大量生産の壁
「アタタタ……」
俺は腕を押さえながら、ゆっくり立ち上がる。
『筋肉痛と推測します』
「言われなくても分かってる」
昨日、U字溝の製作を手伝った。
最初は、
「俺も手伝うよ」
なんて軽く考えていた。
だが――
「U字溝って、重いな……」
『仕方ありません』
「大量生産って言うのは簡単だけど……」
俺は積み上げられたU字溝を見る。
「こりゃ大変だ」
一つ作るだけでも、それなりの材料と手間が必要になる。
粘土を用意する。型に入れる。形を整える。
乾燥させる。焼く。そして運ぶ。
「これを町を作るために大量に作るんだろ?」
『はい』
「そりゃ、いきなり大量には作れないな」
『その通りです』
俺は完成したU字溝を眺める。
「だから在庫をたっぷり貯めておかないと」
『はい』
「町の計画が決まってから作り始めたんじゃ、間に合わない」
『その可能性が高いです』
「先に作っておいて、必要になったら使う」
『その方針を推奨します』
「よし」
俺は腕をさする。
「じゃあ、もっと効率を上げる方法は?」
アイの画面が少し光る。
『……』
「ん?」
『現状からさらに生産量を増やす場合、人員を増やすしかないと思われます』
「……」
「流石のアイも、これ以上は厳しいか」
『現在の設備と人員では、生産量に限界があります』
「だよなぁ」
機械を作ればいい。
そう簡単に言うことはできる。
だが、その機械を作るための人間も必要だ。
材料も必要になる。
さらに機械を動かす仕組みも必要になる。
「人を増やすと……」
俺は周囲を見る。
「今度は、これらの生産量も増やさないといけない」
『はい』
「家も必要」
『はい』
「食料も必要」
『はい』
「水も必要」
『はい』
「下水も必要」
『はい』
「……」
俺は頭を抱える。
「人が増えれば、全部増やさないといけないじゃないか」
『その通りです』
「簡単に人口を増やせないな」
『急激な人口増加には、それに対応する生産能力とインフラが必要です』
「町を作るって、思った以上に大変だな……」
俺は再びU字溝を見る。
「でも、これを作らないわけにもいかない」
『はい』
「ある程度、下水管として整備出来れば減るんだろ?」
『はい』
「住宅地の全てにU字溝を使う必要はなくなる」
『その通りです』
「それなら……」
俺は少し考える。
「まずは町の中心部分だけ、しっかり整備する」
『合理的です』
「その周辺を広げていく」
『はい』
「最初から全部やろうとするから大変なんだ」
『段階的な整備を推奨します』
「なるほどな」
町を一気に完成させる必要はない。
まず人が住む場所を作る。
そこへ水を通す。排水を整える。
道路を作る。家を建てる。
そして人が増えれば、さらに外側へ広げる。
「少しずつ町を大きくしていけばいいか」
『はい』
俺はようやく納得した。
「大量生産も同じだな」
『どういう意味でしょうか?』
「いきなり全部を大量に作ろうとするんじゃなくて……」
積み上げられたレンガを見る。
「今できる量を少しずつ増やす」
U字溝を見る。
「人を増やせたら、また増やす」
セメントを見る。
「設備が整ったら、さらに増やす」
『その考え方で問題ありません』
「よし」
俺は立ち上がる。
「まずは今できることからだな」
『はい』
「……とはいえ」
俺は腕を押さえる。
「今日は筋肉痛だから、少し休ませてくれ」
『賛成します』
「珍しく即答だな」
『無理をして生産性を落とす必要はありません』
「それもそうか」
町を作る。そのためには、物を作る。
物を作るためには、人が必要になる。
人が増えれば、さらに物が必要になる。
その循環を少しずつ大きくしていく。
「町って……こうやって作っていくんだな」
『はい』
今まで見えていなかった「町を作る」という仕事の大きさを、誠は少しずつ実感し始めていた。




