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危機俺!  作者: 一集
第三部 おや、村の様子が?

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63話 そうだ、時間を進めてみよう。




イザベラが踊ってる。

声帯があったら歌ってるんだろうと確信できるくらい上機嫌で、その四肢を覆う真っ赤なドレスをひらひらと風になびかせていた。


にしてもダンス上手いね。いつの間に覚えたんだ?

女子会でレッスンでもしたんだろうか。はて。


――つまるところ、彼女はついに服を手に入れた。

わけよ。うん。


村の女性陣たちからの贈り物だ。

イザベラもそれがどういうことかわかってるんだろう。


その服は新品。彼女のためだけに仕立てられた。

布は貴重だ。中でも赤い色は特に。

実際、貴重な染料を使って、ムラなく染め上げるには人数と技術が必要だった。


それだけこの村でイザベラの存在がデカくなったってことでもある。

その労力をかけることを良しとされたんだから。

……まあ、正直村の防衛という観点でイザベラ以上に役に立ってる奴はいないもんな。


冒険者兄妹との戦闘訓練が功を奏したのか、今のイザベラの動きはほとんど人間と変わらない。

むしろ人間以上の動きが可能なのに、わざわざ人間の動きを真似てる節がある。


最近のイザベラは体がなまるのが嫌なのか、村に近づいてきた害獣を狩るのもルーティーンの一つ。

防衛壁としてだけでなく、積極的に村の危険を排除してくれるありがたい存在だ。


まあ……、自分で狩ったものは自分のモノ理論で、彼女の養分になってしまうので、それらを必要とする村人にとっては厳しい競争相手だったりするんだけど(苦笑)


今年の冬に入る頃には骨喰樹の壁も三方向分は囲われる予定だし、ルパート・マチルダ両名の、この村最高の戦力がなくても、今回の冬みたいにギリギリという状態にはならなさそうだ。


さて、ふんだんに生地を使って作られたのは、イザベラの体全体を覆うような裾が長いドレス。

プラス、顔に影を落とす大きな帽子と腕を覆う長い手袋。

滑らかな動きも相まって、ドレスを纏ったイザベラはまるで貴族の女性のようだ。

枝で形作られたイザベラの「ザ・怪物」な見た目を見事に隠して、ぱっと見はまるで人間。


一つ難点を言えば、その格好は場違いでは、……ある。

山奥の田舎村の雰囲気からはかなり浮いてる。ふわふわだ。

服のおかげで怪物には見えないが、本来居るはずのないもの、という意味ではなにも変わってないような気がしたり、しなかったり、ね。


……けど嬉しそうだから、まあいいかって気になる。

俺もいつの間にか、化け物に気を許したもんだな。


「むしろこうなったら日傘も用意すべきか?」


隠せないならもういっそ極めるのはどうよ。

優雅でいい感じになるんじゃないかな。


「それ、あり!」


イザベラの女子会仲間が俺の独り言を奪う勢いで同意してくる。

「日傘ってなに?」「貴族の女性が使うもので」あーだこーだと新たな製作物の計画で盛り上がり出した。

いつの時代も女性はかしましい。

平和の象徴だね。いいことだ。


イザベラが十分に受け入れられてるようで、実質親の立場の俺は安心だよ。


この贈り物はひと月程前からみんなで準備したものだ。

壁に耳あり障子に目ありを体現するイザベラに隠し通すのは中々大変だった、と言うことだけは強調して伝えたい。


実は先日村を出て行った冒険者兄妹の妹、アルネさんもこの製作に関わってる。

てかむしろアルネさんが発案者。


あの短期間で人間に模倣したいイザベラの願望を見抜いたんだとしたらさすがの観察眼。外を生き抜く人はやっぱ色々な意味で強い。


んで、イザベラへのプレゼントを考えるくらいなんだから、いつの間にやら本当に随分と仲良くなったんだなぁ。

冒険者だから大雑把なのかと思いきや、案外手先は器用で、つばの広い帽子はほぼ彼女が作った。


一応俺も少しだけだけど協力したんだぜ?

帽子飾りのリボンがそれだ。

ま、まあ、ちょっとはリンに手伝ってもらったけど。我ながら上手くできた。

俺だって伊達に使い古した服を長年着まわしてない。繕い物はお手の物よ。

それは今イザベラの頭の上で、少しの華やかさを演出していた。

うむうむ、余は満足じゃ。


ちな、イザベラと言えばついてくるダンおじさんは、今にも膝をついてプロポーズしそうな勢いで感動してた。


「イザベラ、なんて美しいんだ!」


イザベラは褒められたのが嬉しかったのか、少しはにかむ様な仕草を見せた。

彼女が使う表情の仮面はあれから少し増えたけど、それでも細かい感情を表現できるワケじゃない。

はにかむ、なんて仮面はもちろんないのに、なんかわかっちゃうのはなんでだろ。


イザベラはダンおじさんの手を取って広場の真ん中に誘う。

どうやら名誉あるダンスの相手に選ばれたようだ。


「ま、待ってくれ。俺は踊れない。イザベラ、君に恥をかかせるわけには、」


じたばたと慌てるダンおじさん。

それを気にも留めず、イザベラはおじさんの手を握ったまま上機嫌に踊りはじめた。


誘われた以上、女性に恥をかかせるもんじゃないよ、ダンおじさん。

ん? 女性、でいいのか?

いいんだよな。うん。


周りは微笑ましそうに踊る二人を見ている。

見た目はオッサンとそれを揶揄う良いトコのお嬢さん。

年齢と身分の釣り合わなさにバックストリーを考えたくなるね。


「ほんと、お似合いの二人ねぇ」

「あたしと旦那にもあんな頃があったものよ」

「青春だわ~」


実態はうだつの上がらない独身男と、それを放っておけない推定・魔物なんだけど。

……この光景に誰も違和感を覚えないのが、マジこの村の終わってるとこだ。


にしてもヴェルナーさんといい、イザベラと言い、広場で踊るのは流行りかなんか?


俺は何となく目の前のカップルもどきから目を逸らし、広間で空を見上げる。

べ、別に羨ましくなんてないんだからな!?

俺だって、お、俺だって……。ん? なんだよ、リン。あんまくっついてくんな。

痛い、痛い、いたいって、叩くな! なんでいきなり怒り出すんだ、意味わかんねーよ。


てかお前、最近なんか力強くなってね? 成長期? え、俺がやわいだけ?

……ま、まあ、その。なんだ、……あんま急いで成長すんなよ? 当分子どもでいてくれ。


むくれつつ引っ付いてくる、というよくわからない行動をするリンをそのままに、俺は再び広場を見渡した。


場所的にはイイ感じだよな~。

広いし、開けてるし、目立つし。


え、なんの話かって?

そりゃ、時計の話だよ。


実はちゃんと続いてた時計の研究。

継続は力なり。


……継続してたのは主にお婆だけども(横目)

言っとくけど、俺は投げ出したんじゃない!

ちゃんとやるつもりだったし!

でもさ! 例の「魔石が心臓にあるゴブリン」が獲れるのがあまりにもランダム過ぎんだよ。

待ってられないじゃん!?

で、獲れた時に限って他に手が離せなかったりするじゃん!?


したら。

いつの間にかお婆が勝手に進めてた。

……オイ、神かよ。


しかもメイン研究材料がない期間だって、なんやらかんやら、ちゃんと研究してるマジのやつ。


時計以外にも、俺が適当に案を出したカレンダーは勝手に解釈改善され、かなり内容が煮詰まってきてるし。

あれが完成した暁には本当に世界が時間という単位で縛られて動き出すんだろうな。


不思議な感覚だ。

曖昧な世界が輪郭を持つ感じ。

時間の尺度は、作ってしまったらもとには戻せない不可逆的なものだから、躊躇心がないわけではない。


とは言え、大事の前の小事。

「便利さ」の前では路傍の石だけど!


で、話は戻るが。その時計関連。

良い事と困ったことが同時に起きた。


良い事は、時計の展望が開けたって事。

完成はまだまだ時間がかかる。

でも、完成図が出来上がってきた。


なんてーの?

成功までの道筋?

課題は山積してるけど、ゴールまでの行き方はわかってる状態、的な?


俺的にはこんな遅々として進まない研究、あと何年かかるかわかったもんじゃないと思ってたんだけど。

予想なんて悉く蹴り飛ばしてくのがこの村の住人どもだ。


その最たる人物、お婆が絡んでる時点で察するべきだった。

先日「見てみろ」と渡された時計の設計図は、ほとんど完ぺきと言って差し支えない。

作れさえすれば、動くだろう。――そういうレベルの代物だ。


「やんなっちゃうぜ」


何なんだろうな、この村の連中。全員チートなんか?


お婆の家で設計図を見たとき、俺は絵と文字で書かれた紙を思わず放り投げて、ついでに体も放り投げ仰向けに倒れた。

やってられっか!


「どうじゃ、作れそうか」

「あー……」


俺の喉から溜息に似た、呆れと諦めが混じったような唸り声が漏れた。

思わず顔をしかめてしまう。


聞かれたのは時計の、どうしても動力に頼らざるを得ない部分のこと。

全体像からしたら微々たるものだけど。

ほぼ自力。97%は自分の力で何とかなってる。というか「した」んだろう。この時点でマジで頭がイカレてる。

ここまできたら全部自分の力でやりたかったんじゃねーの? しらねーけどさ。

どうにもならない3%、それを魔道具に頼るというのなら、そりゃ許されてしかるべきっしょ。

ここで「やらない」なんて選択肢はない。


「まあ、どうだろ?」


イエスと、言わなきゃないのが嫌だわ~。あー、マジ嫌。

そんな気持ちが言葉になった。どうしも素直に「やります」とは言えない、言いたくない。


口をへの字に曲げて見上げた天井には、時計の試作物の残骸がにょきっと床から生えていた。


「……いい加減、捨てたら? この失敗作」


一個がね、デカいんだよ。なんなら天井を突き破る勢いで縦長。

設計図見てるから知ってるけど、これで全体像の1/3程度なんだよなー。いわゆるメイン部分だけ。

だから一つ作ると部屋が一気に狭くなる。

それがいくつも並べられてる光景は、総観というより圧迫感が勝つ。


あの広かった納屋の見る影もない。

地震大国の記憶がちらついて、ここではとてもじゃないが寝られない。倒れてきたら押しつぶされて一巻の終わりだ。


「いいや、完成したならともかく、これらはまだまだ必要だ。失敗からこそ学ぶべし」


うへえ。

ということは、当分ここはこんな感じか。


時計だけならまだしもゴブリンの心臓が。……そりゃあるよな。

解剖図の横には、スライスされ乾燥させたホンモノが飾られてるし。

ゴブリンの血や溶解液も大量にストックされてる。なんなら自らの研究で作り出した保存液の中でまだ動いてるのまである始末。


ホラーすぎる。

夜は絶対に来たくない。

よくこんなモンと一緒に生活できるな。


俺、今年の冬は絶対にお婆の家にだけは世話にならないと心に決めてるんだ。


なんにしても、ここは膨大な知識と経験と試行錯誤が詰め込まれた部屋。

ほぼ肝試し部屋だけど、その努力は称賛に値する。


割り切れない葛藤に白旗を掲げ、俺は放り投げた設計図を拾って眉間に皺を寄せながら聞く。


「これって小さい方がいいの?」

「いや、それよりは安定性重視だ。制御と精確性、これが肝だからの」

「……なら、できる。と思う」


断言はしない。できない。

でも作れないとは言えない。


想像してみる。

その規模は都市計画並み。それを線一本から始めるようなものだ。

作業量を想像しただけで気が遠くなる。

俺、途中で発狂しないかな?


マジでやりたくねえ。

でもぉ、その発狂レベルの事を~、目の前の人がすでにやってるんでー。

嫌とは言えない(涙)


これが良い事と、困った事その一。

その一があるんだから、もちろんその二もある。

それもやっぱ時計にまつわる話。


時計を作るもの、管理するのも、その環境があるのもお婆の家(の研究室)。

で、失敗作を見てわかる通り、時計は運べるものではない。

デカすぎる上に繊細。


となると時計は作った場所から動かせないことになる。


まだ完成してないんだから、作りたいところに作ればいいだろ、って?

言ってんじゃん。環境がないんだよ。


しいて言うなら、時計を作りたい場所に、お婆の研究室を移設するならアリ。

つまり、現実的じゃない。


だからまず時計の移動問題は考えないこととする。

兎にも角にも完成が先。

一回の成功。それを目指す。


次が、小型化?

――なのかは、完成してみないとわからない。


「小型化じゃない方法を考えるとすると、」


正直、ゴブリンの心臓をメインに使ってる時点で、小型化には限度がある。

や、別に目指したいなら目指したっていいと思うんだけど。


「それよりは、ねえ?」


俺は広場を見渡す。

ここならアリじゃないかって。俺は思ったりするワケでー。

高さはあれくらいあればいいかな。素材は、

ん、待てよ。


そうなると、お婆に頼まれた魔道具。あれに最初からこの計画を組み込んだらいいんじゃないの?


問題は「都市計画レベル」で頭痛いのに、その規模が首都圏並みにデカくなるって事か。

……なんだ? 考えただけで気分が。うえ。


にしても、なんだか自分が面白い。

捕らぬ狸の皮算用とはこのことか?

だって今から完成の、その先を見るなんて。


でも、


「たぶん、大丈夫だろ」


やるだろう。

お婆なら。


ならその先を考えるのは、ただの用意周到、って話じゃん?











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