新たな仲間
数日後。
村の入り口が、いつもより騒がしかった。
「誠殿ー!」
タタの声が聞こえる。
「ん?」
外へ出てみると、何台かの荷馬車が止まっていた。
「来ました!」
「専門家か?」
「はい!」
荷馬車から、次々と人が降りてくる。
「植物に詳しい方です。建築に詳しい方です。そして、こちらのお二人が針子です」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
誠は頭を下げる。
「こちらこそ、よろしく」
◇
まず、植物に詳しい人物を薬草畑へ案内した。
「こちらです」
薬草畑を見せる。すると、その人物は一歩入ったところで足を止めた。
「……これは?」
「薬草です」
「それは分かります」
その人はしゃがみ込み、葉をじっくり観察する。
「この種類は?」
「山で見つけた」
「山で?」
「そうだ」
「誰かに教えてもらったのですか?」
「図鑑で調べたり、村の人に聞いたり」
「なるほど……」
さらに別の薬草を見る。
「これは?」
「それも山で」
「……」
黙り込んでいる。
「どうした?」
「これは面白い」
目が輝いている。
「栽培しているのですか?」
「そうだ」
「この環境で?」
「うん」
「水は?」
「この水路から」
「土は?」
「元々この辺りにあった土を使っています」
質問が止まらない。
「この薬草の増やし方は?」
「まだ調査中」
「まだ分からない?」
「そう」
すると、その人物は嬉しそうに笑った。
「なら、調べましょう!」
「お、おう……」
いきなりやる気満々だった。
『誠様』
「ん?」
『非常に興味を持っているようです』
「見れば分かる」
◇
次は建築の専門家。
「こちらが建築関係です」
レンガ。セメント。建設途中の建物。
そして、村の外へ続くU字溝。
建築の専門家は、最初こそ淡々と眺めていた。
「レンガの品質は……悪くありません。セメントも、この村で作っているのですか?」
「そうだ」
「なるほど」
そしてU字溝を見た瞬間。
「……これは?」
「U字溝」
「U字溝?」
「水を流すためのものだ」
専門家はしゃがみ込み、U字溝の中を覗く。
「なるほど……」
しばらく無言。
そして――
「これは素晴らしい発想だ!」
「そこまで?」
「はい!」
U字溝を何度も確認する。
「円形の管より製造しやすい。設置もしやすい。蓋をすれば人も通れる。しかも大量生産が可能……」
専門家が顔を上げる。
「この技術は誰が考えたのです?」
誠は少し考えた。
「俺が考えた」
「あなたが?」
「まあ、そうだな」
専門家は村を見渡す。
レンガの建物。水路。U字溝。セメント。
整備されていく道路。
「……この規模の村で、よくここまで」
「みんなが作ったんだ」
誠が答える。
「俺だけじゃない」
「なるほど……」
専門家は、さらに村を見渡した。
「興味深い村ですね」
◇
そして針子たち。
二人は村人たちの服を見るなり、すぐに動き始めた。
「この布なら……」
一人が服を触る。
「ここをこうした方がいいですね」
「え?」
村人が驚く。
「袖の部分を少し変えれば、動きやすくなります」
「なるほど……」
もう一人も布を手に取る。
「この縫い方より、こちらの方が丈夫です」
「そんな方法があるのか?」
「はい」
村人たちが集まり始める。
「見せてくれ」
「こう?」
「そうです」
「なるほど……」
あっという間に、針子と村人たちの間で話が始まった。
「こっちの布なら?」
「それならこうした方がいいですね」
「じゃあ、この服にも使えるか?」
「もちろんです」
誠は少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
「……すげぇな」
『専門知識が村の技術と融合し始めています』
「早いな」
◇
しばらくすると、三組の専門家が集まってきた。
建築の専門家が口を開く。
「誠殿」
「ん?」
「一つ聞いてもよろしいですか?」
「何だ?」
「なぜ、この村にこれほどの技術があるのです?」
誠が黙る。植物の専門家も頷く。
「私も聞きたいです。この薬草を栽培するという発想もそうですが、見つけた植物を記録している。それだけではありません」
建築の専門家が続ける。
「このU字溝、セメント、レンガ、荷台車の足回り。どれも、この村の規模を考えると不自然なほど整っています」
針子の一人も頷く。
「服作りも、基本は出来ています。ただ、少し効率が悪い。だから改善できる部分が多いですね」
専門家たちの視線が、誠へ集まる。
「……」
誠は困ったように頭を掻く。
「えーっと……」
その時。
「私もそれが知りたいのです」
タタが口を挟んだ。
「え?」
専門家たちがタタを見る。
「タタさん?」
「はい」
「あなたがこの村を紹介したのでは?」
「そうです」
「では、誠殿が何者なのかご存じなのでは?」
タタは少し困った顔をする。
「それが……」
「分からない?」
「はい」
「……」
専門家たちは顔を見合わせる。
タタは続ける。
「誠殿は、この村に来てから色々なことを始めました。ですが、どこでその知識を得たのかは、私にも分かりません」
「それに――」
タタがアイを見る。
正確には、誠の近くに浮かんでいる四角い魔道具を見る。
「いつも、あの魔道具と話しています」
「魔道具?」
「はい」
誠は思わずアイを見る。
ブーン。
『……』
「どうした?」
『注目を集めています』
「だよな……」
建築の専門家が近づいてくる。
「その魔道具は?」
「俺の相棒」
「相棒?」
「アイっていう」
ブーン。
『はじめまして』
専門家たちが固まった。
「……」
「……」
「……喋った?」
タタは平然としている。
「はい。喋ります」
専門家たちが誠を見る。
誠は苦笑する。
「まあ……色々あるんだ」
植物の専門家が、薬草畑を見る。
建築の専門家が、レンガとU字溝を見る。
針子たちが、村人たちの服を見る。
そして三組とも、同じことを思っていた。
この村。思っていたより――ずっとおかしい。
だが、それは悪い意味ではない。
「面白いですね」
植物の専門家が笑う。
「ええ」
建築の専門家も頷く。
「実に興味深い」
針子たちも笑う。
「ここなら、私たちも色々学べそうです」
誠はその言葉を聞いて、少し嬉しくなった。
専門家を呼んだ。
だが、教えてもらうだけではない。
この村からも、彼らに渡せるものがあるのかもしれない。
『誠様』
「ん?」
『知識の交換が始まりました』
「……そうだな」
村に、新しい人が増えた。
そして同時に――新しい知識も入ってきた。
この日から村は、さらに大きく変わり始めることになる。




