14 化石ってなんですか?
ギルドの屋上でいつものように狼型のフェンリルを背中にもたれかかっていた。串焼きのお肉にかぶりつく。うん、肉汁が口に広がって、ジューシーです。これは何肉だろう?
「『黒髪、黒い瞳、物慣れない16歳の少女。失踪時、黒い服を着ていた』」
犬耳さんに聞いた人探しの内容を口に出してみる。私の言葉に寝そべっていたフェンリルが顔を上げる。
【それで見つかったら、世界に行方不明者なんていなくなってるよ】
少し笑いそうな声のフェンリルを仰ぎ見る。
「これって、やっぱり…」
【お城の誰かだろうね。君が出てくることを期待しているんだろうねぇ】
恐らく、その誰かは、他のバカが四人とも黒い瞳をしていたから、同じように前髪で眼が見えなかった私も同じ色だろうと思ったんだろうな。残念。私は髪も眼も色を変えることはできるけど、基本(たぶんだけど)生まれた時からこの色だ。犬耳さんも他の人も私が眼の色が違うから、そうとは思わなかったみたい…。この世界で髪と眼の色が同じ人間は珍しいらしい。
【君が堂々としすぎて、『物慣れない』条件からかけ離れていたんじゃないの?】
むっ!失礼な!!こんなに右も左も分からない不安げな『少女』に!!
【ぶっ!!化石に近いババアの歳で『少女』とか!】
…その喧嘩買おうか?
【!言い過ぎました!ごめんなさい!】
謝るくらいなら言わなきゃいいのに…。
「にしても、スレ帰ってこない。どうして?義弟なら、何か思い当たる?」
スレイプニルはフェンリルの母親違いの弟だ。といっても、本人たちは義兄弟という意識は全くない。
【確かに母親違いの義弟だけど、スレがなにかんがえてるかまではわからないよ】
珍しいな。あの真面目過ぎるスレが…仕事が終わっても帰ってこないなんて。
【たぶん、返事をもらって帰るつもりなんじゃないの?】
返事?なんの?
【…スレ…可哀想すぎる…。忘れられたお願い事の返事を待つなんて】
おい!泣き真似は止めろ!そんな憐れみが籠りまくったような眼で見るな!
【それはいいとして、どうするの?】
「何が?」
【…今後の行動だよ。探されているなら、なにか対策しないと…】
「別にいいんじゃない?分かる人なんていないんだし」
それに…。
「追い詰められるのも、久しぶりで…楽しいんじゃない?」
そう言うと、フェンリルは呆れたようなため息をついた。
そのころ、ギルドでは、異例の人探しに注目が集まっていた。
黒い髪に黒い瞳の人間はかなり珍しく、色が近い人間を連れてくるもの、わざわざ髪の色を染めてくるもの、孤児の中から探して10歳の男の子を連れてくるもの。最後のは、明らかに性別が違っていて、呆れるよりも笑いが起こりそうになってしまった。違う人間を連れてくるものがほとんどだった。
そんな中、犬耳さんことリアンナは依頼書を見ながら、首を傾げていた。
どうしてミュウはこの依頼を受けなかったのかしら?
お金が必要、そう言っていたのに、どうしてこの高額な依頼をお金がかからない新人の内に受けようと思わないのか、リアンナには理解できなかった。
依頼内容を言った瞬間、少し瞳を細めただけで、「興味ない」と言って、帰っていった。
「そう言えば、あのコも黒い髪ね」
そう思いながら、はちみつのような黄色の瞳を思い出す。あの瞳が黒かったら、条件に当てはまるわね。『物慣れない』とは少し違う気がしなくもないけど。
そう言えば…あの瞳、どこかで…。
考え出したリアンナの思考を遮るかのように、明るい声が受付から響く。
「おね~さん!そこの犬耳のおね~さん!受付お願いできる?」
「はい!」
リアンナはすぐに仕事モードに入り、振り返る。
そこにいたのは、真っ赤な髪の青年だった。長い前髪を左目を隠すように伸ばし、後ろの髪と合わせ、脇で三つ編みにしている。瞳も赤く、リアンナは髪も眼も同じ色なのは珍しいと思ったが、全くいないわけではないので、青年ににっこりと笑いかけた。そんなリアンナに、青年はへらっと笑う。
「おね~さん、かわいい!!受付お願い~!」
「ありがとうございます。会員証をお願いします」
差し出された石を見て、リアンナはおや?と疑問に思う。この国の会員証は黄色の石でできているが、青年の石は青い。これは帝国の石だ。
「帝国からいらしたんですか?」
青年が頷く。なぜ?戦争状態にあるこの国に帝国からわざわざ来る理由はなんだろう?しかも、受ける依頼は薬草の採集?いっしょに提出された依頼書を見て、リアンナはますます不信感を増していく。
水晶の上に会員証を置いて、確認する。
「アシンさん、Dランクね。この国は初めてかしら?」
「そうだよ~」
頷く青年は、なぜかちらっと自分の後ろ、ギルドの入り口付近に視線を送る。と言っても、座っているリアンナには人ごみのせいでほとんど見ることはできない。
なんだろう?
「この国に来たのはどうして?」
疑問に思いつつも質問を続ける。青年はにんまりと笑う。
「おね~さんみたいな美人に出会うため」
はぐらかされたわね。そう思っていると。
「おね~さん、本当に美人!ね!吾と結婚しない?!」
少し大きな声で言ったアシンに、周りの視線が集まる。
「依頼受付終わりましたよ。気を付けて行ってらっしゃい」
にっこり笑うリアンナ。
「ちぇ。いってきま~す」
流されたアシンは会員証を受け取り、出口に歩き出す。その背中を見ていると、ギルドの出入り口付近にネイドが立っているのに気が付いた。すごく仏頂面でアシンを睨んでいる。
見ていると、アシンはネイドに何かを言っている。ネイドは顔を真っ赤にして、怒っている。
ちょっとちょっと!なに言ったのよ?
そう思って立ち上がろうとしたが、2人はすぐに離れて、アシンはそのまま出ていき、ネイドは仏頂面のまま腕を組んで同じ場所に立っている。
なんなのかしら?
出ていくとき見たアシン。面白そうに、にまにまと笑う彼は眼にも鮮やかな『黄色』の服を着ていた。




