増える住民
「専門家が家族を呼ぶとなると……」
俺は村を見渡した。
最近、明らかに人が増えている。
専門家たちが家族を呼ぶ。
商隊から来た人たちもいる。
奴隷として連れてこられた人たちも、今ではこの村の住民として働いている。
さらに、この村で暮らしたいという人まで少しずつ増えている。
「……家が足りなくなるな」
『はい』
アイの返事は早かった。
「今までは、空いている場所に家を建てればよかった」
『人口が少なかったため、それでも問題はありませんでした』
「でも、これからは違う」
俺は村を見渡す。
「家をどこに建てるか、道をどう通すか、水路をどうするか、下水をどうするか、畑をどこまで残すか」
考えれば考えるほど、問題が出てくる。
『無計画な住宅建設は推奨しません』
「だよな」
俺は頭を掻く。
「つまり……村そのものを設計するってことか?」
『はい』
「村を設計……」
今までそんなことは考えたこともなかった。
ただ必要な物を作ってきた。
水路が必要なら水路を作った。
下水が必要なら下水を作った。
家が必要なら家を建てた。
道路が必要なら道を作った。
だが、それぞれを別々に考えていた。
「……待てよ」
俺は周囲を見渡す。
レンガ。セメント。U字溝。下水。水路。農地。荷台車。
「これ、全部繋がってるじゃないか」
『その通りです』
「レンガは家を建てるため。セメントは建物を丈夫にする。U字溝は道路と排水。下水は住宅地の衛生。農地は住宅地との距離を考えないといけない。水路は水源との位置関係。荷台車は……」
俺は道を見る。
「道路が必要になる」
『はい』
「今まで作ってきた物が、全部一つの形になってきたな」
『町という一つの構造に繋がり始めています』
「町……」
その言葉に、俺は少しだけ反応した。
「なあ。この村長……」
少し離れたところで村人たちと話している村長を見る。
「もうすぐ町長になりそうだな」
『現状の発展速度を考慮すると、その可能性は高いでしょう』
「本人は知らないだろうけどな」
◇
「村長」
「ん? どうした、誠殿」
「ちょっと相談がある」
「何だ?」
「町……じゃなくて、村の整備についてだ」
「整備?」
「人が増えてきただろ?」
「ああ」
「これから家を増やすなら、適当に建てていくのはまずいと思う」
村長も周囲を見渡す。
「確かにな。今までは空いているところに建てればよかった」
「だが、これからはそうはいかん。道も必要になる。水も必要だ。下水も必要になる。畑も残さないといけない」
「……なるほど」
村長は腕を組む。
「それなら、村全体の計画を作る必要があるな」
「そういうこと」
『誠様』
「ん?」
『中心部を設定することを推奨します』
「中心部?」
『市場、行政、商業、工房などを集める区域です』
「なるほど……」
俺は地面に簡単な図を描いた。
「ここを中心にして……」
「市場を置く。その周辺に商店。少し離れたところに住宅。工房は住宅から離した方がいいか」
『騒音や火災の危険を考慮すると推奨します』
「農地は外側だな」
「そうだな。それなら道も繋げやすい」
村長が地面の図を見る。
「市場……か」
「どうした?」
「市場があれば、商人も来やすくなるな」
「そうだな」
タタが話に入ってきた。
「商人が定期的に来るようになれば、村で作った物も売りやすくなります」
「宿も必要だな」
「はい」
「倉庫も必要になる」
「商人が来るなら、荷物を置く場所も必要です」
話がどんどん広がっていく。
「商業区。住宅区。工房区。農業区。市場。宿。倉庫」
俺は思わず笑った。
「もう完全に町の話じゃないか」
村長が苦笑する。
「言うな……」
◇
俺はアイを見る。
「これ、俺たちだけで考えるのは無理じゃないか?」
『同意します』
「だよな」
『都市計画や建築に詳しい専門家を招くことを推奨します』
「やっぱりそうか」
俺はタタを見る。
「タタ」
「はい?」
「設計士を呼べないか?」
「設計士ですか?」
「町全体の配置を考えられるような人」
タタは少し考える。
「なるほど」
「家を建てるだけじゃなくて、道や市場、水路なども含めて考えられる人が欲しい」
「それなら探してみます」
「頼めるか?」
「もちろんです」
タタが笑う。
「専門家を呼んだばかりなのに、もう次の専門家ですか」
「仕方ないだろ」
『必要な人材を適切な時期に確保することは合理的です』
「ほら、アイもそう言ってる」
「その魔道具に言われると、何だか納得してしまいますね」
「だろ?」
タタはすぐに準備へ向かった。
俺は改めて村を見る。
人が増えた。家が増えた。畑が広がった。工房が増えた。道路が整備されている。
水路もある。下水も作られている。
そして、これから市場まで作ろうとしている。
「……本当に町になってきたな」
『はい』
「最初は、生き残るだけだったのにな」
『現在は、どこに何を作るかを考える段階に入っています』
「町を作る、か……」
俺は少しだけ笑った。
今まで必要に迫られて、一つずつ作ってきた。
それらが今、一本の線で繋がろうとしている。
村から町へ。
そのための最初の一歩が――町全体を考えることだった。




