第1話 異世界バニー騎士姫がやってきた(7)
一瞬、空気が変わる。
少女は静かに目を伏せた。
そして。
「……私はフィリア=アルクウェイン」
ゆっくり名乗る。
「アルヴェリア王国第一王女。そして《聖装騎士団》第三席」
紅い瞳が真っ直ぐこちらを見る。
「異名は《白銀兎騎士》」
少女――フィリアは、少しだけ誇らしげに言った。
「民を守る騎士だ」
俺は数秒黙り込む。
そして率直に聞いた。
「なんでそんなバニーみたいな格好なの?」
「…………」
フィリアの顔が無表情になる。
耳まで赤くなった。
「こ、これは聖装だ!!」
「絶対違うだろ!」
「違わん!!」
朝の実家に、王女の絶叫が響いた。
「聖装騎士って、具体的には何するんだ?」
俺が聞くと、フィリアはコーヒー牛乳を両手で持ったまま少し考え込んだ。
「……戦う」
「うん」
「民を守る」
「うん」
「希望を示す」
「……うん?」
なんか最後だけ方向性が違う。
フィリアは真面目な顔で続ける。
「《黒禍獣》は恐怖や絶望を糧にする。ゆえに民の心を折ってはならない」
「へぇ」
「だから我ら聖装騎士は、常に堂々としていなければならん」
フィリアは胸を張った。
「祭典に参加し、演説を行い、勝利を見せ、笑顔を向ける」
「……あれ?」
「民が不安な時は励ます」
フィリアは妙に凛々しい声で立ち上がる。
そして片手を胸に当て、もう片方を高く掲げた。
「『みんな、勇気を! 私たちがついています!』」
「……」
「『恐れる必要はありません! 笑顔を忘れずに!』」
「…………」
「『さあ共に歌いましょう、希望の賛歌を!』」
「アイドルじゃねぇか」
「違う!!」
フィリアが即座に否定した。
「我らは高潔なる騎士だ!」
「でも今の完全にライブMCだったぞ」
「らいぶえむしー?」
フィリアは露骨に嫌そうな顔をした。
図星らしい。
「……たしかに、民衆人気は重要だ」
「やっぱり」
「各騎士には支持層も存在する」
「ファンクラブじゃん」
「違う!」
「グッズとかある?」
「……ある」
「あるんだ」
俺は頭を抱えた。
絶対アイドル騎士団だこれ。
フィリアは不本意そうにむすっとしている。
「誤解するな。我らは民を安心させるために活動しているだけだ」
「ちなみにどんなことするんだ?」
「歌う」
「うん」
「舞う」
「うん」
「握手会」
「完全にアイドル!!」
「し、仕方ないだろう!!」
フィリアが顔を真っ赤にした。
「民との交流は重要なのだ!」
「サインは?」
「求められればする」
「人気投票は?」
「年に一度ある」
「センター争いじゃねぇか!!」
フィリアがテーブルを叩いた。
「だから違うと言っているだろう!!」
「その衣装もステージ衣装ってことか」
「これは神聖な聖装だ!!」
「露出多くない?」
「戦意高揚効果がある」
「絶対それ後付け設定だろ」
「違う!!」
フィリアは真っ赤な顔で叫ぶ。
だが途中で、ふっと表情が緩んだ。
「……でも」
「?」
「民が笑ってくれるのは、嫌いではない」
その声は小さかった。
「皆、不安なのだ。化物に怯え、明日を恐れている」
フィリアは窓の外を見る。
「だから我らが笑えば、少しだけ安心できる」
「……」
「『フィリア様ー!』と呼ばれるのも、最初は苦手だったが」
彼女は少し照れくさそうに笑った。
「最近は、悪くないと思っている」
その笑顔が、妙に綺麗だった。




