15 「崇拝」なんですよ!
使い魔フェンリルの想い。フェンリルが割と子供っぽい…。
僕が『彼女』に出会ったのは、もうずいぶん昔のことになる。
出会った当初は『敵』同士だった。幼かった僕は、神である父・ロキと『彼女』の戦いを見ていることしかできなかった。
『彼女』はいつも1人だった。他の魔王と共闘することも、なれ合うこともなくたった1人で戦う。そんな『彼女』は孤高の美しい戦姫だった。なぜ一人で戦うのか…。使い魔を使う素振りも見せない。
それが、ただ単なる『面倒くさかった』という理由だったことは…まぁ、言わなくても分かるだろう。
一方、僕は、父親が下位世界に呼ばれた瞬間、共に来た弟妹ほどには強くなかった。
地を支える世界蛇ヨルムンガンド、冥府の女王と言われるヘル。
そんな2人とは比べられないほどに小さな自分。長兄なはずなのに、その力も存在までも、あまりにも小さい。ただ、大きいだけの狼。しかも、大きさはヨルムンガンドに敵うはずもない。
わかっているはずなのに、弟妹を見るとそんな自分の卑屈さが、僻みが、妬みが溢れてしまう。
そんな僕を見て、『魔王』たちは笑う。
『お前もいっしょだ』と、『神の子、お前は嫉妬に身を焦がしている。我らと何が違う?』と…。
結局、僕は 《嫉妬の魔王》に僕の醜い心を全て暴かれてしまった。
父はそんな僕を残して、弟妹を連れ、元の世界に戻っていった。
僕は…たった1人で残されて…。
使い魔にしようと『魔王』たちが話をしているなか、僕はどうでもよくなっていた。だって、1人、この世界に残されて…なにもない。誰もいないこの世界で、生きていくには、あまりにも虚無感しかなかった。元の世界で、何かを持っていたのかどうかも分からなくなって、本当に空っぽな自分に気付いた。そんな僕を『彼女』はただじっと見ていた。
『この子は私がもらう』
そう言ったのは、何にも興味を示さない《怠惰の魔王》。
それが、ただ単なる『枕』のためという理由だったことは…まぁ、言わなくても分かるだろう。泣
だけど、彼女は僕のたった一つの『意味』になった。
この世界にいる『意味』。生きる『理由』。枕だって構わない。どんな理由だって受け入れられる。
『フェンリルは一番いい寝心地。ふわふわ気持ちいい』
『どこかに勝手にいかないで』
『レヴィ!これは私のだから、手を出さないで』
彼女の中に枕以上の理由があるのかどうかは怪しいけど、彼女の側が僕の居場所だと思えた。頑張らなくてもいい。そのままの僕でいられる。いつしか、彼女は枕以上の『理由』を僕にくれた。
『フェンリルはおもしろい』
『一番楽しい』
『身体に入れるなら、フェンリルが一番いい』
嬉しかった。僕はここにいていいんだと言ってくれているようだった。彼女は割と毒を吐く僕をおもしろがって、側に置くようになった。長く永く、彼女を見つめる時間が増えて行った。
そんな中で気付いた。寝る時と食べる時、ほんの少し、いつもは無表情な彼女の表情が和らぐ。笑うことが出来ない彼女。どんなに近くに居たって、きっと僕では彼女を笑わせることはできない。兄弟である他の『魔王』たちでも無理だ。
だって、彼女は大好きな兄弟といても、本当に無表情だし、むしろ疲れたような顔をしていた。
まぁ、確かに…疲れる性格の『魔王』ばかりだけど…。
本当は笑わせてあげたかった。笑顔が見たかった。
それは僕には無理だから、それなら、彼女が安らかに眠れる場所を作りたかった。彼女の思うままに、自由に生きて、幸せになってほしかった。そのためなら、どんなことだってしよう。誰を傷つけても、どんなに手が血で汚れたって、構わなかった。
これは恋慕ではない。自分で理解している。そんな感情じゃないんだ。
言ってみればこれは『崇拝』。魔王だけど、まるで神を崇めるかのような…。
ただただ、彼女の幸せだけを願う。彼女の命だけを願う。幸せに生きていてくれるのなら、たとえ僕は放逐されたっていい。
永遠の眠りを願うことがないように、誰か彼女を幸せにしてほしい。
それは、この世界の魔王だって構わないんだ。
彼女を幸せにしてくれるのなら!誠実で、彼女だけを思ってくれるような唯一の男。
間違ったって…。
「きみ、美少女だね~。ね!吾と結婚しない?」
女性と見るや求婚して、目の前で彼女に向かって、冗談をほざく軽い男じゃない!!
次回から、主人公視点に戻ります。




