2 勇者ってなんですか?
その日、私はいつものように学校に行った。
黄色の傘を持って…
電車が混むのが嫌なので、少し早く行って誰もいない教室で寝ているのが幸せだ。
いつもは一番乗りなのに、今日はなぜか、クラスの何人かがもう来ていた。
なんだろ?
同じグループの人たちだ。
男2人、女2人。
名前は…忘れた!
高校に入学して同じクラスになって6ヶ月…話したことは…あったっけ??
教室の扉を開けると、視線を向けられる。
が、気にせず自分の席に向かう。
「おはよう、向井さん」
一人の男が声をかけながら、近付いてきた。
なんで、いつもは挨拶なんかしないくせに、今日に限って…。
「…おはよ」
一応、返事はしておく。
あんまり近付いてほしくない。
「亮介、なんで向井さんに挨拶なんかしてるの」
女の子の一人がこっちを睨んでくる。
私は構わずに席に座って、顔をうつ伏せる。
もう、なんの話もしないっていう、意思表示だ。
本当は話しかけても欲しくない。
面倒なことになると、寝る時間が減る。
そんな私に諦めたように、離れていく。
そうそう。
話しかけるとか、珍しいこと止めてほしい。
ただでさえ、今日は「人類史上最悪の運勢」なんだから…!!
槍でも降ったらどうしてくれるんだ!!
面倒くさい。
あ~、今日はいい天気……
本当に雨がふるのかなぁ??
日向ぼっこした~い!!
…おやすみなさい…
と、まあ、私の記憶はここまでで…
気付いたら、ここに立っていた。
面倒くさいことに巻き込まれたことはわかるけど、『召喚』ってなんだ??
『召喚』…人を呼び出すこと。だっけ?
呼び出しとかされてたっけ??
「『召喚』した理由は、これからお話します。取りあえず、一緒に来てください」
後ろのクラスメイトが、「うそ~」「やばくね?」「小説?」「ファンタジー?ゲーム?」とか、意味の分からないことを言っている。
なんで『召喚』でテンション上がるんだろう。
さっきまでの、パニックはなんだったんだ?
金髪についていくと、石製の長い階段を昇り出した。
やっぱり、地下かなあ。
そんな事をぼんやり考えていた。
「ここは、神国フェーデリアスの神殿アルモスの地下です。私は、この国の第一王子カティーラ」
…横文字ばっか言わないでほしい。
一つも覚えれなかった。
「うっそ」
「王子!?」
「まじかよ」
なんか騒いでる。
とりあえず、王子サマってことで…
王子サマ、なんか護衛ぽい人、4人、私、フードの人何人かの順で階段を上っていく。
しかも、この階段、長い…
あ~、面倒くさい…
上の方から、光が見えてきて、ほっとした。
が、そこから、今の部屋に至るまで、長い廊下を歩いて、階段を昇って、また廊下、階段…
本当に途中で、もうここでいいから話をして!
と言いそうになった。
今いる部屋は、かなり広い。無駄に広い。
それに、真ん中に大きくてフカフカそうなソファ。と、高そうなテーブル。
なんて、無駄な部屋の使い方。きっと同じテーブルセットが何組も置ける。
それに、なんで入り口?ドアが何個もあるんだろう?
フカフカそうなソファの広い方にクラスの4人、向かいに王子サマ、私は広いソファの後ろに急きょ持ってこられた木の椅子。
なんでだ?
まあ、確かにソファだと寝るかもしれない…
「お名前をお聞かせいただけますか?」
王子サマはにっこり笑いかけて言った。
パニックから復活した4人に向かい合っている。
まあ、話が通じるなら、そっちの方が私も助かる。
主に面倒くさくないって理由で…。
「あ、俺、如月亮介です」
王子に向かって一番右に座っていた奴が口を開いた。
茶髪のいつもクラスの中心にいるような奴だった。そんな名前だっけ?
女子に異様に人気があったっけ?かっこいいとか言って…
「私、秋野莉子です」
隣の茶髪の女の子が頭を下げながら言う。
確か如月にいつもくっついている私を睨んだコ。
派手な子だなあって思ってた。
「見吉大和です」
その隣の黒髪短髪。こいつは確かサッカー部だっけ?
あんまり覚えてない。
「…井上蛍…です」
さらに、印象にない子だ。
黒い長い髪の清楚系。
「突然の『召喚』、申し訳なく思っています」
王子サマ、私の名前を聞く気はなしか!?
「ですが、この国は、現在危機に瀕しているのです。
あなた方の助けを必要としています。
勇者さま方」
面倒くさい予感だ!!
勇者?勇者って何?
「うわ!ファンタジー!!」
「勇者!?勇者だって!!」
…だから、なんでテンションが上がるの?
しかし…勇者…もしかして…
考え込みそうな中で、王子サマは話し始める。
「この世界には、現在5人の魔王が存在しています。
あなた方の世界に魔王が存在していたのかどうかはわかりませんが、この世界での魔王とは、魔族、魔物、魔獣を率いる者です。
率いている種族は、王によって違いますが、どの王も恐るべき力と軍勢によって長きに渡り、人類と争いを続けてきました。
例えば、ある王は吸血鬼という種族を率いています。また、別の王は、竜族を率いています。
過去には、7人の魔王が存在していたそうなのですが、うち2名は倒されて、その座は長く空位になっています。
魔王は大陸中の様々なところに領土を持っており、我が国に隣接して領土を持っているのがその中の一人《暴食の魔王》なのです。
現在我が国はその国に攻め込まれているのです」
「《暴食の魔王》!?」
おっと、思わず声が出た。
睨まなくってもいいじゃん、王子サマ。
でも、やっぱり勝手に変換された気がする。
それに…魔王か…
「こほん!そして、あなた方には、その魔王を…」
「倒すってわけか!?」
如月が興奮気味に言う。
おい!!面倒くさい話に乗るな!!
「はい。そのためにあなた方を異世界より召喚させていただいたのです」
異世界?
「うっわ!!テンションあがる!!」
なんだか馬鹿4人が騒いでいる。
王子サマはそんな馬鹿を見ながら、にこにこ笑っている。
王子サマのすぐ後ろには、護衛っぽい人が二人と髭のおじさんが一人。
こっちの三人は、表情を変えない。
私たちが入ってきた部屋の入り口には、お茶を持ってきた女の人と他に何人かの女の人。
私は手を口にあてて、考え込む。
…上位世界から下位世界へ…穴に落とされたか…
「詳しいお話は昼食の後にさせていただきます。
その際に、父上…神王陛下にも紹介させていただきます。
まずは、お部屋にご案内させていただきますね」
王子サマはにっこりと笑った。
ガシャン!!!
「あれ?」
お城の門が閉ざされた。
重そうな扉…
でも、なんていうの?
城門という感じではなく、柵みたいな扉…
うん!言葉が出てこないからいいや!!
私の目の前で閉められた…
部屋じゃないし、外だし…
つまりこれって…
「ふん!勇者さまは4人。そう予言にはあった。
であれば貴様は偽物だろう!
命まではとらずにおいてやる!どこぞに失せろ!!」
と、ふんぞり返る髭のおじさん。
おお!!
私が急に手を上にあげると、びくっとした!!
失礼な!!万歳です!!
「ぐっじょぶ!!ちょびひげ!!」
親指を立てて、ちょびひげを見る。
「ぐっじ…?ちょび…???」
ちょびひげは、私が言ったことの意味が分からずに首を傾げた。
呆気にとられるちょびひげを置いて、私はスキップ交じりでお城から街に通じる坂を下りはじめた。
やった!!やった!!
面倒くさい仕事をさせられずに済んだ!!
ってゆか、私が《救世主》なんて、無理でしょ??
スキップで街中を行く。
自然に足取りが軽い。
【あれあれ?ごっきげんだねぇ】
「あったりまえ!
面倒な仕事も受けずに済んで。
下位世界の美味しいごはん!
それに、自然あふれる気持ちいい寝床!!
ああ幸せ…」
どこ行こう?なにしよう?
監視もいない!自由な世界…
うきうきする私に呆れるような声が響く。
【もともと仕事なんて受ける気なかったくせに】
「まずは地図を確認しなきゃ!
あ、お金がないか。
お金を稼ぐ方法を探さなきゃ」
【いつになく行動的…】
「あったりまえ」
なんだか、街の人が独り言を言う私を怪訝そうな顔で見ている。
どうでもいい!!
楽しい明日が待っている!!
「こんな楽しいこと!!」
【楽しければ笑いなよ…】
「おお!ほんとだ」
ふと私は足を止める。
「ところで、『召喚』ってなんだっけ?」
【…君、小説もマンガも読まないし、テレビもアニメも見ないもんね。ゲームもしないし】
「いや、聞いたことは多分ある。でも何かと言われると…」
【まあ、君のいう、「上位世界から下位世界に落ちる」ってことかな】
私は首を傾げる。
「それを大層に『召喚』っていうの?」
変なの!!
【ま、あんまりもめ事を起こさないようにね】
「もちろん、わかってる」
あ、あの屋台の串焼きおいしそう…
あっちのスープみたいなのも…
【君に関しては…その言葉は信じないよ】
「失礼な」
【で?どこに行くのさ?】
「気の向くままかな」
どこだっていい!!
自由な生活が待っている!!
【僕は君の使い魔だから、どこまででも一緒に行くさ】
「ああ!楽しみ!!」
【ミュウ……僕らの世界の《怠惰の魔王》】
ため息をつく使い魔を放って、私は鼻歌交じりに街を進んでいく。
この日、異世界に、一人の少女が降り立った。
彼女の名は、向井ミユウ…
地球での最重要極秘事項
7人の災厄…魔王の一人《怠惰の魔王》だったのだ。




