7 お金ってなんですか?
ギルドに入っていくと、中は居酒屋のようになっていた。
昼にはなかった椅子や机が一階部分に所狭しと並んでいる。
そこに、ほとんど全部の席が埋まるくらい、人が座っているし、立って飲んでいる人までいる。
そして、心なしか昼よりも人が多い…。
うえ!面倒くさっ!!
なんで!?お昼とは別の意味で面倒くさい!!
今日は、窓口業務はもう終わったのかな?
そう思って、カウンターを見ると、まだ犬耳さんは座っていた。
よかった、そう思って足を向ける。
「あら?どうしたの?」
犬耳さんは、私を見ると、不思議そうに首を傾げる。
「依頼達成したので、これ」
私が、会員証を渡すと、驚いて目を見開いた。
「ずいぶん早かったのね…」
犬耳さんが水晶を持ってきて、上の凹みにネックレスを載せる。
「まあ!!すごい!!本当に終わってるわ!!それも、評価も最高の5じゃない!!」
評価とかあったのか…
オジさんが、小さい水晶を持って来て、同じように石を乗せたのは見ていたんだけど…
あの水晶って買うのかな?レンタル?
「初依頼の達成おめでとう。依頼料はどうする?」
どうする?どうするとは?
「ギルドに預けることもできるし、持っていくこともできるわよ」
そういうことね。
財布もないし…どうしよう。
【半分を預けておくことをお勧めするね。君、あったらあっただけ使っちゃうでしょ?】
本当になんてできた使い魔…!!
「半分だけ預けて、半分はもらっていい?」
犬耳さんは頷いて、待っててと言って、事務所に入っていく。
はあ…ねむい!
うとうとしそうだよ。
「ミュウ!依頼もう終わったのか?」
うげ!!
ネイドだ…!
なんでいるんだ?!
声だけでわかった…面倒くささ…!
仕方なく、ちょっとだけ顔を声がした方へ向ける。
居酒屋スペースの方からネイドが何人かと歩いてくる。
いや、そいつら置いてこい…!!
「終わった…」
「そうか…明日までかかりそうなら、手伝いを申し出ようかと思ってたんだ」
…やっぱり!なんてめいわ…親切なひと…
さっさと終わらせて、本当によかった。
「おまたせ!」
犬耳さんが戻ってきた。
「はい!半分の依頼料ね。3000ギル」
…2枚の銀貨?10枚の銅貨?
「1000ギルだけ銅貨にしておいたわ」
お金の数え方がわからない…
銀貨が1000ギル、銅貨が100ギルかな?その下はなんだろう?
【…穴の開いた銅貨だったよ】
よく見ているね…?
【君が見てなさすぎなんだよ?】
ってことは、上は金貨?
【う~ん、それはわからないな】
まあ、いいや!
「ありがとう」
「これ、よかったら、財布代わりにしたら?」
犬耳さんが、布の袋を渡してくれる。
おお!気が利くね!
「ありがと」
袋に入れて…面倒に巻き込まれるのが嫌なので、さっさとギルドを出よう。
そう思ったら、ネイドが…
「よし!!一杯おごってやるよ!!お祝いだ」
うげ!!
今日はもういらないよ!!お腹いっぱいだもん!!明日にしてよ!
「今日は疲れた…もう寝る」
そう言うと、ネイドの後ろの酔っ払いどもが、そう言うなよ~、とか、一緒に飲もうぜ、とか言っている。
ネイドも犬耳さんも、断ってるのに、笑ってみてるだけ?
…眠いって言ってんじゃん!!
今日はもうだめ!!一回もお昼寝してない…。一回ものんびりしてない!!
本当にイライラしちゃう!!
「…いらない」
それだけ言うと、するっとネイドと仲間の間を抜けて、外に向かう。
追いかけてくる気配を感じて、ドアを閉めた瞬間、思いっきり地面を蹴る。
ふわっと飛び上がる。
おっと!ちょっと勢い付け過ぎた!
5階の建物を超える高さまで、飛び上がってしまった。
くるっと一回転して、ギルドの屋上に着地する。
うん!思った通り!!
ただ、だだっ広い場所。
どうやら、屋上への出入り口はないらしく、本当に何もなかった。
「フェンリル…」
【はいは~い】
ずるっと私の胸の辺りから見上げるくらいに大きい犬に近い生き物が出てくる。
フェンリルは、地球でいう神様の眷属とされている狼だ。
「ねむい…」
フェンリルはくるっと丸まって寝転がる。
後ろ脚の辺りに倒れこむと、ふわりとしっぽをかけてくれる。
「…おやすみ」
フェンリルは使い魔の中で一番いい寝心地…
【おやすみ、ミュウ。僕らの魔王】
すうと眠りに入る。
ああ…
つかれた……
さて、彼女が眠っている間に、ちょっと時間を戻して、馬鹿…勇者たちにスポットを当てたいと思う。
神王と勇者たちとの食事会が始まる前のことだ。
「え!?向井さんが!??」
亮介は思わず立ち上がってしまう。
「ちょっと、亮介!!」
隣りで慌てて、莉子が声をかける。
「彼女は、ムカイサンという名なのですか?
ムカイサンは自ら城下で暮らすことを望まれたと聞きました。
住居も生活費も教師も手配しておりますので、心配には及ばないとは思いますが…」
カティーラ王子は首を傾げる。
「あ、いえ。向井さんというのは苗字です。
名前は…」
亮介が莉子に眼を向ける。
「知らないわよ、私。あの子の下の名前なんか!!」
「そういや、なんて名前だっけ?」
と大和。
「私も知りません。というより、向井さんという苗字だったのも、今日亮介が呼んでいるのを聞いて思い出したくらいで…」
蛍の声はだんだん小さくなっていく。さすがに6か月も同じクラスだったのに、苗字さえも知らなかったことに罪悪感があったのかもしれない。
「?あなたがたは、ご友人ではなかったのですか?」
「違います!!」
王子の疑問に莉子は否定する。
「あんな暗い子…!」
「そうですね。話したことはありませんし、恐らくあちらもそうは思っていないと思います」
「そうなのですか?…彼女には気の毒なことをしました」
「どういう…?」
王子の言葉に亮介は首を傾げる。
「彼女は勇者さまではありません。予知では勇者さまは4人。
つまり、彼女は不幸にも巻き込まれてしまった一般人ということになります。
一般人である彼女には、勇者さま方にあるような特別な力は何もありません。
勇者さまにはこの世界の誰よりも高い魔力と武器をすぐに扱える特殊な力が備わっていると思われます。
しかし、彼女は魔力もこの世界の魔法使いの平均以下でしたし、剣を持ってすぐに戦えるようになると言ったことも恐らくありません。
戦争に巻き込めば、命を落としかねません」
勇者たちはしんとなる。
さきほど、説明を受けたが、自分たちが本当にそんな力を持っていることが、信じられないからだ。
「では…向井さんは、私たちが巻き込んでしまったということでしょうか?」
勇者たちははっとした。
「そうか!俺たちが教室にいなきゃ、向井さんは巻き込まれずにすんだのか…。
王子さま、向井さんはどこに?謝らなきゃ…!」
「城下町に…ですが、会いに行くことはできませんよ」
「なぜ…!?」
「勇者さま方には明日よりしていただくことがたくさんあります。
彼女に申し訳ないと思うのなら、早く魔王を倒し、元の世界に帰れるようにして差し上げるのが一番だと思います」
亮介はそう言われて、確かにそうだと思い直した。
「しばらくしたら、会える時間を作っていただけますか?」
「わかりました。勇者さま方の勉学等が落ち着いたら、彼女に城に来ていただきましょう」
王子は了承した。
ちょうどその時、神王がお越しとの先ぶれがあり、全員が席を立ちあがった。
そうして、勇者たちの「人類史上最悪の運勢」の一日は、食事会、城の案内、歓迎パーティーであっさり幕を閉じたのである。
パーティー後、4人は集まり、今後について話をしていた。
「すげえな、勇者と魔王かぁ…!!」
「しかし、魔王をそんなに簡単に倒していいんでしょうか?」
「どういうことだ?蛍」
「よく考えてください。魔王とはいえ一つの国を治める王さまですよ?」
「だから…?」
蛍は呆れたようにため息を漏らす。
「では、魔王をどこかの国の首相か大統領に当てはめてください」
「……おい!俺らって…」
「ええ、まぎれもなく、その国の転覆を図る反逆者か、暗殺者ですよ」
3人は息を飲む。
確かにその通りだ。いくら戦争状態にあるからとは言え、倒すという決断を、何も知らない今の状態でするのは、あまりにも愚かだ。
「魔王をどうするかは、まだ結論を出すべきじゃないな。
俺らの世界のゲームや漫画の中の本当の悪なのか、それともただの王さまなのか、わからないままに結論をつけるのは早いと思う」
「だな」
「そうね」
「はい」
4人はそう結論付けて、その日は解散した。
「そうですか、そんなお話を…」
王子は自室の机に向かいながら、天井裏からの報告を受け取っていた。
「安心しました。少し冷静になり、考えられるようになったようですね」
「そのまま勇者さま方の監視と護衛をお願いします。
それから、ムカイにも一人、監視を付けてください。
大臣から聞いた住所はこれです」
一枚のメモを差し出すと、天井から降りてきた人物が受け取る。
「彼女の行動の報告は?」
「変わったことがあったときだけでいいですよ」
「はっ!」
誰もいなくなって、王子はため息をつく。
勇者たちが、本当の馬鹿ではなかったことの安堵のため息だった。




