シルフィアさんが怖すぎる
「それじゃあ次は、義人君の話を聞かせてもらってもいいかな?」
香織への質問が大体終わったところで、今度は香織が僕に質問をする番だ。
「ああ。あの後の話をすればいいんだよな?」
「うん。お願いします」
「本当に突拍子もない話なんだが、そうだな……ルシフェル、実体化してくれ」
「なんだ、義人。二人きりの時間を邪魔してよいのか?」
「え……。この子誰!?」
香織は突然現れたルシフェルに驚いているようだ。周りの客の目線がこちらにきていないことを確認していたので、店自体は騒ぎにならない。
「我はルシフェル。この世界の者たちは我のことを『魔神』と呼んでおる」
「えっと、義人君。マジなの?」
「マジだ。ちなみに僕は『魔神』を受け継いでるらしいよ」
「……勇者どころの騒ぎじゃないわね、それは」
香織は深くため息をつく。どうやら、僕たちの言っていることが嘘だとは思っていないらしい。
「僕はあそこで奈落の底に落ちた後、その『魔神』の力に目覚めたんだ。ルシフェルとであったことでな。そのおかげで今まで生き延びている」
「まあこの世界でヨシトに勝てる者などそうはいないからな」
ルシフェルも横から解説している。
「でまあ、富田のことがあったり、先生のことがあったりしたけど、今はユラと一緒に『魔神の宝珠』を集める旅をしているんだ」
「なるほど。旅をしてるってことは、義人君に会えたのって相当ラッキーだったんだね」
香織は嬉しそうにそう言う。
「そうだな。僕たちはたまたまここに帰ってきていただけだからな」
「ところで、『魔神の宝珠』ってなに?」
「『魔神の宝珠』は、魔神の力が、宝珠の形でこの世界に散らばったものなんだが、その話をするにはルシフェルのことも話さないといけないか」
そうして僕はルシフェルのこと、つまりは神々のことを話した。
「じゃあ、ルシフェル様は『絶対神』に落とされてこの世界にいるんだね。その時に力を世界にばらまかれてしまったと」
「そういうことだね」
「我のことは、様なんてつけなくていいぞ」
これであらかた話は終わったかな。
「よくこんな話信じられるな?」
「だって義人君の目を見れば嘘言ってるかくらいわかるし」
まじか。読心術でもあるんですか。
「ヨシト、我は戻るぞ?」
「ああ、分かった。ありがとう」
「このくらい、どうってことはない」
そう言ってルシフェルは僕の中に戻った。
「ところでユラさんって何者なの?義人君の旅に着いていってるくらいだから強いのは分かるんだけど」
「ああ、ユラのことはまだ話してなかったな。ユラは『魔王』だ」
「……あの子『魔王』だったの!?」
「そうだよ。僕の時より驚いてないか?」
「いや、私あの子に喧嘩ふっかけっちゃった感じだし……」
「まあ、僕もユラには謝らなくちゃいけないからな。二人で謝ろう」
香織は湯鬱そうな表情を浮かべている。
「ともかく、香織は僕たちの仲間になるわけだけど、勇者候補や神官たちと敵対するのはいいのか?」
「それは覚悟しているわ。私にとって大切なものが何なのかは、もう理解してるし。だから、たとえクラスメイトとでも戦うわ」
「そっか。まああんまり無理はするなよ」
僕は、真剣な表情でいる香織にそう声をかけておく。香織は思いつめてしまうところがあるからな。
「うん。ありがとう」
「それじゃあ、ユラのところに行くか」
僕たちは喫茶店を出て、『魔王城』に向かった。
門番の兵士の人は僕のことを覚えていたようで、顔パスで通れた。
そして城の中に入っていくと、どこから現れたんだ!?という感じでシルフィアさんが出てくる。
この人本当に何者なんだ……。
「ヨシト様、おかえりなさいませ。無事でのご帰還なによりです」
「ああ。ただいま、シルフィアさん」
「ところで、あなた様はなぜユラ様を一人で帰し、挙句の果てには違う女性を引き連れてお帰りなのですか?これはあれですか。ユラだけでは満足できないからその辺の女性を捕まえてお持ち帰りということなんですか?どうなんですか!」
シルフィアさん暴走しすぎですよ。そしてその目怖いですよ。
「シルフィアさん、落ち着いてください。この子は、僕たちの仲間になる人です。僕の昔からの友達ですから安心してください」
「初めまして、香織と申します」
香織は礼儀正しく挨拶をする。
「……なるほど。あなたがカオリ様でしたか。どうりでユラ様があのようになるわけですね。ヨシト様、あらかじめ言っておきますが、私はあなたのことを信頼しております。ですがこの方、カオリ様のことは信用しておりません。そのことは分かっておいでで?」
「ああ。それは仕方のないことだ。香織もそれは承知しているはずだよ」
「はい。私達が義人君やあなた方にしてしまったことは許されることではありませんから」
「そうですね。ヨシト様のお話も私は聞いてしまっていますし、ユラ様の命を狙ったゴミ勇者のことは全くもって許せませんからね」
おいおい、シルフィアさん……。ちょっと口が悪すぎますよ。
「ヨシト様は、これからの旅にカオリ様を連れていくおつもりですか?」
「ああ。彼女は連れていく」
「そうですか。あなたがそんな顔で言うのですから、もうそれは変えられないことなのでしょうね。ですが、ユラ様がどうなさるかは分かりませんよ?これは私が言ってよいことなのかは分かりませんが、あの方はヨシト様のことを一番に考え行動しています。ですから、あなたを一度裏切ったカオリ様を決して許さないでしょう」
シルフィアさんは続ける。
「それどころか、あの方はカオリ様を殺してしまうかもしれません。ユラ様もあれで危うい面をお持ちですから」
「それは僕がなんとかしてみせますよ。というより、そうしなくてはいけないと思うので。ユラのためにも、これからの僕たちのためにも」
「ふふふ……ヨシト様はなにか成長されたようですね」
「そう思うのなら、それはユラや香織のおかげかな」
「いや、ホント信じられないくらい素敵になられましたよ。私がいただきたいくらいですね」
この人、真面目な話をしているのか冗談を言ってるのか本当にわからんな。
僕の顔を見て、シルフィアさんは楽しそうに続ける。
「冗談ですよ。それにヨシト様に手を出したらユラ様に殺されてしまいます」
「あはは……」
「ではヨシト様、カオリ様。ユラ様の私室に参りましょう。ユラ様はそこにおられます」
そうして僕たちはシルフィアさんに連れられ、ユラの部屋に向かった。
……『魔王』の部屋にこんな簡単に行けてもいいのか?というツッコミはやめておこう。
ユラの部屋の前に来て、シルフィアさんが扉をたたく。
「どなた?」
ユラの声が聞こえる。
「シルフィアでございます」
「……入って」
え、僕たちのことは言わないの!?
隣の香織も同じことを思っているみたいだ。
「失礼いたします」
僕と香織が驚いているのをよそに、シルフィアさんはユラの部屋の扉を開けてしまう。
その部屋は……なんとも『魔王』の部屋らしくない、女の子の部屋だった。
ベッドこそ王族が使ってそうな高級なものであるが、そのベッドの上にはぬいぐるみが大量にあるし、部屋の内装もごちゃごちゃはしておらず女の子らしさを感じるかわいらしい部屋だ。
そしてユラはというと……ベッドの中でぬいぐるみに埋もれていた。
ユラは僕たちが入ってきているのに気付いてないらしい。
「ユラ様」
シルフィアさんが声をかける。……すごく悪い笑顔を浮かべながら。怖すぎる。
「あー、もう何よ。今は話す気分じゃないんだけど」
ユラはうつぶせでぬいぐるみに埋もれたまま答える。
「それは承知しているのですが、よろしいのですか?」
「何がよ」
ユラはまだ状況を把握していない。そしてぬいぐるみに埋もれたままだ。シルフィアさん、さらに悪い顔をしてます。
「ヨシト様が来ておられますよ?」
その言葉を聞いた瞬間、彼女はぬいぐるみの中から跳ね起きた。
そしてベッドにちょこんと座り、こちらを見ている。
……顔を真っ赤にしながら。
「ヨ、ヨシト!これは、その、あの、普段はこんなことないのよ?ただ色々考えたいことがあったから、あの、その……」
ユラは顔を真っ赤にしながら弁解?らしきことをしている。
「何を焦ってるのか知らないけど、まあ大丈夫だぞ?」
「うう……。とりあえず、謁見の間に行きましょ。シルフィア、先にヨシトたちを連れていってあげて」
「かしこまりました」
先程までずっと笑い転げていたシルフィアさんが、さっと真剣な顔に戻りそう言ったところで、ユラの部屋を後にした。




