Ⅹ ぴかってね!
主人公が巻き込まれ召喚された後(?)の地球の話になります。
私がその指令を受け彼女に始めて会ったのは、警察官になって4年目のことだった。
もう3年も前になる。
「ある女性の監視と護衛を頼みたい」
上司からではなく、本庁に名指しで呼び出された。
「これは国家機密だ。その女性の正体はおろか、名前さえも誰かに漏らすことは許されない。それから、護衛は極秘に…だ」
意味が分からない…。
が、逆らう理由もない上に、破格のボーナスを提示され、私は了承した。
そして、誓約書にサインをした。小難しい誓約書だが、要約すると、
①命を失っても文句を言いません。
②怪我をしても訴えません。
③対象の存在を絶対に公表しません。
④もし公表した場合、秘かに始末されても文句を言いません。
⑤対象を絶対に怒らせません。
なんだ、この誓約書は…と言うのが一番の感想だった。
「護衛対象はどなたなのですか?」
かなり危険な対象なのか?
不安しかない…。だが、その後の言葉は更に耳を疑うものだった。
「先に言っておく。私はトチくるってもいないし、正常だ。頭の中身を心配する必要はない」
意味が…?
「……護衛対象は、『魔王』だ」
「…………は?」
思わず、呆気に取られる。
何を言っているのだろう?
『魔王』!!?
「《7つの大罪》と呼ばれる7人の魔王の一人、《怠惰の魔王》。それが彼女の名前だ」
そう言われて、出会ったのが黒い長い髪を腰まで伸ばし、黄色い瞳をした超絶美少女だった。
高校に通っているという彼女は、ほんとうに普通の少女にしか見えなかった。
なぜか電車に乗りたがり、なぜか学校に通いたいという。
ちなみに、一年から初めて、卒業して、また一年から違う学校に通っているらしい。そんなことを繰り返して、今期は6回目だと言う。
彼女の理由の大半は、「気持ちよさそう」「おいしそう」「おもしろそう」。そんな物ばかりだった。
美少女なのに、おしゃれにも美容にもまったく興味がないらしく、ある日、自分で適当に切ってしまった髪を見て、思わず悲鳴を上げそうになった。
それでも、女の子らしく、甘いお菓子は大好き。
甘いものを前にしている時だけ、笑わない彼女の表情が少しだけ緩む気がした。
だけど、時折見せる、残酷な顔が、彼女を魔王たらしめていた。
まるで、虫を殺すかのように、なんの躊躇いもなく、人を傷付ける…。人類との約定で人を殺すことはしないが、憐れみや優しさはかけらも感じられない。そもそも虫がいたとしても、自分に何かしてこなければ、手は出さない。そんな少女だった。
「ミュウ……」
今、私は茫然としている。
彼女が突然何人かのクラスメイトと光に包まれたと思ったら、こつ然と姿を消してしまったからだ。
他の仲間も突然のことで、茫然としている。今日の担当は4人だ。私は、副担任として潜入しているから、なんの違和感もないが、他の3人は明らかにおかしい。学校にいると不審者扱いされそうな黒のスーツだ。
だけど、急に彼女がいるはずの教室が光に包まれたことで、慌てて教室まで来てしまったようだった。
「なんて…こと…」
護衛対象を見失うなんて…。
それより、彼女はどこへ?
あの光はなに…??
彼女が時々、使う魔法の光のようだった…。
まさか!!
「連れ去られた…?」
呟いた私の声に仲間が我に返る。
「越智!何があった!?彼女はどこだ!?」
「わ…かりません…。彼女とクラスの何人かが…急に光に包まれて…。気が付いたら、消えていたんです」
何が起こったのか、私が知りたい。
いつものように彼女は同じ時間の電車に乗っていた。いつものように教室にやって来た。
今日は「人類史上最悪の運勢らしい」とまるで愚痴のように言っていた。
ラッキーカラーは黄色だから黄色の傘を持ってきた。と…。
いつもと違ったのは、いつも一番乗りの彼女よりも先に、何人かのクラスメイトが来ていたということだ。
「急に…床が光って…」
「ふぅ~ん、ひかり、ねぇ」
何かを言おうとした仲間が、勢いよく振り返る。
教室の後ろの端。小さく、身体を折り畳み、座り込んでいる人物。
ぞっとした。
いつの間にそこにいたのだろう。
まるで、そこに初めからいたかのように、その少年はいた。
純粋とは程遠いような笑顔を浮かべているのに、ひどく純粋にも見えるその笑顔は…とても歪で、それでいて、どこか真っ当にも見えた。
その少年の表情を見た瞬間、震えが止まらなくなる。
全身の鳥肌が立つ。
ひどく寒気がする。だめだ。受け入れられない!
なにかが、違う…。この少年はまずい!
カチカチと歯が自然に鳴ってしまう。今、顔色は最悪だろう。
だけど、震えを止めることができない。
恐怖のあまり、涙が零れそうだ。
見たくない。それでも、眼を逸らすのは、もっと恐怖だ。
周りから同じようにカチカチをいう音が聞こえてくる。同じように仲間も震えが止まらないのだろう。
歪な少年の笑顔は、さらに恐ろしくゆがむ。
まずい。死ぬ…!!
この少年は…魔王だ!!
直感だが、そうとしか思えなかった。
『違和感。生物として、絶対に受け入れられないと感じる者がいたら、それは魔王だ。
彼らはどこか歪で、どこか狂い、どこか正常だ』
前任者が言っていた言葉の意味が理解できる。
そして、自分の魔王を思い起こす。
―――ミュウ…。あなたは、ひどく正常だわ。狂ってもいない。
少年がゆっくりと立ち上がる。
ひっ!と誰かから悲鳴のような声が聞こえる。
逃げ出したいのに、身体は全く動いてくれない。
「そっか、そっか!べるふぇごーる、につけてた、いとが、きゅうに、とぎれたから、みにきたら…」
少年は舌っ足らずな口調で話す。
「う~ん、これは、きょうだいたちに、しらせなきゃ!」
兄弟!!?
「きゃははは」
愉快そうに、歪な笑顔を張り付けたまま、少年は笑う。
さらに、ぞっとする。
この少年は…!!
少年は、横にあった窓から、出て行ってしまう。
空をすごい速度で飛び去った少年を見送って、考えてしまう。
兄弟!?
まさか!?
魔王の兄弟なんて…魔王しかいないじゃない?!
私は最悪な想いで、急いで、上に報告するために震える手で電話を手にした。
「消失?」
「そうだよぉ。ぱってね!ぴかって!きゃははは」
「…意味不」
「だからぁ、ぴかっ!なんだって!」
「なるほど!まったくわからないね!
つまりはそこにいた監視の者に聞いてみればいいということじゃないか?」
「きゃははは。さらおう♪らちろう~♪にしても、ひっきーが、でてくるなんて、めずらしいねっ」
「いや~!当たり前っしょ!!俺様のかわいいかわいい妹ちゃんが!いなくなったなんて聞いちゃったら!!新作のゲームなんてしてる場合じゃないっしょ?」
「…」
「そうよ!!あとに残ったのが、こんなむさっ苦しい男ばっかだなんて!!!悲劇だわ!!」
「…君も割とその部類に入る気がするよ?」
「あらやだ!あたしは永遠の乙女なのよ?」
「気持悪」
「げろげろ~♪」
「失礼ね!!」
「かま~♪かま~♪」
「ぶち殺すぞ!このくそガキ!!」
「どすが聞いてるよ」
「あら、やだん」
「さぁて、それでは監視の者を拉致りにいくかな」
「きゃははは」
「…」
六つの人影があった。
その中には、大昔より畏怖の眼を向けられる者がいた。
その中には、狂っているとしか思えない者がいた。
その中には、残虐という言葉では語れないほどの者がいた。
その中には、現在においても戦争を起こしている者がいた。
その中には、恐ろしい者しかいなかった。
かくして、ゆっくりと世界の破滅は動き出したのである。
サブタイトルの雰囲気がちょっと違うものを、今後ちょこちょこ入れていきます。数字が変わったら、場面も変わります。




