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9 半魚人ってなんですか?

 主人公、いつになく喋ります。

 犬耳さんに地図を見せてもらったし、途中会った人に確認しながらイレイザ村に向かった。


 イレイザ村は東の東の端。海の近くだと聞いた。


 走りながら、周りの風景を見て、大体の文明レベルにアタリをつける。


「だいたい、18世紀のヨーロッパくらいかなぁ」


「そうだね。ただ、化学文明ではなく魔法文明が発展した結果、地球とは異なる道を歩んだんじゃないかな?


 地球も、人類が魔法を秘匿しなければ、こうなっていてもおかしくないよ」


 フェンリルが隣りを走りながら答える。


「ところで、イレイザ村はまだかな?」


「まだ、1時間も走ってないよ…。


 お姉さんの話しでは、半日はかかるらしいし…」


 面倒くさっ!!

 長そうな道のり…!!


「面倒くさいなら、ゴブリンにすればよかったじゃないか?」


「だめ!もし、《暴食の魔王ダーリン》の部下とかだったらどうするの?」


「はぁ…そのネーミングセンスどうかと思うよ…」


 むっ!!

 失礼な、使い魔!!

 《ベルゼブブ》って言うと、他の人が変に思うから、呼び方を変えろって言うから、《ダーリン》にしたのに…!!


「はぐれのゴブリン集団って言っていたけど…」


「いいの!できれば、魔物は殺さない方向で…!」


「はいは~い!

 

 ミュウ、速度を落として!人がいる」


 おっと!!

 速度を落とす。

 さっきまでの速度は、いくら魔法で筋肉強化しても、ちょっと有り得ないスピードだとフェンリルが言うので、人がいるところでは、速度をかなり落とす。

 今、走っているのはだだっ広い草原のようなところで、土の道の上だ。

 さっきまでは石畳の道が続いていたし、家もちらほら見えたのに、草原に入ってからはずうっと同じような風景が続いていた。

 遠くまで見通せるが、見えるところに人はいない。

 さすが狼!匂いには敏感だ。


 あれ?


「フェンリル、血の匂いがする!」


 フェンリルが頷いて、走る速度をさらに落とす。

 私は、立ち止まる。


「フェンリル、さぐってきて。


 襲われているのが人なら、無視して!


 魔物なら、教えて」


「わかった」


 風のように使い魔は走っていく。

 あっという間に見えなくなる。


 息を吸い込む。

 血の匂いが近い。

 この距離だと、1分もしないうちに帰ってくるかな?



 道の脇にあった、椅子にちょうどよさそうな石に座る。


 

 とはいえ、襲われている、もしくは血を流しているのが魔物だった場合、助けるかどうか悩む…。

 助けてもいいけど、その後どうしよう…。


 …まあ、どっちかわかってでもいいか。


 考えているうちに、フェンリルの気配が近付いてくる。


「ミュウ、襲っているのは盗賊っぽかった。血を流しているのは…たぶん、人間?」


 おい!!

 なんだ?その疑問形…!


「いや、わからないんだって!!


 地球の概念では、魔物だと思うんだけど、こちらの世界の概念が分からない!


 犬耳さんは人間の部類だろう?他にも街に動物耳の人はいたし…。


 なら、僕が見てきたのは、どちらか分からない」


 首を傾げる。


「半分動物ってこと?」


「いや…半分魚?」


 半分、魚!?


「人魚??」


 おお!!そんなものが!?

 人魚は地球にもいるけど、今は深海にしかいないから、最近見てない!


「いや…半魚人…」


 はんぎょ…?


「地球の半分魚は下半身だろう?


 さっき僕が見てきたのは、上半身だった」


 ……なにそのおもしろ生物!!

 やばい!おもしろすぎる!!


 人間でもいいから、助けに行くことを決めた瞬間だった。

 






 

「ありがとうございました」


 魚さんは傷口を抑えながら深々と頭を下げた。


 襲っている人間を殲滅しようとしたフェンリルに人目があるところでの殺しは止めるように言い聞かせて、ちょっとだけ攻撃してみた。


 下卑た笑いを浮かべながら近付いてきた男たちを風で飛ばしたら、強すぎたのかそこにいた盗賊っぽい男たちは見えなくなるくらいまで遠くに飛んでいった。

 死んでなかったらラッキー!レベルな飛び方だった。


 フェンリルが一言。星になったねぇ…と言っていた。


 魚さんは本当に上半身魚!!

 おもしろい!!

 何かを被っているみたい!!


 これは魚!?人間!?魔物!?

 …食べれないよね?

 もし食べたら、魚の味?でも、腕から流れてる血は人間っぽい!

 

「よく分からない血の匂いだね…」


 …私の考えが分かったのか…?


 振り返ると、フェンリルは微妙な顔をしている。

 

 ちっ!

 ちょっと齧ってみてとか言われるのを察したな…!


「ありがとうございます!」


 魚さんの奥さんも魚!!上半身だけね!

 魚夫人だ!!


「旅してるの?」


 後ろの壊れた幌馬車を指さす。

 馬は、殺されたようだった。


「はい…」


 遠まわしに聞くのは、私には向いていない。


「どこに住んでいるの?」


「この先の…」


 ちっ!

 本当に人間か…

 がっかり感が消えないよ。


「海に住んでいたのですが、戦争が始まり、魔物に対する風当りがひどくなってきたので、魔王領に引っ越すところだったのです」


 !!?

 まさかの魔物!!?

 じゃあ、犬耳さんも魔物??


「…昔、この辺りに祖先が住んでいたころは、こんなにも人間が私たちの住処を脅かすこともなかったのですが…」


「昔…」


「ええ、魔王陛下がこの辺りを治めておられたころです」


 !!?

 この辺りは、魔王領だったのか!?

 

「しかし…よろしかったのですか?

 

 見たところ、あなたは人間のようです。先ほどの者も盗賊とはいえ、人間です。


 同族に手を出して、魔物を庇うなど…」


「?なんで?」


 首を傾げると、なぜか慌てられる。


「いえ、気になさらないのであれば、いいのですが…」


 なにかまずいのだろうか?


「ミュウ、彼らは君を心配してくれているんだよ。


 敵対者を助けて、同族を傷つけたら、君の身が危ないんじゃないかってね」


 …できた使い魔だ!

 裏の意味まで理解しているなんて…


「別にいいんじゃない?


 それより、魔王領に行くってどこの魔王?」


 魚の表情はよくわからないけど、少しほっとしたらしい。


「はい、《嫉妬の魔王レヴィアタン》領に」


 …ちっ!!

 世の中そんなにうまくいかないか…。


「友人が魔王陛下の側近をしているので、そちらで仕事を貰おうと思いまして…」


「魚さん!」


 振り返って、手を握る。

 あ!血が付いちゃった。


「さ…さか?」


「名前は?」


「すいません、申し遅れました。サバと申します」


 サバ!???

 おいしそう…いやいや!覚えやすい!!


「いい名前!私はミュウ」


「ミュウさん?」


「サバさん。もし陛下の側近にお会いできたら、お願いをしてほしい」


 サバさんは首を傾げる。

 …どこから首かは分からないけどね…。


「私は、《暴食の魔王ベルゼブブ》陛下に会いたいの」


 サバさんは私の手を振り払って、距離を置く。


「…《暴食の魔王ベルゼブブ》陛下にお会いして、どうするおつもりですか?」


 ありゃ!

 話の持っていき方に問題ありかな?

 警戒心を持たれちゃった…


「陛下に危害を加える気はないよ」


 だって、枕に…いや、添い寝をしてほしいだけだもん!!


「会って話して、陛下がもし戦争を終わらせたいなら、私は手を貸すし…。


 もしご希望なら、人間を殲滅したっていいよ」


 自分で言ってて、それはいい案だと思う!

 そうしたら、戦争なんか気にせず思う存分、添い寝してもらえる!!


 うん!《ダーリン》に薦めてみよう!!


「…あなたは人間でしょう?なぜ…?」


「私は…陛下の味方だよ」


 じっとサバさんと眼を合わせていた。

 ふと、サバさんは笑ったような気がした。


「解りました…。


 一応言ってはみますが、《嫉妬の魔王レヴィアタン》陛下は《暴食の魔王ベルゼブブ》陛下と仲があまりよくないとの噂ですので、どうなるかはわかりません」


「!ありがとう!」


「それから…これも噂ですが、《暴食の魔王ベルゼブブ》陛下は、人間以外には穏やかで優しい方とも聞いております」


「スライム??」


「よくご存じですね?そうです…」


 ばっと上に手を上げる。

 サバさんがびくっとした。

 …だから、万歳です…


 やっぱり!!スライム!!

 しかも、やさしいなら、私のお願い聞いてくれるかも…!!


 サバさんの腕を見ると、血がまだ流れていた。


 右手に魔力を集める。


《治癒》


 光がサバさんの腕に集まる。

 

「傷が…!!」


 すっかり塞がった傷跡を見て、サバさんは驚いている。


「フェンリル!馬の代わりは誰がいいかなぁ?」


「ん―――…。アレイオン?スレイプニル?」


「じゃあ、スレにしよう。天をかける駿馬…」


《支配者たる王が命じる》


《スレイプニル》


 地面に見慣れた陣が現れる。


 ずるっと陣から大きく白い馬が現れる。


【お呼びか?主】


「スレ!この2人を守りながら望むところに連れて行って!


 ただし、傷をつけたら許さない」


【了解した】


 スレではなく、フェンリルの方を身体に入れているのは、こういうところだ。

 身体に入れられるのは一体の使い魔のみ。話しができるのは身体に入れている使い魔だけ。他は魔法陣の中に入れていて、いつでも呼び出せる。

 

 フェンリルは、おもしろいけど、スレはおもしろくない。


 スレは私の命令を聞くだけだ。

 フェンリルは命令を聞くけど、逆らうときもある。でも、できるだけの希望を聞いてくる。


「あいかわらず、おもしろくないね」


【申し訳ない】


 スレは頭を下げる。鼻先を撫でなでると、気持ちよさそうに眼をつぶる。


「怒ってない。2人が友人に会えるまで、守ること」


【了解した】


「いいコ!」


 そう言うと、スレは嬉しそうに眼を細める。


「サバさん、このコを馬代わりに使って!私の家来。お友達に会ったら、返してくれればいいよ」


「し、しかし…こんな立派な…」


「気にしないで!お願いをしたのだから、それに対する対価は必要!」


 遠慮をするサバさんにスレを押し付けるようにして渡す。


「それに…スレは速いんだけど、速すぎて気分悪くなるかも…」



 そう言っておいたが、スレに聞いたところ、《嫉妬の魔王レヴィアタン》領に着いた時、青い魚の顔が、白くなっていたそうだ。

 おもしろそう!!見てみたかった!!



 ちなみに、魚夫人の名前は、ブリカというらしい。

 ……ブリか!!おいしそ…いい名前!!


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