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はじめての異世界配信

「――以上で、新入生適性測定を終了する」


学院長の声が講堂に響く。


ざわめきは、まだ収まっていなかった。


視線が痛いほど集まっている。


その中心にいるのは、

ルナリア・ノクス

だった。


「音声魔法であれって……」

「見た? 光が講堂全体に……」

「本当に落ちこぼれ属性か?」


ひそひそ声。


前世でも何度も浴びた視線だ。


期待。

好奇。

嫉妬。


ルナリアは無意識に肩を縮める。


【大丈夫?】

【顔色悪い】

【人多いもんな】


コメント欄だけが、妙に優しかった。


(なんで……こんなの見えてるんだろ)


理解できない。


でも確かなことが一つある。


この文字が流れるたび、身体の奥が少し温かくなる。


まるで魔力が満ちていくみたいに。


「ルナリア・ノクス」


突然、名前を呼ばれた。


顔を上げると、学院長がこちらを見ていた。


「後で学院長室へ来なさい」


講堂がざわつく。


「学院長直々?」

「やっぱ危険視されてる?」


胃が痛くなった。


前世でもこういう空気は嫌というほど知っている。


目立った瞬間、勝手に騒がれる。


「……はい」


小さく返事をするしかなかった。


――――――


入学式終了後。


長い廊下を歩きながら、ルナリアは深いため息を吐く。


隣では

ミリア・フェルン

がそわそわしていた。


「ねえ、ほんとに何したの!?」


「私にも分かんない……」


「分かんないであんな魔法出る!?」


出ました。


本人が一番困っている。


コメント欄は相変わらず流れていた。


【友達かわいい】

【ツッコミ役だ】

【いい子そう】


(友達……)


その言葉に少しだけ胸がざわつく。


前世では、配信仲間はいても、本当の意味で友達と呼べる相手は少なかった。


すると前から数人の男子生徒が歩いてきた。


そのうち一人が、わざと聞こえるように言う。


「音声魔法なんて大道芸だろ」


「さっきのも偶然じゃね?」


笑い声。


胸の奥が冷える。


前世の記憶が蘇る。


【オワコン】

【才能ない】

【消えろ】


呼吸が浅くなる。


その時。


【気にするな】

【ルナちゃんの魔法すごかった】

【見返してやれ】


コメントが流れた。


不思議だった。


顔も知らない誰かの言葉なのに、少しだけ救われる。


「……行こ、ミリア」


ルナリアは俯いたまま歩き出した。


――――――


学院長室。


重厚な木の扉を開けると、香草の匂いが漂った。


学院長は机に座ったまま、静かに紅茶を飲んでいる。


「座りなさい」


ルナリアは緊張しながら椅子に座る。


学院長はしばらく彼女を見つめてから、ゆっくり口を開いた。


「あなた、自分の魔法を理解していますか?」


「……あまり」


正直に答える。


すると学院長は頷いた。


「音声魔法は特殊です。感情に干渉する力を持つ」


その言葉に、ルナリアの肩が揺れた。


「人を励まし、熱狂させ、ときに支配する」


コメント欄が静かに流れる。


【こわ】

【配信と同じだ】

【確かに】


「だから昔、この属性は危険視された」


学院長の視線が鋭くなる。


「ですがあなたの魔法は異質です。まるで“大勢の感情”を受け取っているようだった」


ギクリ、と心臓が鳴る。


バレてる。


コメント欄の存在を。


「……気のせい、だと思います」


学院長は数秒黙った後、小さく息を吐いた。


「まあいいでしょう。今後も観察はします」


観察。


その言葉が妙に重かった。


「今日はもう下がって構いません」


「……はい」


ルナリアは逃げるように学院長室を出た。


そして、その夜。


寮の自室。


ミリアが風呂へ行き、一人になった部屋で、ルナリアは机に突っ伏していた。


「……疲れた」


入学初日とは思えない密度だった。


すると視界の端に文字が流れる。


【配信しないの?】

【待機】

【雑談しよ】


「……配信」


その言葉に、前世の感覚が蘇る。


怖かった。


でも同時に、少し安心する。


誰かが待ってくれている感覚。


ルナリアは恐る恐る手を前へ伸ばした。


その瞬間。


空中に淡い魔法陣が開く。


【配信開始】


「うわっ!?」


コメントが一気に流れ始めた。


【きたあああ】

【異世界初配信】

【生きててよかった】


その言葉に、ルナリアは息を止める。


“生きててよかった”


前世では、自分自身に一度も思えなかった言葉だった。


彼女はゆっくり椅子に座る。


そして、小さく笑った。


「……こんばんは」


【こんばんは!!】

【声好き】

【泣きそう】


部屋のランプがふわりと光る。


感情に反応している。


ルナリアは気づき始めていた。


この世界では、“人の想い”が力になる。


応援も。

言葉も。

心も。


全部、魔法になる。


その時。


ガチャッ!!


突然ドアが開いた。


「ルナリアー? 入るよー」


戻ってきた

ミリア・フェルン

が、部屋の中央に浮かぶ魔法陣を見て固まる。


沈黙。


コメント欄。


【終わった】

【バレたw】

【草】


ミリアは瞬きを繰り返した後、ゆっくり口を開く。


「……何それ」


ルナリアは乾いた笑みを浮かべた。


「えっと……配信?」

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