチェックするとか。

あるいは試験導入した暁には違反回数で免許はく奪とか、上の試験への資格取得を延期するとか。

そういう罰則を作るのもアリ。


個人カードさえ実用化できれば、溶解液を買った際に自動的に警告日を設けるとか、管理側で通知と確認をするとかもできる、かも?

んん~、カードの容量もう少し増やすか。もしくは後々の融通が利くように拡張性を持たせるか……。


それが出来たとて、考えるだけで人的負担がエグイねぇ(汗)

この辺はお偉いさんと要相談かな。


まあ、そんなこんながあって。

結論、蒸留水の需要がアホみたいに伸びた。


やっと話が戻ってきたけど、熱源魔法陣が完成すればこの問題を一気に解決できるかもしれない。ってコトよ。


まず蒸留水を作るために消費する薪がいらなくなる。

墨が完成すれば、そもそもインクとしての溶解液の需要が減らせる(かも)。

危険性のない墨は蒸留水なんて必要ないんだから。


そんなん、やってみるっきゃなくない?

で、なんとなくで書いていたメモをかき集め、机に広げて、魔法陣を形にしていく作業を開始した。


「こりゃあ、さすがに外部動力に頼らざるを得ないかぁ?」


消費エネルギーを考えるとどうしても魔石が必要だ。

できれば大量に獲れるゴブリンで済ませたい。

というか、ゴブリン以外に大量生産できる態勢がない。


一般化のことを考えなければ、別にゴブリンでなくてもいいんだけど。

でもどうせ作るならさ、さっきIHコンロって例えが出たように、家庭で料理に使ったっていいじゃない?


一気に料理文化が進むかも。かも。

じゅるり。

食事が美味くなるのは大歓迎。ってか嫌なやつなんていないだろ!

とか考えると一般家庭への普及はマスト条件っしょ。

いやむしろ絶対条件。


故に、ゴブリン魔石!

つまり効率。


以前ふと考えたことがある増幅器、あれならどうだ?

ん、あれ? 電圧増幅回路ってどんなだったっけ。


…………。

ぜんっぜん思い出せん!

くう! 俺、あんま真面目な生徒でもなかったしな。

教科書を読みたいと思ったのは前世含めて初めてかもしれない。


急募:異世界に教科書を取り寄せる方法。


……あるわけないか。


それか、俺みたいに前世の記憶持ってる奴っていないの?

そうか仲間を探してみるのもアリだな。


ん゛ん゛っ、村から出る予定がない俺には無理な話では?では?

外部記憶に期待するなってコトだな、これは。

しゃあねえ、これが俺のしょっぱい現実だ。











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