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悪魔のような勇者の伝説  作者: 夜桜
第2章
22/26

新しい関係

 

 二つの宝珠を手に入れた僕たちは、王都『ユラシティ』に戻ってきている。


 色々あったが、なんとか無事に戻ってくることができた。


 だけど、心に引っ掛かることもいくつかある。


 死霊使いとの戦いの時に起きたこと。記憶の泉で見た香織に関する記憶。


 僕はここに帰ってくる間も、それらのことばかり考えてしまっていた。


 そのせいでユラに心配をかけてしまっているようで、少し心は痛むが。


 それでも、どうしても引っかかる。


 特に、香織のことは。


 あいつは、なぜ最後に涙を流していた?そもそも本当に涙を流していたか?あの時はあいつが冷静な顔をして僕を突き落したようにしか見えなかったのに。だけど、あの時はかなりパニックにもなっていたから、あまり自信もないのだ。


 そんなこと気にしても今更どうにもならないこともわかっている。


 だけど、考えずにはいられない。


 僕自身、こんな気持ちになっているのは初めてだ。


「ヨシト、ホントに大丈夫?」


 ユラは本当に心配そうにしている。


「ああ。すまないな、心配かけて。少し考えたいことがあるだけなんだ」


「でも、記憶の泉からずっとそう言ってるよ?ほんとに大丈夫?」


「そうだったか?大丈夫だよ。それより、せっかく王都に帰ってきたんだからシルフィアさんに挨拶に行こう」


「……うん。そうだね!」


 ユラは明るく振舞ってくれる。


 彼女はいつでも、僕を元気づけようと笑顔をくれているように思う。


 僕はその笑顔にいつも救われている。


 余計なことは考えず、今は彼女の笑顔に答えよう。


 そうして僕たちは、『魔王城』に向けて街の中を進んでいく。





 そんなことを思っていた矢先、前方から信じられない人物が歩いてくる。


 その人物は、人ごみの中を一直線にこちらに向けて歩いてくる。


 その姿を見て、僕は驚愕し足を止めてしまう。


「ヨシト?」


 ユラは、またも不安そうな顔で僕を見た。すると僕の視線が前方に注がれているからか、彼女も僕の見ている方向に向き直る。


 黒い髪を揺らし、僕を真っ直ぐに見つめながらこちらに歩いてくる少女。


 それは……。


「かお……り………?」


 その少女は、どこをどう見ても佐藤香織だった。


 僕のその言葉に、隣のユラも驚いている様子。


 彼女にも『風の洞窟』でのことは話していたし、名前も教えていたかもしれない。それを覚えていたのだろう。


 ……本当に香織なのか?


「久しぶりね、桐生君。会いたかったわ」


 彼女は、昔と変わらない声で言葉を紡いでいる。


 間違いない。目の前にいるこの子は佐藤香織だ。


 僕は、目の前に現れた自分を悩ませている元凶に、戸惑いが隠せなかった。


 なぜこんなところに香織がいる!?


 香織は勇者候補で、人間族の神殿にいるはず。


 それとも今度は香織が送り込まれてきたのか!?


 僕の中では様々な考え、様々な感情が湧き上がってきて制御できない。


「急に現れてごめんなさい。信じられないかもしれないけど、私はあなたの敵じゃないわ。許してもらおうなんて思わない。だけど、話だけでも聞いてほしい」


 香織の一言一言が、僕の心をかき乱す。


 香織は僕の敵ではない?


 香織は僕を見捨てたはずだ。裏切ったはずだ。


 そんな香織が、僕の味方に戻るはずがない。


 でも……目の前の真っ直ぐ僕を見つめる瞳に、何かを感じてしまう。


 何が正しくて、何が間違っているのかわからない。


 その時僕と香織の間にユラが入ってくる。


 彼女はユラをすごい雰囲気で睨んでいる。


 こんな彼女は、今まで見たことがない。


「あなた、カオリさんよね?あなたのことはヨシトから聞いたわ。ヨシトを見捨てて、裏切ったあなたが、なんでヨシトの前に現れたの?なぜまたヨシトを苦しめるの?」


「……そうね。私は桐生君の前に出てくる資格はないとは思うわ。だけど、気付いたら行動してしまっていたんだもの。私は心の底から桐生君に会いたいって思って来たわ。その気持ちまであなたに否定する権利はないはずよ」


「あなたは……!」


 ユラが殺気を放ったその時、僕はユラの手を掴んでいた。


 僕はユラを止めてしまったんだ。


 ここまで僕を支えてくれたのはユラだったのに、僕は彼女の方を止めた。


「ヨシト!なんでっ!?」


「ごめん、ユラ。だけど、香織には聞かなきゃいけないこともある。……少し話をさせてくれ」


 僕がそういうと、ユラは黙ってひとりで先に行ってしまった。


 ごめん、ユラ。


 あとでちゃんと謝らないと。



 そして僕は香織に向き直った。


「香織、やっぱりまだ君のことは信じられない。だけど、僕はもう一度君のことを信じられるようになりたいって、そう思っているんだと思う」


 僕は自分の気持ちを整理するかのように、そう伝える。


 これは、多分僕自身の本心だ。


 僕はきっと、心のどこかで香織のことを信じたいと思っていたんだ。


「ありがとう、桐生君。私も、あなたに信じてもらえるように、精一杯のことをします!」


 香織は少し笑ってくれた。


 まだ昔と同じとまではいかないけど、やっぱり彼女には笑顔でいてほしい。


 僕たちは、立ち話もなんだからということで、近くの喫茶店に入った。


 店員に席に案内され、ドリンクの注文をした後、僕は香織に尋ねた。


「それじゃあ、香織。僕がいなくなってからのことを話してくれないか」


「分かったわ」


 そう言って彼女は僕がいなくなってからのことを話した。


 富田のこと、先生のこと、皆の様子や、神官の態度、そして僕がどう思われているのか。


 ある程度想像してはいたが、神官たちの狂い方はとんでもないことになっているようだな。


「そうか。それじゃあ次の質問。香織は、『風の洞窟』でのあの時、なんで泣いていた?」


「ッ……!?さすがに気づかれてるとは思わなかったわ」


「いや、つい最近思い出したというか、そんなことはいいんだ。なんでだ?」


「それはきっと、心のどこかであなたを失いたくないって思っていたからだと思う」


 香織は辛そうな表情で話を続ける。


「何を言っても、何を思っていても、あんなことをした事実は変えられないわ。私はあの時、自分が生きるための選択をした。だけど、あれからの私は……私の心は死んでいたわ」


 彼女は悲痛な笑顔を見せる。


「笑っちゃうわよね。自分にとって何が大切なのかを考えようともせずに、ただ生にしがみついて、結果がこれなんだもの。だけど、もう間違えない。私は、私の気持ちを信じて進むわ。だから、これからの私はあなたとともに生きたいと思います」


 香織は、強い。


 僕が同じ立場だったら、確実に同じ選択をして、仲間を見捨てただろう。そしてそのままのうのうと生きていただろう。僕はそういう人間だったから。そのことに何の罪悪感も感じず、誰のためでもなく、ただ自分が生きるためだけに行動していったと思う。


 だけど、彼女は僕の前に現れた。


 彼女のしたことを簡単には許せないとは思うけど、それでも僕の前に現れたその覚悟は信じるに値するものだと思う。


「ありがとう、香織。話してくれて」


「そんなこと……お礼を言われることじゃないわ。あなたは、やっぱり優しいのね」


「そんなことはないよ。僕の本性は、違うから」


「でも、今は隠してないんでしょ?それでもあなたは優しいわ」


 え……!?


「……今なんて?」


「いや、だから……もう自分を作るのやめたんだなって思って」


 ……そっか。彼女は、僕のことをとっくに気付いていたんだな。それじゃあ、彼女は僕が本性を隠していると知っても、僕の本性を知っても、それでも優しいだなんて言ってくれるんだな。


「ククク……ハハハハハハハハッ」


「なに、どうしたの!?」


 香織は僕が急に笑い出したから驚いてるみたいだ。


「いや、ごめんごめん。なんか、今までのことがばからしく思えてきて。ククク……」


「……桐生君がそんな風に笑ってるの初めて見たわ」


 香織も笑っている。


「そうだっけか?香織の笑顔も久しぶりに見たぞ?」


「えっ……。ああ、私笑ってる。ふふふっ……桐生君のところに来てホントによかったわ」


 彼女の笑顔は、より輝きを増した。


「そうだ、これからは僕のことは名前で呼んでくれるか?今はそう名乗ってるし、その方が自然な気がする」


「えっと、義人君、義人君ね!」


「ああ。これからもよろしく頼む。香織」


 僕たちは、いつの間にか自然に話せるようになっていたし、そのことを不思議には思わなかった。


 香織の言葉は信じられるって直感的にわかったし、信じたいっていう自分の気持ちも分かった。


 だから、また彼女と新しい関係を築いていきたいと思う。


 僕たちの関係は、ここからまた始まるんだ。



かなり無理やりだったかな?とも思いましたが、作者はこの展開を望んでいました!お気に召さなかった方は、作者を恨んでください(笑)


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