第1話 異世界バニー騎士姫がやってきた(4)
「……どうすんだよ、これ」
俺は途方に暮れていた。
腕の中には、気絶した銀髪の少女。
さっきまで本気で俺を殺そうとしていた相手だ。
でも。こんな人気のない田舎道に放置するわけにもいかない。
揺すってみる。
反応なし。
完全に気絶している。
困った。
家まで結構あるんだけど。
完全に脱力した人の体は重い。
俺の力では抱いていくことは無理だった。
そこで、ふと思い出した。
さっきの力。
念じるだけで動きを止めたり、強化したりできた。
なら――。
俺は恐る恐る念じてみる。
立て。
すると。
「……っ」
気絶していた少女の体が、ぴくりと動いた。
彼女は自力で立ち上がった。
「うわっ!?」
思わず後ずさる。
だが少女は目を閉じたままだ。
眠っている。
なのに立っている。
ちょっと怖い。
「えぇ……」
試しにもう一度。
俺の後について来い。
とてとてと歩き始める。
「……マジか」
しかも妙に素直。
完全に夢遊病患者である。
俺が歩けば後ろから付いてくる。
止まれば止まる。
曲がれば曲がる。
なんだこれ。
怖い。
でも便利。
俺は彼女を実家まで連れ帰った。
幸い両親は不在中。
「……よし」
俺は自室の布団へ彼女を寝かせる。
銀髪がふわりと広がった。
近くで見ると、本当に綺麗だ。
整った顔。
長い睫毛。
白い肌。
そして、あの意味不明な“バニー騎士姫衣装”。
改めて見るとすごい格好である。
「……」
なんか変な気分になってきたので、俺は慌てて視線を逸らした。
いや落ち着け。
相手は気絶してる。
人としてダメだろ。
俺は深呼吸する。
そして考えた。
「この力……なんなんだ?」
どう考えても普通じゃない。
念じるだけで人を動かせるとか意味不明すぎる。
試しに机を見る。
動け。
念じる。
……何も起きない。
ペットボトル。
動け。
無反応。
クッション。
無反応。
俺は布団の少女を見る。
恐る恐る念じた。
寝返り。
すると。
コロン。
少女が横向きになった。
「うおっ!?」
本当に動いた。
しかも自然。
まるで本人が寝返りを打ったみたいだ。
俺は戦慄する。
「え、ちょっと待て」
もう一度試す。
右手を上げて。
すっ。
少女の右手が持ち上がる。
「マジかよ……」
下ろして。
すっ。
戻る。
完全に操作できている。
でも。
他のものには一切効かない。
「……彼女だけ?」
背筋が寒くなった。
なんでだ。
なんでこのバニー騎士姫だけ、俺の言うことを聞く?
その時。
「……ん」
少女が小さく声を漏らした。
俺はビクッとする。
だが彼女は起きない。
ただ苦しそうに眉を寄せていた。
夢でも見ているのかもしれない。
俺はしばらく黙って彼女を見つめる。
そして小さく呟いた。
「……お前、何者なんだよ」
返事はなかった。
ただ、静かな寝息だけが部屋に響いていた。




