5 スライムなんですか!?
体育館のようだった。
競技場はギルドの建物のすぐ裏にあった。廊下でつながっているらしく、そんなに歩かなくてもよかったのにはほっとした。城みたいなのは、もうごめんだ。
競技場は本当に体育館のようで、天井の高さも相当なもので、広さも…
違いと言えば、観覧席があることと、地面が土でできてることかな。
これは、あれだね。
むかし、ローマにあったコロッセオみたいな感じだね。
円形の形しているし、観客席もそんな感じだし…
「これでいいかしら?」
着いてすぐ、犬耳さんは、右手に持っていた青い石のついた1mくらいの棒を渡してきた。
「こっちにして」
私は犬耳さんが左手に持っていた何本かの杖のうち、黄色い石のついた杖を指さす。
今日のラッキーカラーは黄色!!
「じゃあ、これね」
手渡されたが、何にも感じない。
これ、本当に何か力があるの?
意味があるように思えない!
気にしてみると、少し魔力があるような…ないような?
「試験ってどんなことをするの?」
「簡単よ。競技場のあそこ」
犬耳さんは、競技場の壁のやや上を指さす。
離れた場所なので見えにくいが、小さい丸い的のようなものが見えた。
ダーツの的みたい…
「あれに魔法を当てればいいのよ。まったく当てられなくても気にしなくていいわ。
どんな魔法を使うか、どんな威力か、どれぐらいの距離飛ぶかを見るだけだから」
「はい…」
どうぞ、と言われて躊躇する。
まずい。誰か、参考になる人はいないの??
試しにやってくれるのかと思っていた…
ちょっと悩む。
呪文は!?呪文は唱えるもの!?魔法陣はいるの!?
どっちもなしでできるけど、ふつうは?
この世界の普通って何??
……まあ、いいか。
とりあえず、呪文は唱えてみよう。
そもそも、魔法が使えるのかも分からない。
一応、かなり小さい声で唱えよう。
《支配者たる王が乞う》
《火よ》
右手の人差指の先に火の球が浮かんだ。
おお!できた!!
が!!大きすぎる!!!
……あれ?かなり絞った魔力にしたのに…
今、浮かんでいるのは、人の頭の2倍くらいありそうな火の玉だ。
もっと絞るの?面倒くさい…
このまま、打っちゃダメかな?
【…建物ふっとばしたいなら、どうぞ】
ちっ!!
私の今日の寝床だ…!
仕方ないので、更に絞る。
小さく小さく…
やっと指先の爪くらいの大きさになった。
ほっとして、指を的に向ける。
拳銃みたいなポーズ…
狙いを定めて…
「…ばん!!」
火が的に向かって、一直線に飛んでいく。
そして…!!
どおおおおおおん!!
あれ?
おかしいな…ちょっと壁に穴が開いてしまった。
と言うか、的が木端微塵…
そんなに大きくはない穴だけど…
「あああ!!壁が!!」
犬耳さんが悲痛な叫びをあげた。
…ふと気が付くと、周りにいた人たちがぽかんとした様子で私と壁を見ていた。
お兄さんも犬耳さんも、他の審査してくれるギルドの人も、他に試験中の人も…。
これは…
【やりすぎたようだね】
やっぱり??
「い…まの…魔法か?
杖の魔石は黄色だから、土魔法のはずなのに…」
お兄さんが呟く。
ん?魔石ってこの石のこと?
石によって使える魔法が違うの!?
なにそれ!!言ってよ!!
【…思うに、常識なんじゃないの?】
うぐ!!
ラッキーカラーから始まる、ピンチ!!
全然、ラッキーじゃない!!
「…ってことは、魔石なしで魔法が行使できるってことかしら?
あら!すごい新人さんが入ってきたようね!!
まるで、帝国の氷結の魔導士みたいね」
氷結?なんだそれ??
魔導士?魔法使いとどう違うの??
「氷結?」
「しらない?帝国のギルドに所属する、SSランクの冒険者よ。
その人は、魔法陣も呪文もなしで魔法を使えるそうなの。
そう言えば、あなたも魔法陣を展開せずに呪文だけで魔法を使えるのね。
若いのにすごいわね」
犬耳さん、ナイス!!
助かったと思っていたら…
「でも、呪文の意味はどういうものなの?」
呪文の意味!?私、王とか言っちゃったんじゃ…
「知らない言語だったから…。じゃあ、ちょっと待っててね」
そう言うと、犬耳さんは他のギルドの職員のところに行ってしまった。
よかった!知らない言語ってことは、呪文は日本語になってたってことか?
でも、次から呪文を使うかどうか悩むな。
ま、意味が分からないならいいか。
私は、壁際に歩いて行って、もたれかかる。
眠くなってきた…。
よく考えたら今まで、学校に行って、授業中は寝てって言う生活だったから、今日みたいにずっと起きているのは珍しい。
【寝るのは感心しないよ…。途中で起こされたら、機嫌が悪いだろ?】
わかってる!うるさいな!!
私は後々の幸せな睡眠のためには、努力は惜しまないよ。
【…なんて無駄な努力…】
ぼんやりしていると、お兄さんが隣にやってきた。
ちらっと見て、すぐに前に視線を戻す。
「お前さん、すごいんだなぁ。
俺は魔法の才がなかったから、魔法使いはすげぇって思うよ。
あ、俺はネイドってんだ。ミュウだったな?よろしくな」
お兄さんはにかっと笑う。
ネイド…ネイド…うん、覚えた!
あの王子サマより覚えやすい!!
【…王子サマの名前は、カティーラだよ】
あ、いいのいいの!
もう会うこともないだろうし…!
「しかし、ミュウ。お前さん、今この国の冒険者にならないほうがよかったんじゃないか?」
首を傾げる。
なんで??
すると、ネイドは少し距離を詰めて、声を小さくする。
「この国は今、戦争状態にある。
依頼もほとんどがそれ関係のものだし、能力の高い奴は前線への指名依頼が王室から下される。
言っちゃあなんだが、この国出身でもない限り、この国にいる理由はない」
「ネイドはこの国出身?」
「いや、俺は帝国だ」
じゃあ、なんで?と言おうとして、ぴんときた。
「犬耳お姉さんはこの国出身なんだ?」
「なっ!!おま…!!」
あたりか?
真っ赤になって、そっぽを向くネイドに、私は目を細める。
人間と言うものは、どこまでも、世界が変わっても、同じだ…。
だから、おもしろい…
なら、魔王は?
世界が変われば、魔王は違うのだろうか??
この世界では、領地を治めていると言った。
ゲームにはまりオタクと化したり、食べ歩きで行方不明になったりしていないんだろうか?
そう言えば、この国は…
「魔王と戦争してるんだっけ?」
「ああ…《暴食の魔王》。すべてを喰らい尽くす、暴食の王。元はスライムだって話だ」
私はばっとネイドを見る。
「スライム!?」
ネイドは私の反応に少し驚いていた。
だけど、構うものか。
「あ…あ。噂だけどな。今は、人みたいな形してるし、話も通じるみたいだ…が」
スライム!!
思わず、両手を上にあげる。
ネイドが急に手を上げた私にびくっとする。
失礼な!!だから、万歳です!!
スライムって言ったら、むにゅむにゅ、うねうね、ふにゅふにゅの!!
【…なんで、ゲームもしないのにスライムのことは分かってるの??】
地球でオタクと化した魔王が、似たようなのを作ってた。
動かないし、生物じゃなかったけど…ぬいぐるみみたいなものだ!と言っていた。
「すらいむ3号」と名付けてた!!
【…あったね、そんなものも】
あれの感触…すっごく寝心地がよかった!!
決まった!!
ここは、是が非でも、友好的に《暴食の魔王》に会いに行かなくては!!
そして、添い寝をしてもらう!!!
ぜったい気持ちいいに違いない!!
となると、やっぱり無理やりは心証が悪いよね?
どうすれば、魔王に会えるかな?
「《暴食の魔王》の国って…スライムばっか?」
「ん?まあ、スライムもいるだろうな。
他にはオーガ、ゴブリン…」
ちっ!!
スライム天国じゃないのか…
手土産は何がいいかな…
…それにはやっぱりお金がいるな…
地球の《暴食の魔王》へのお土産はトラックに積んでも足りなかったし…
でも、努力は惜しまない!!
ああ、すっごく楽しみ…!!!
【…僕は理想の寝心地じゃなかった時の《暴食の魔王》に同情しておくよ】
《暴食の魔王》が違っても、スライム仲間には理想の寝心地のスライムがいるかもよ?
とにかく、目標はできた!
「まあ、とにかく、金を稼ぎたいなら、たいした依頼もないこの国じゃなくて、帝国に行った方がいいぞ」
「帝国…?」
「お前さん、帝国も知らねえのか?
聞いたことない国出身だと思ったら、とんでもない田舎なのか!?」
知るわけがない…
この国の名前も知らないのに…
【この国は、神国フェーデリアスだよ】
できる使い魔をもってよかったよ。
「帝国は、この国の北に位置する大きな国だ。
だが、大きな国であるからこそ、つねに領土持ちの魔王と国境線を争っている」
ネイドは地面にがりがりと地図みたいなのを書き始める。
「これが、神国フェーデリアス。北に、ロンザリンド帝国。
これが、《暴食の魔王》の領地。
それから帝国のさらに北、《傲慢の魔王》の領地。
帝国の西は、《色欲の魔王》の領地だ」
なるほど、この国は西に、《暴食の魔王》がいるだけだけど、帝国は西と北に魔王がいるのか…
帝国に行ったら、他の魔王に会えるかな??
「今は争いも小康状態みたいだから、帝国なら、仕事があると思うぞ」
決めた!!
帝国に行こう!!
そう決めた時、犬耳さんが私を呼んだ。
試験が終わったみたい…




