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落第候補

静寂が、路地に落ちた。


 


さっきまでの騒ぎが嘘みたいに、空気が止まっている。


 


砕け散ったダイヤの破片が、光を反射していた。


 


「……終わった、のか?」


 


思わず呟く。


 


倒れている男たちは、ぴくりとも動かない。


 


「一応ね」


 


ノリトが静かに答える。


 


「ただ、長居はしない方がいい」


 


「……だよな」


 


俺は息を整えながら、ゆっくりと立ち上がった。


 


足が震えている。


 


痛みも、遅れて一気に来た。


 


「……っつ……」


 


「無茶するね、君は」


 


ノリトが少しだけ呆れたように言う。


 


「でも、嫌いじゃない」


 


どっかで聞いたようなこと言うな。


 


 


視線を少女へ向ける。


 


彼女はその場に立ち尽くしたまま、動こうとしなかった。


 


「……大丈夫か?」


 


声をかけると、びくりと肩が揺れる。


 


警戒しているのが、はっきり分かった。


 


「……近づかないで」


 


小さな声。


 


「わかった。行かない」


 


両手を軽く上げて見せる。


 


「助けたのは……その……ただ、放っておけなかっただけだから」


 


言いながら、自分でも変なこと言ってるなと思う。


 


でも、他に言い方が思いつかなかった。


 


 


少女は少しだけ黙って、それからぽつりと呟いた。


 


「……どうして」


 


「え?」


 


「どうして、あんなことしたの」


 


さっきと同じ問い。


 


 


「……さあ」


 


正直に答える。


 


「理由なんて、考えたことない」


 


「……変な人」


 


小さく、でも確かに言った。


 


ほんの少しだけ、警戒が緩んだ気がした。


 


 


そのとき。


 


「――そこまでだ」


 


低い声が、路地に響いた。


 


 


振り向くと、そこに立っていたのは――


 


長い外套を羽織った、一人の男だった。


 


ただ立っているだけなのに、空気が違う。


 


圧、みたいなものがある。


 


 


「学園の……人?」


 


思わず呟く。


 


 


男は、倒れている連中を一瞥し、それからこちらを見る。


 


その視線が、一瞬で全身を貫いた。


 


 


「なるほど」


 


短く、そう言った。


 


 


「……何がですか」


 


思わず聞き返す。


 


 


「騒ぎの原因と、結果だ」


 


 


男はゆっくりと歩み寄る。


 


その足取りに、一切の隙がない。


 


 


「魔力は感じない。だが――」


 


 


ぴたり、と俺の前で止まる。


 


 


「妙な“繋がり”があるな」


 


 


心臓が跳ねた。


 


 


「……何のことですか」


 


 


「自覚はないか」


 


 


男は興味深そうに俺を見下ろす。


 


 


それから、少女へと視線を移した。


 


 


「宝石眼……それもダイヤか」


 


 


少女の体が強ばる。


 


 


「安心しろ。少なくとも私は、無理に奪うつもりはない」


 


 


「……本当?」


 


 


少女が初めて、はっきりと顔を上げた。


 


 


男はわずかに肩をすくめる。


 


 


「信用するかどうかは任せる。ただ――」


 


 


再び俺を見る。


 


 


「面白いものを見せてもらった礼はするべきだろう」


 


 


その言葉に、嫌な予感がした。


 


 


「カナタ、と言ったか」


 


 


「……はい」


 


 


「君に“仮入学”を許可する」


 


 


――え?


 


 


「は?」


 


 


思わず間の抜けた声が出る。


 


 


「ただし条件付きだ」


 


 


男は淡々と続ける。


 


 


「正式な生徒ではない。“落第候補”としての仮入学」


 


 


「成績が伴わなければ、即退学」


 


 


「そして――」


 


 


一瞬だけ、間が空く。


 


 


「君のその力。徹底的に観察させてもらう」


 


 


ぞくり、と背筋が冷えた。


 


 


「……それでも、入るか?」


 


 


問われる。


 


 


答えなんて、決まってる。


 


 


「……入ります」


 


 


即答だった。


 


 


男はわずかに口元を緩めた。


 


 


「いいだろう。では来い」


 


 


踵を返す。


 


 


その背中を見ながら、俺はようやく実感する。


 


 


――入れる。


 


 


あの学園に。


 


 


 


「……ちょっと待って」


 


 


小さな声が、背中にかかった。


 


 


振り向く。


 


 


少女が、こちらを見ていた。


 


 


迷いながら、それでも――


 


 


「……私も、行く」


 


 


その一言。


 


 


ノリトが、ふっと笑う。


 



 


 


こうして俺は――


 


魔力ゼロのまま、学園に入ることになった。


 


 


そしてそれが、俺たちの“最強”の始まりになるなんて――


 


このときの俺は、まだ知らなかった

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