過去と思い
僕たちは次の『魔神の宝珠』のありかである『記憶の泉』に来ている。
ここに至るまでの道のり。襲いくる盗賊や魔物たちとの戦い。
そんな辛く苦しい道のり……にはならなかった(苦笑)。
いや、僕たち割と強くなりすぎましたね。
特に魔物たちなんて、僕を見ただけで逃げちゃうし。盗賊たちも、僕とユラが睨むと、むしろ武器とかおいていってくれたし。いらないけど。
そんなわけで、想定していたよりも早く『記憶の泉』に到着することができた。
「ルシフェル。『記憶の精・フェリア』はどうしたら出てきてくれるんだ?」
「泉の前に立てば自然と現れるはずだぞ?」
ルシフェルは言う。
そこで、僕が泉の前に立つと、泉が輝き始めた。
おお、なんか精霊でも出てきそうな感じだな。
その時、僕の意識はその光に吸い込まれていった。
…………ここは!?
僕は気が付くと、元いた世界にいた。
しかも宙に浮いている。
「なんだこれは」
僕はそうつぶやくが反応してくれる者はいない。
しばらく驚いてどうにもできずにいると、どこからか声が聞こえる。
その声の聞こえる場所に、僕は目を向けてしまった。
「化け物……」
その母親は、自分の子供を見てそうつぶやく。
「おかあ……さん?」
子供は、母親の方に近づこうとする。
「こっちに、こっちに来ないで!」
母親はそんなこどもを拒否するかのように、そう叫びながら後ずさる。
「おとお……さん……」
その子供はすがるような目で父親を見る。
「こんな化け物、産まれてこない方がよかったんだ!」
その子供の父親は、子供の存在を否定した。
これは……僕の記憶か。
そこに繰り広げられていたのは、記憶の奥底に封印したはずの、僕の幼少期の出来事だった。
おそらく『記憶の精・フェリア』のせいだろうな。全く趣味が悪い。
僕はその存在を両親に否定された。
僕は生まれ持って異常な力を持っていたから。
その原因はもうわかっている。
僕は元々、人ですらない化け物だったんだ。
その後、僕は両親から捨てられた記憶、祖父や祖母からの化け物を見るような目を、無理やり思い出させられた。
そして今、ここ最近の記憶である高校時代の記憶を見ている。
「ここの公式は……」
担任教師の小泉玲子が、自分の担当する数学の授業をしている。
僕もその授業を真面目に聞いているし、香織も同じように真面目に授業を受けている。大杉はいつも通り爆睡しているし、富田はなぜか握力の筋トレ用のハンドグリップを握ったり離したりしている。相原は、次の授業の宿題を必死に終わらせようとしていて、牧原はひっそりと読書をしている。
そこに広がるのは、今まで当たり前だと思っていた、いたって普通の光景だった。
少なくとも、異世界で勇者だなんていわれて、魔法を使ったりして、なんて光景よりはよっぽど日常と呼べる光景だ。
なんで、何であんなことになっちまったんだろうな。
キーンコーンカーンコーン
「あ、それじゃあ今日の授業はここまでにしますね」
先生のその言葉を受け、日直が号令をかけ授業が終わると、昼休みを迎えた。
僕は自分の姿を目で追ってみる。
するとコンビニで買った昼ご飯をもって教室を出ていこうとしていた。そういえばこの頃は、一人になりたくて屋上によく行ってたな。
そんな僕に声をかけてくる女の子がいた。香織だ。
「桐生君、ちょっといいかな?」
「ん?どうした香織」
僕と香織は中学時代から一緒の学校に通ってて、ほとんど同じクラスだった。
そのころから香織は優等生で、僕もいい人を演じていたせいか一緒にクラスをまとめることも多かった。
「今日のクラス委員会なんだけど……」
「ああ、一緒に行った方がいいのか?構わないよ」
僕は笑顔で答えている。何だこのさわやかキャラは……。今の僕にはもう無理だな。
「ありがとう!」
そんな僕の答えに、香織は嬉しそうに笑顔で返している。
そういえば香織はいつでも笑顔で僕に笑いかけてくれていたよな。あの頃の僕は自分を作っていたし、そのことに何も感じていなかったな。それどころか、僕の本性を知ったらこの子もきっと逃げるんだろうな、とか思っていたのかもしれない。
でも、もしかしたら香織なら……なんて心のどこかで思ってしまう自分もいたんだ。
馬鹿だな僕は。そんなはずないのに。
するといきなり景色が変わった。
ここは……あの神殿か。
次に僕が飛ばされたのはさらに最近の場面、異世界の神殿だった。
すでに皆訓練に励んでいる。
それは僕も同じで、この世界で生き残るために必死になっていた。
それは皆も同じなのか、皆の訓練に対する態度はまじめそのものだった。
しかし、その訓練の最中も、訓練が終わっても、僕は邪魔者扱いだった。
僕には力がなくて、皆の足を引っ張ってしまう。
それでも、死にたくはなかった。
そんな時でも、香織と大杉は僕のことを助けてくれていたな。
だけど、香織の顔は……すごく辛そうでいつものような笑顔はない。
あの時の僕は、そんなことにも気付けなかったんだな。
ははは……これじゃ見捨てられても当然じゃないか。
『風の洞窟』でのダンジョン探索の前日。
僕は香織に声をかけられていた。ほんの一言だったけど。
「桐生君……明日は生きて帰ろうね」
そんな彼女の顔は、ものすごく辛そうな顔だった。
僕はこれを見るまで、そんなことがあったなんてことも忘れていた。
僕は彼女のその言葉に、何も返せなかったんだったな。
そして、『風の洞窟』……。
そこで香織は僕を……。
その時の香織の顔が、僕の目の前によみがえってきた。
記憶の精に見せられているのだが。
香織はやはり、すごく冷静に……あれ……。
見間違いでなければ、彼女は涙を流していた。
なんで、なんでなんだ。
彼女は、僕を見捨てた。自分が生きるために。
彼女は、僕を裏切った。自分が生きるために。
そんな彼女の気持ちを、僕はもう知ることはないだろう。
中学時代、高校時代、そして神殿でも、少しでも彼女のことを考えれていたら、もしかしたら今も一緒にいたのかもしれない。
もし、本当の自分で、自分を作らずに彼女と接することができていたら、今も彼女と一緒にいられたのかもしれない。
でも、もうすべては過ぎてしまったことだ。
僕は今を必死に生きるしか、ないんだ。
「……シト、ヨシト!」
いつの間にか、僕は隣にいるユラに声をかけられていた。
「大丈夫?」
彼女は心配そうな顔をしている。
「ああ、大丈夫だ」
そして目の前には、『記憶の精・フェリア』がいる。
光輝くその美しい姿は、精霊か女神にしか見えない。
「桐生義人、すみませんでした。勝手にあなたの記憶に入り込んでしまって」
「いや。僕にあれを見せたのもお前だよな?」
僕は無表情に答えた。
「そうです。今のあなたには、色々振り返ることが必要に感じましたから」
「おせっかいな……」
だけど、今になって思うことも色々あるものだ。
「あなたはきっとこの世界を救ってくれる。それだけの力があります。だけど、あなたはどこか悲しい」
いや、あなた本当に魔物ですか?女神様か何かの間違いでは?
「あなたが与えられた使命の中で、自分を道を見つけてくれたらと思います。ではこれが『魔神の宝珠』です」
そういって女神様、もといフェリアは僕に『魔神の宝珠』を渡してくれた。
そして僕の中に宝珠が飲み込まれる。
「あなたの幸せを、私は祈っています」
そう言ってフェリアは泉に消えていった。
最後まで本当に女神様みたいだったな。
「えっと、なんか思ったのと違ったけど「魔神の宝珠」は手に入ったし、よかったのよね!」
ユラはすこし苦笑いをしながらそう言う。
「そうだな。まあ戦わずに済むならその方がいいだろ」
「それより、ヨシト。次は『氷の王城』に行くのか?」
ルシフェルが尋ねる。
「そうなんだが、一度王都に寄ってから行こうと思う。方向的には問題ないと思うからな。シルフィアさんも連絡してこないから大丈夫だとは思うけど、念のためなんだけど」
「そうか、承知した」
そうして僕たちは王都『ユラシティ』に向かった。




