異世界に配信文化はありません
ルナリアの言葉に、
ミリア・フェルン
はぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「……はいしん?」
聞き慣れない単語を口の中で転がす。
「え、えっと……」
ルナリアは固まる。
しまった、と思った。
この世界に“配信”文化なんて存在しない。
コメント欄は楽しそうに流れていた。
【そりゃ知らん】
【異世界だもんな】
【どう説明する?】
「は、配信っていうのは……その……」
ルナリアは必死に考える。
前世では当たり前だった言葉。
でも異世界で説明するとなると難しい。
「遠くにいる人たちに、声とか映像を届ける……みたいな?」
「……通信魔法?」
「ち、近いかも」
ミリアは部屋の中央に浮かぶ魔法陣をじっと見る。
そこには淡い光が渦巻いていた。
もちろんコメント欄はミリアには見えていない。
【一般人には見えない仕様】
【秘密能力感ある】
【主人公じゃん】
主人公…その単語に少しだけ変な気分になる。
前世では自分の人生の主人公だなんて思えなかったから。
「でも、そのはいしんていう魔法聞いたことないよ?普通の通信魔法は一対一だし……こんな大きな魔法陣、授業でも見たことない」
ミリアは不思議そうに首を傾げた。
「……だよね」
ルナリア自身が一番困っている。
するとミリアは突然、ぐいっと顔を近づけた。
「ねえ、それってさ!!!」
「ひゃっ」
「さっきの魔法と関係ある?」
ドキリとした。
近い。
赤い瞳がまっすぐこちらを見ている。
「講堂で魔法使った時も、なんか空気が変わったんだよね」
「空気?」
「うまく言えないけど……みんな、ルナリアの声に引っ張られてた感じ」
ルナリアは言葉を失う。
学院長にも似たようなことを言われた。
感情を動かす魔法。
その時、コメント欄が流れる。
【歌ってみた?】
【声に力あるんだろうな】
【天職】
天職。
前世では、VTuberこそ自分の居場所だと思っていた。
でも最後には、その場所に押し潰された。
ルナリアは小さく目を伏せる。
するとミリアが慌てたように言った。
「あっ、ご、ごめん! 嫌だった?」
「……え?」
「なんか顔暗くなったから……」
ルナリアは少し驚く。
前世では、“大丈夫?”と聞かれることが少なかった。
みんな、
“星宮ルナ”はいつも元気だと思っていたから。
コメント欄がゆっくり流れる。
【優しい子だ】
【いい友達】
【泣く】
胸の奥がじんわり熱くなる。
ルナリアはぎこちなく笑った。
「……平気。ありがと」
その瞬間。
ふわっ、と魔法陣の光が強くなった。
「わっ!?」
ミリアが驚いて後ずさる。
部屋中に淡い銀色の粒子が舞い始めた。
まるで星空みたいに。
【演出きれい】
【エモ】
【感情で強くなってる?】
ルナリアも気づいていた。
嬉しい。
安心した。
その感情に、魔法が反応している。
ミリアは舞い散る光を見上げながら、ぽつりと言う。
「……すごい魔法」
その声には、馬鹿にする響きはなかった。
純粋な憧れだけだった。
ルナリアは胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
異世界で初めてできた“友達”かもしれない。
すると次の瞬間。
廊下の向こうから怒鳴り声が響いた。
「おい!! 誰だ寮で魔法暴走させてるのは!!」
二人の顔が青ざめる。
コメント欄。
【終わったw】
【管理人きた】
【初配信、即炎上】




