6 ランクってなんですか?
「はい!これがギルドの会員証ね」
競技場での試験が終わった私は、ギルドの受付で犬耳さんに小さい石のついたネックレスを渡された。
おお!黄色い石!!ラッキーカラー!!
【…カードじゃないんだね】
確かに、会員証っていえば、カードっぽいよね。
「高価なものだからなくさないようにね。
中の情報は、ギルドに来ないと確認できないから」
【まさかの個人情報保護!?】
確かに、首から下げる物に名前とか書いてると、もめ事に巻き込まれそう…
「じゃあ、少し説明するわね。
まずは、ランク付けから。ランクって言うのは、冒険者の8つのランクのことよ。
一番下からF、E,D、C、B、A、S、一番上はSSランク」
なんで、Aの上がSなんだ?
それとも、勝手に変換される言葉が都合よく聞こえるのかな??
「あなたは一番下のFランクからになるわ。
受けられる依頼は、一つ上のランクまでになるから、気をつけてね」
「どうやったらランク上げられるの?」
「自分のランクだったら、一定数の依頼を達成できたら上がるわ。上のランクだったら、10の依頼を達成したらね。
ただ、気をつけてね。受けた依頼を達成できないと、罰金が必要になるから。依頼の失敗が3回続くと、また一のFランクから始めなきゃいけないから気をつけてね。
それに、新人は1ヶ月は必要ないけど、それを過ぎると依頼を受けるにもお金が必要になるわ」
…なるほど、じゃあ、しばらくはこの街でちまちま依頼を受けないと、依頼を受けるお金が出せなくなって、困りそう…
すぐに旅に出ようと思っていたけど、思い直す。
最初の1か月はこの街にいよう。
依頼は、戦争系以外で…じゃないと、《暴食の魔王》と敵対行為になるよね?
もし、戦争が激化して、《暴食の魔王》がここまで来てくれたら、ラッキーってことで…!!
【魔王が目的なら、人間を殲滅してもいいんじゃない?
そしたら、すぐに会えるんじゃない?】
なに、この使い魔…今物騒なこと言ったよ…。
だって、この世界の魔王の立ち位置がわからない…
世界の何も分からない状況で手を出すべきじゃない。
もし、《暴食の魔王》が本当は戦争とか嫌だったら、殲滅は望むところじゃないよね?
それに、私一人が人類の敵になって、こちらでは味方もいないのに狙われ続けるなんてことになったらどうするんだ?
無責任なことを言わないでほしい。
「最初の依頼は補助制度を使うこともできるわよ」
補助?
「上のランクの冒険者に着いてきてもらって、依頼を受けることができる制度よ」
うえ!絶対いらない!!
思わず、きょろきょろしてしまう。
ネイドがいないことを確認してしまう。
ああいうタイプは、頼んでもいないのに勝手に手伝おうとするようなおせっか…親切な人間だ。
「私が受けれる依頼ってある?」
聞くと、犬耳さんは、そうね、と紙を何枚か出してくれる。
「今は、初心者可なのはこの3つかしら?」
紙を見る。うん!読めない!!
これは不便だ!
さっさと読めるようにならないと!
「これは、配達ね。
荷物や手紙を運ぶ仕事。これは一日かかるかしら。報酬は、3000ギルね。
こっちは、倉庫の荷物運び。
ただ、力が必要になるわ。終わり次第終了になっているけど、女性には向かないかも。報酬は、6000ギル。
最後は、薬草探しね。40束届ければ終わり。報酬は、2000ギル」
ギル…お金の価値が分からない。
【円と変わらないと思うよ。1ギル1円。屋台とか、市場の値段から言うとね!】
なるほど!使える使い魔だわ!!
【…屋台で見てたのは、食べ物だけだったんだね…】
「どれにする?」
配達は、一日かかるし道も分からない…薬草は、種類が分からない。
迷う必要はないか…
「荷物運びで!」
「え!?」
犬耳さんは、意外そうな声を出した。
まあ、私の体を見て、力自慢には見えないよね?
「魔法は使ってもいいんだよね?」
「え?ええ、まぁ…」
なら大丈夫!
「では、手続きをするわね。会員証を…」
はい、と手渡すと、犬耳さんは近くに置いていた大きめの水晶を手元に持ってくる。
一番上の少し凹んだところに石を載せる。水晶がかすかに光る。
「水晶を見て。これが、あなたの情報よ」
覗いてみると、水晶の中に文字(?)が見える。
だから、読めないんだってば!!
まあ、たぶんあの紙に書いてた個人情報が載ってるんでしょ?
「依頼をクリアしたら、この会員証に完了をもらって、ギルドに持って来てね。
その時に依頼料を渡すから」
「ん!わかった!!」
「じゃあ、場所だけどね…」
犬耳さんに簡単な地図と依頼者の名前を教えてもらって、さっそく向かった。
「…お前が??」
場所に着いてギルドから来たことを伝えると、オジさんがすっごく怪訝そうな顔で私を見てきた。
うん!わかるわかる!!
もっと力持ちを期待していたんでしょ?顔に書いてあるよ。
私は太っちょのオジさんの半分くらいしかないもんね。
「…まあ、冒険者なら、多少は何かあるんだろうし」
オジさんは、こっちだ、と先に立って案内してくれた。
大きな倉庫。コンテナみたいな箱が天井近くまで詰まれている。
何が入っているんだろ?
ひと箱が大きいな。1m四方ってところかな。
さっきの競技場より体育館っぽいなあ…。
でも、ちょっとぼろい…
柱とか外れかかっているし、天井も穴が開いているところがある。
だいじょうぶ?ここ…
「この倉庫が古くなったんで、隣の新しい倉庫に荷物を移したいんだ。
中身はこっちが衣類。こっちは、靴だな。全部で、50箱くらいかな」
つまり、この倉庫のなかは、全部衣料品てこと?
「ここは洋服の販売店の倉庫なんだ。新しい倉庫はこっちだ」
オジさんが歩いていく。
新しい倉庫は本当にすぐとなりにあった。
なるほど…
どうするかな?
「まぁ、がんばって!早めに頼むよ。今日か明日までにできればいいから。無理なら早めに言ってくれよ」
オジさんは、歩いていく。
近くに販売店があるらしく、そっちに歩いて行った。
【どうするの?】
んー…
風で浮かすかなぁ。
でも…
【変に風使うと、建物が崩れそう…】
私もそう思う…となると…
《王が乞う》
《重力》
指さした箱がふわりと浮く。
おお!!異世界にも重力の概念があるのか?
これなら早く終わるわ!!
私はご機嫌に箱を何個か同時に浮かせながら、ぶつけないように隣の建物に持って行った。
「終わったよ」
「なに!?」
私が声をかけると、店番していたオジさんが驚いた声をあげた。
「うそだろ!?まだ1時間もたってないぞ!!」
お!!なんの補正だ?時間が普通に私にわかるように翻訳されている。
「確認してほしい」
オジさんと一緒に倉庫に行って、オジさんは唖然としていた。
きれいに同じように新しい倉庫に箱が並んでいた。
「すげえ!!お嬢ちゃん、すげえな!!
最初、変な格好のひ弱そうな女の子だとか思っちまって悪かったな…」
【ぶっ!!!】
使い魔が噴出した。
…なんて正直なオジさん…
「お嬢ちゃん、夕飯食ったか?早く終わらせてくれた礼に家で食ってくか?」
「!!いいの!?」
いいひと!!今まで会った中で一番いいひと!!
さっき、こいつぶっ飛ばしていいかな、とか考えちゃってごめん!
「おお!ウチの家内も客に喜ぶよ!」
やった!!
私が手を上にあげると、オジさんがびくっとなる。
…だから、万歳なんですよ。
「ありがとう!!お腹空いてたの」
私がそう言うと、オジさんは、満足そうに笑った。
オジさんの家は、販売店の二階にあった。
太っちょのオジさんの奥さんは…似たもの夫婦、とだけ言っておこう。
「こんなにいっぱい食べてくれるなんて…ほそっこいのに、見ていて気持ちいいわ!」
奥さんは机に食後のお茶を置きながら言った。
この人、おかわりって言っても、嫌な顔せずに器いっぱい盛り付けてくれた。
オジさんもにこにこ笑いながら、おかわりしてた。
いいひと!!いい夫婦!!!
お腹が空いていた私は、結局3人分くらい食べた。
ビーフシチューみたいだけどさらっとしたスープとフランスパンみたいに硬いパン。
おかわり3回もしてしまった。
おいしかった!!!日本でいうと、いまいちかもしれないけど、すごくおいしかった!!
そう言えば、昼も食べてなかった…
朝、下位世界に落とされて、昼の時間に、ギルドに行って、試験受けて…
ああ、本当に長い一日…
【ところで、早くギルドに行って、お金貰わなくていいの?】
お!!そっか!!
お礼とお別れを言うと、かなり残念がってくれた。
しかも、別れ際に、この世界の普段着と夕食に余ったパンをくれた!
私はご機嫌だ!!もう暗くなりかけた街中を、スキップまじりで進んでいく。
いいひとたち!!
うん!あのひとたちが、もし危機的状況に陥ったら、私が楽にしてあげよう!!
【…なんだ、その微妙にずれた、恩のかえし方…】
だって、助けにはいけない。相手が《暴食の魔王》の軍だったら、余計にね!
ああ!楽しみだ!!
こんなに誰かに会うのにウキウキするなんて…
【まるで、恋だね…】
「恋…?私が?…笑っちゃうね」
私の魔王としての欲望は、《怠惰》。
魔王は欲望に忠実だ。むしろ、欲望のみに忠実だ。
「聞いた?
この世界の《怠惰の魔王》は500年前に死んじゃったんだって…」
ネイドが言っていたことだ。
500年前、勇者が召喚され、魔王は倒されたそうだ。
私は、自分の欲望がよく分かっている。
だから、自殺だったんじゃないかとも思ってしまう。
「きっと、そうだって思っちゃう」
【…君は死にたいの?ミュウ】
「死なないよ!今は目標がある!目的もある!なにより…」
また通行人に変な目で見られている。
独り言を言っているようにしか見えないもんね。
気にしないけどね。
上を向くと、月が見えた。赤い月だ。
それに、手のひらを向けて、思い切り手を伸ばす。
「私は…こんなおもしろそうな世界に落としてくれた世界に感謝するよ」
飽きていた。地球の生活に飽き始めていた。
おもしろくない。
生活を変えた、住む場所も、何もかもを変えた。
それでも、大きな変化もない世界。
ああ、つまらない。
あのままいけば、私はいずれ、永遠の眠りにつきたくなっていただろう。
【…なるほど…。
確かに「人類史上最悪の運勢」だ】
この世界がね、と使い魔は笑う。
確かに、「人類史上最悪の運勢」の一日は、召喚の儀があった、という点を除けば、普通の一日でしかなかった。
しかし、これは魔王を倒すために勇者を召喚したら、新たな魔王がついてきた、という冗談のような本当の話だったのだが、そんなことはこの世界の誰かに予測しろと言う方が酷である。
かくして、静かにこの世界に降り立った魔王は、これまた静かに世界を危機に陥れることになる。
余談ではあるが、この日、この世界にいた5人の魔王は、何を思ったのか、何かを感じたのかは不明だが、何故か5人とも黄色の服を着ていたとか、いなかったとか…。




