専門家を迎える準備
「誠殿ー!」
朝からタタが走ってきた。
「どうした?」
「先日のお話ですが、専門的な知識を持つ者を何人か呼べそうです!」
「本当か?」
「はい!」
タタは羊皮紙を広げる。
「植物に詳しい者が一人。建築に詳しい者が一人。それから、針子が二人ほど来られそうです」
「……そんなに来るのか?」
思っていたより人数が多い。
「はい。こちらの村に興味を持っている者もいるようです」
「そうなのか……」
『誠様』
「ん?」
『専門家を受け入れるための作業場所を確保することを推奨します』
「確かにな」
来てもらうだけでは意味がない。
知識を教えてもらうなら、それを実際に試せる場所が必要だ。
「じゃあ、準備するか」
◇
まず、植物担当。
「ここを薬草畑にするか」
村の中でも日当たりが良く、水を確保しやすい場所を選ぶ。薬草を植えた植木鉢も並べる。
「ここなら観察もしやすいな」
『研究用の区画も確保することを推奨します』
「研究用?」
『採取した植物の比較や栽培実験を行う場所です』
「なるほど」
薬草畑の一角に、少し余裕を持った場所を作る。ここで植物の観察や栽培方法を調べる。
「これなら、植物に詳しい人が来てもすぐ仕事ができそうだな」
『はい』
◇
次は建築担当。
「こっちはレンガとセメント」
レンガが積まれている場所。
その隣には、少しずつ貯めているセメント。
さらに、その先にはU字溝。
「ここを作業場所にするか」
『問題ありません』
「建築の専門家なら、この辺りを見てもらえばいい」
今まで村人たちは、誠の説明やアイの助言を頼りに建物を作ってきた。
だが、専門家が来ればもっと違う方法が見つかるかもしれない。
「俺たちが知らない建築方法とかもあるかもしれないしな」
『その可能性は高いです』
「楽しみだな」
◇
そして最後は針子。
「ここは……」
誠は布や糸を並べてみる。
「服を作る場所か」
『布の加工や衣服の製作に適した場所を確保してください』
「分かった」
村にはすでに服を作っている者がいる。
だが、専門家が来れば、
「もっと布を無駄なく使う方法とか縫いやすい形に。丈夫な縫い方」
など、新しい知識が入ってくるかもしれない。
「これで一通り準備できたな」
◇
その日の午後。
村人たちは、いつも通り作業をしていた。
薬草畑では、村人が水をやっている。
レンガ作りの場所では、職人が作業している。
服を作っている女性たちもいる。
そこへ、誠が声をかけた。
「近いうちに、専門家が来るぞ」
「専門家?」
「植物に詳しい人。建築に詳しい人。針子も来るらしい」
村人たちは顔を見合わせる。
「へぇ……」
「俺たちと違う作り方を知ってるのか?」
「そういうことだな」
すると、鍛冶をしていた男が笑った。
「でも、こっちのやり方の方が簡単なこともあるんじゃないか?」
「かもしれないな」
「なら、比べてみればいい」
別の村人が頷く。
「向こうのやり方を教えてもらって、こっちのやり方と比べる」
「それで良い方を使えばいい」
「なるほど」
誠は少し驚いた。
以前なら、
「誠様が言ったから」
で終わっていた。
今は違う。自分たちで考えている。
「専門家が来たからって、全部任せる必要はないぞ」
誠が言う。
「村で今までやってきた方法も、十分役に立つ。だったら両方試そうぜ」
「そうだな」
「こっちの方が簡単じゃないか?」
「いや、向こうの方法の方が丈夫かもしれんぞ」
早くも村人たちの間で議論が始まった。
『誠様』
「ん?」
『非常に良い反応です』
「だよな」
専門家が一方的に教える。それだけではない。
この村には、この村で積み重ねてきた経験がある。
専門家の知識。村人の経験。
そして、誠たちが持つ別世界の知識。
「三つが合わさったら……」
『新しい技術が生まれる可能性があります』
「楽しみだな」
専門家が来る前から、村は少しだけ変わり始めていた。知識を一方的に受け取るのではない。
互いに教え合い、試し、比べる。
その先に何が生まれるのか。
誠は、少し楽しみになっていた。




