8 美少女ってなんですか?
『ねぇ、つまらないと思わないか?』
『この世界だよ』
『いったいいつからこんなにも面白くない世界になったんだ?』
……《憤怒の魔王》?
眼を開けると、ふわふわのしっぽが目の前にあった。
「…フェンリル?」
【おはよう、ミュウ。起きたね】
「ん!…《憤怒の魔王》が…」
眼をこすりながら、周りを見渡す。
やっぱり夢か…
あれはいつのことだったかな?
まだ眠い…
「夢に出てきた…」
起き上がると、太陽がまぶしい。
「あさ…ひる?」
【昼が近いかな…?昨日のパン食べたら?】
「ん」
寝すぎたかなと思いつつ、近くにあった布の袋を開けて、パンを出す。
「かたい…!」
こんなのかじったら、歯が取れる!!
すぐに生えてくるにしても、絶対挑戦したくない固さ!!
ちらっと隣を見る。
「フェンリル…」
【だめだよ!二日目から甘えてたら、絶対よくない!】
ちっ!!
なにか買いに行かせようと思ったのに…使えない使い魔!!
仕方がない、なにかスープでも買いに行くかな。
「ミュウ、着替える?」
あれ?パンとにらめっこしている間に、フェンリルが人型になっている。
ふわふわのしっぽが…
人型になるとしっぽが無くなるから嫌だ。
「はい、昨日もらった服ね」
「ん」
広げると上はびろびろっとした膝上のワンピースみたいになっていて、下は緩いズボンのようになっている。
らくらくパジャマ…!
着替えが終わると、フェンリルがどこに持っていたのか、櫛で髪をといて、前髪を上げてピンで留めてくれた。
はさみを手に入れたら髪を切ってあげるよ、と言われた。
なんてできた使い魔!!
邪魔な前髪が落ちてこない!!
フェンリルを撫でてやろうと思ったけど、頭に手が届かない…。
手を伸ばしかけると、気付いて屈まれた!!
くっ!!
なんだか悔しい…!!
「スープがいい」
屋台を指すと、先を歩いていたフェンリルがくるりと振り返る。
「これでいい?」
「これがいい。これちょうだい!」
屋台のおじさんに声をかけると、おじさんははっとする。
「いや~!お嬢ちゃん、えらくべっぴんさんだな~!!
なかなか見ないぞ、こんなかわいいコ…」
何言ってんだ?このおじさん…
首を傾げる。
「いいから、早くちょうだい!」
「よし!!美人なお嬢ちゃんには大盛りにしてやる!
ついでにこれも持っていきな!サービスだ!!」
お饅頭みたいなものを渡される。
大盛り!!デザート!!やった!!
お金を払って、器とスプーンを受け取る。
「これに座って食べるといいよ」
わざわざ机とイスまで店の横に出してくれる。
「これもサービスな!リ-ノのジュース」
この人、なんていいひと!
スープは美味しかったし、パンを浸すと柔らかくなって食べれた。
お饅頭もジュースも美味しかった。リーノはリンゴみたいな味だった。
だけど、なんだか屋台付近にどんどん人が増えていって、混雑してきた。
面倒くさっ!!これ抜けるの?
食べ終わって器を返すと、おじさんに何故かお礼を言われた。
意味不明…
「ミュウ、抱えようか?」
フェンリルが聞いてくる。
「…歩く」
フェンリルは背が高いから、抱えられると目立つ。
そのせいで、地球で何度面倒に巻き込まれたか…。
ギルドに向かうまでの間、歩きやすいようにフェンリルの後ろをぴったりと着いて行った。
フェンリルにギルドのドアを開けてもらうと、昨日よりも注目を浴びたらしい。
女の甲高い声が聞こえてきて、うるさい。
かっこいい!なに、あの人!!とか聞こえてくるけど…
早く、どけてほしい。フェンリルがドアを開けた姿勢のまま動かないから、脇の下からするっと中に入る。
と…
どわっ!!っと騒ぎが大きくなった。
う、うるさ!!!
しかも、うるさすぎて、何言ってるのか全然わからない!!
ギルド中の人が何かを喋っている。
かろうじて聞き取れたのは、なんだ、あの子!!うそだろ!!うわ~!!とか?
耳を抑えるけど、防げないし!
耳を抑えていると、フェンリルにひょいっと抱えられる。
「受付に並ぶよ。このまま待つから、寝ていてもいいよ」
「ん~」
確かに昨日くらい受付に人が並んでいる。
悩んでいると、すぐ前の人が後ろを向く。
「あの…よかったら先行くか?」
お!譲ってくれた!!
と言った感じで、ずっと人が譲ってくれて、列の一番前に来れた。
「こんにちは。初めてかしら?」
犬耳さんだ!
「昨日会ったよ」
そう言うと、首を傾げられた。
あれ?覚えてない?
まあ、いいけど…
「はい、会員証」
手渡すと、水晶の上に置いて、しばらくして勢いよく顔を上げた。
「ミュウ!!!?」
犬耳さんの声が大きすぎて、ギルド中に響いた。
うるさいよ…!!
「うん。ね、今日は何か依頼ある?」
犬耳さんは驚いて、まだ固まっている。
何を驚くことが?あ、そっか。
「この子はフェンリルだよ」
少し後ろにいたフェンリルを指さす。フェンリルは少し頭を下げた。
「…子?」
犬耳さんはフェンリルに会釈しながら、首を傾げていた。
「今日は…そうね」
ちらっと私の顔を見る。
「この2つね…」
と、依頼の説明をしてくれた。
「驚いた…あんなにかわいいコだったなんて…」
犬耳さんこと、リアンナは、ミュウたちを見送って、ため息をついた。
リアンナは交代になったので、今は新人受付の方に移動している。
確かに昨日は前髪で隠れていて、顔の半分以上が見えなかったが…
驚くほどの美少女と言うものに初めて会った、と思う。
黒い髪は、綺麗に梳かれていて、大きな黄色の瞳と長い睫。真っ白い肌に、形のいい小さめの唇。
始めに入ってきた男もかなりの美形だったけど、美形がかすむ美少女なんて…。
「おい!!リアンナ、聞いたか!?
市場の方で、美少女と男前のカップルが…」
ネイドが勢いよく入ってきたが、ギルドの雰囲気がどことなく浮いているのに気が付いて、入り口で止まる。
辺りを見ながら、近付いてくる。
「なあ、どうしたんだ?この変な空気…」
「さっきまで、その美少女と男前が来ていたのよ…」
「なに!?なにかを依頼にか?」
「はずれ!冒険者の方よ」
「え!??美少女は冒険者なのか?」
「というか…昨日の女の子のミュウがその美少女なのよ」
ネイドが止まった。
固まった。
「えええええ―――――――!!
ミュウが!!???」
なんだか、かなりのショックを受けたようだ。
そして、口元に手をあてて、顔を近づけてくる。
「危なくないか?
今、軍がかなりの数出払っている…。街の治安はいいとは言えない…
そんなに美少女なら…」
「大丈夫よ」
「なんで?」
確信というか…勘だ。
あの男…にこにこと笑い、隙だらけのように見えた。
だけど、どうしても攻撃しようとは思えない。
これは過去に冒険者として何度も死地を潜り抜けてきた、勘…。
あの、フェンリルという男は…かなり強い!
「ところで、今日は何の依頼に行ったんだ?」
「イレイザ村の狼退治よ」
「イレイザ!?なんでまた、そんな所に!?まる一日はかかるぞ?」
そう…わからないのはそこ…。
「そうなのよ…同じような依頼で、すぐ隣のライス村のゴブリン退治の方が、近いし金額もいいのに何故かそっちを選んだのよ」
ライス村のゴブリン退治。歩いてすぐの村で昼食付で7000ギル。
イレイザ村の狼退治。行き帰りで歩いて一日かかるだろう。5000ギル。
あまりに美少女すぎたので、人に接しない仕事を選んだ。進めたのは2つの依頼。
昨日のことを考えると、お金が欲しいみたいだし、ゴブリン退治の方が楽だしお金になるから、そちらを選ぶだろう。
魔法が使えるなら、ゴブリンなんて敵ではないだろう。
そう思ったのに…。
なぜ、狼退治を選んだんだろう??
しかも、あまり悩まなかった。
少しだけ考えて、すぐに選んだ。
どうして?と聞いても、こちらの方がやりやすそう、としか言わなかった。
ゴブリンはどちらかと言うと人のような外見だから抵抗があるのか、と聞いても、別に抵抗はない、と言うだけだった。
本当に理由がつかめなかった。




