12 赤眼って誰ですか?
《嫉妬の魔王》領にある魔王城は城と言うよりは、堅固な要塞と言った方がしっくりくる。城の周りは深い堀があり、城壁も高く、門の扉は更に強固にできている。幾度もの戦争をも経てきたであろう城は、何度も修復され、城壁はおろか城でさえもところどころの色が違う。
実際に、《嫉妬の魔王》は争いの多い大陸の中央辺りに領土を持ち、他の魔王や国とも幾度となく戦争をしてきた。
帝国に隣接はしていないが、その周りは領土持ちの魔王が多い。現在は、国境線で少しいざこざがあるのみだが、数年前までは、この要塞に攻撃を受けるほどに近くまで攻め込まれた。
【某は早々に帰らせていただく。主が待っている】
そんな頑強な要塞の門前。白い八本足の美しい馬は、不快そうに言い放つ。
「待ってください!陛下からあなたの主に返事が用意できるまでは…!」
それに対するのは、赤い瞳の線の細い若者だ。《嫉妬の魔王》の側近である彼は、友人たちが人間からの迫害にあっている。と言う話を聞いて、自分のところに来るように誘った張本人だ。
来るように言ったのは、数日前のやり取りだったが、無事にここまでたどり着けるのかは不安だった。何せ、距離がありすぎる。その間、人間の土地もいくつもある。紛争地域を通れなければならない。それでも、人間の支配するあそこは安息の地には程遠い。せめて、自分のところでなくとも、どこか別の魔王領でもいいので、引っ越すように助言した。間違っても、最北を支配する魔王領には行かないようにだけ伝えたが…。
それが、今日。
門番からご友人が到着した。と連絡があり、早すぎるだろ!!というツッコミを入れつつ門にやってきて、喋る馬に出会ったのだった。
そして、冒頭の言い合いになる。
近くで魚の顔をした2人の夫婦がそんなやり取りをはらはらとした様子で見守っている。
いや、正確には魚の顔の友人の表情を、彼でも読み取ることはできないのだが…。
「とにかく、数日お待ちください!あなたの主もお返事を待たれているのでしょう?」
【む…】
スレと名乗った馬は悩みはじめた。そんなスレを見て、赤い瞳の青年はじっと考える。
帰すわけにはいかない。
なにか情報を引き出さなくては!!
主のことは名も風貌さえも一言も明かさない。命令にのみ忠実な白い馬。
艶やかで真っ白な毛並み。力強い筋肉。そして、何より、現れた時、空を翔んでいたという。そんな馬は、初めて見た。しかも言葉を話す馬だ。ただの馬ではないスレの主がただ者であるわけがない。
他の魔王だろうか?
だが、それなら、《暴食の魔王》陛下への取次ぎを頼む理由が分からない。魔王同士の仲がどうかは別にして、連絡が取れないほどでもないはず…。
【主は返事をもらってこいとは言わなかった。2人が友人に会えるまで守れ、と…】
「ですが、返事をもらって帰れば、喜ばれるのではないですか?」
【む!】
スレはまた沈黙する。
おもしろくない!と言われた理由は分かっている。忠実すぎる自分のせいだ。命令をこなすことしかできない。臨機応変ということができない。言われたことしかできない。会話も硬すぎる。
そんな自分に主は、おもしろくない!と言う。
今回、主が某を選んでくれたのには、何か理由があるのだろうか?
何か変わってこいと言うことなのか、この地を見て来いということなのか…?
【…しばし…厄介になる】
赤い瞳の青年は内心でほっとした。
というのも、実は、《嫉妬の魔王》は現在、この城にいなかった。
いや、この国にいるのかどうかも怪しい。
もっと言えば、どこにいるのかさえも分からないのだ。
実はで言うと、《嫉妬の魔王》がふらりとどこかに消えることはよくある。しばらく遊びに行くと書き置きを残して、大量のお土産を持って、数ヶ月して、帰ってくる。そんな魔王なのだ。
そんな行方不明期間に城の近くまで、他の魔王にちょっかいを出されてしまったのは、苦い記憶だ。自分が悪いのに側近に怒って、魔王陛下だが、つい逆ギレしたら、しょんぼり落ち込ませてしまったのも…。陛下にとっても苦い記憶だろう。
今は手紙を残していなくなってから、3週間がたっていた。懲りない方だ…。
手紙を見つけた時は、今度は、執務室の椅子に縛り付けてやる!!と心に決めていた。
できれば、帰ってくるまでに、何らかの情報を手に入れなければ!そう考えていた。
ちなみにだが、そんな苦労性の彼の種族はサバと同じではない。彼は、外見的には人間とそう変わらない。ただ、額にある眼がなければだ。まず、その辺りにいる人間にしか見えない。顔立ちは、普通としか言えないし、そう言われたことしかない、本当に至って普通の青年だ。
ただ、放蕩モノの主を持ってしまったせいか、彼の手腕は確かなものだった。
これで、陛下がさっさと帰って来なければ…。
仕方がない…。今度はしょんぼりなんてものじゃなく、しばらく出かけたくないと思えるくらい、説教してやる!
そう思った青年は、あくどい顔でにやりと笑った。
白い馬は気付くことはなかったが、長い付き合いである魚の顔の夫婦は、ぞわっと背中を這うものを感じていた。
「…なにこれ?」
一枚のギルドの依頼書を目の前に出されて、首を傾げた。
「今日のおすすめよ!破格の金額なの!」
だから、読めないんだってば!
そう言えば、犬耳さん、昨日震えてたけど、風邪はもう大丈夫なのかな?
【大丈夫なんじゃない?元気そうだし…】
今日はフェンリルは、身体の中に入れている。何故か、今日は入りたがった。
いつもは逆に出たがるのに…。
変なの!!
「どんな内容?」
あ、犬耳さんの耳がピコピコ動いている。
テンション上がったのかな?
フェンリルもテンション上がると耳がピコピコ動いてるよね。
【……僕は、いつも、こんな感じ……?】
あれ?何かショック受けてる?
【犬……そりゃ…犬みたいなものなんだけど…】
何をぶつぶつ言っているんだろう?
「あのね!人探しなんだけど……」
人探しか…。その人の持ち物があれば、風魔法とかで探せるかな?
「依頼料は、100000ギル!ね?破格でしょ?」
100000?!それだけあれば、すぐに街から出ていける!
「どんな人を探すの?」
「え~と、ね…」




