薬草という新しい産業
持ってきた植木鉢には、全て薬草の植え替えが終わった。
根を傷めないように土ごと移したので、今のところ枯れる様子もない。
「よし。これで全部だな」
『はい。あとは環境を整え、定期的に観察してください』
「分かった」
俺は植木鉢を並べた場所を眺める。
「さて。村へ戻るか」
◇
村へ戻る途中、ミィナが植木鉢を眺めながら言った。
「誠」
「ん?」
「村で薬草が採れるとなれば、楽になるな」
「そうだな」
わざわざ山まで探しに行かなくてもいい。
必要な時に村で採れるようになれば、それだけでもかなり便利だ。
「まあ、上手く育って増えるといいな」
「そうだな」
そんな話をしていると――
「はぁ……はぁ……」
後ろから誰かが走ってくる。
「誠殿! ミィナ殿!」
「どうした? タタ」
息を切らしたタタが追いついてきた。
「いえいえ。また変わったことをしていると小耳に入ったもので……」
タタは並んでいる植木鉢を見る。
「薬草ですか?」
「そうだ」
「村で育ててみようかと思ってな」
「なるほど……」
タタは植木鉢を一つ持ち上げ、じっくりと観察する。
「ここは自然豊かな場所ですから、手軽に薬草が手に入る……ということですね」
「そういうこと」
「なるほど」
タタは少し考え込む。
「これは、かなり面白いと思います」
「ん?」
「薬草というのは、町が大きくなるほど手に入りにくくなるのです」
「ん? 他じゃ手に入らないのか?」
「手に入らないわけではありません」
タタは首を横に振る。
「大規模な街になりますと、薬草が生えている場所まで行くのに時間がかかります」
「なるほど」
「そのため、郊外まで採りに行く必要があります」
「それを誰かがやるのか?」
「はい」
タタは当然のように答える。
「冒険者などの仕事ですね」
「……冒険者がいるのか!?」
思わず声が大きくなる。
「はい」
『新たな職種です』
アイまで反応した。
「やっぱり、そういうのいるんだな」
『はい。ゲームなどで見られる職業に近い存在と考えられます』
「やはりゲームのような世界……」
「はい?」
「いや、なんでもない」
タタは不思議そうな顔をしたが、すぐに薬草へ視線を戻した。
「薬草を採取して町へ持ち帰る冒険者もいます」
「じゃあ、需要はあるんだな」
「もちろんです」
タタは即答した。
「傷薬、胃腸薬、熱冷ましなど、薬草を必要とする人は多いですから」
「なるほど……」
俺は植木鉢を見る。
「じゃあ、ここで栽培できれば?」
「安定的な収入源となります」
タタの目が輝いた。
「しかも、この村は薬草の生育環境に適しています」
「本当に?」
「はい」
「だったら、食料とは別の収入源になるな」
『収入源の多様化は、村の経済安定に有効です』
「だよな」
これまで村の収入源と言えば、干し肉や干物、味噌、醤油。
それに陶器や紙、荷台車の改造などだった。
そこへ――薬草が加わる。
「でも、いきなり大量生産はしない方がいいな」
『同意します』
「まずはちゃんと育つか確認する。その後、増やせるか試す。品質も確認する」
『さらに、薬草ごとの栽培条件を記録することを推奨します』
「なるほど」
タタも頷く。
「それなら、こちらでも販売先や需要を調べておきます」
「頼めるか?」
「もちろんです!」
「仕事が早いな……」
『タタ様は非常に有能です』
「それは認める」
タタは、さっそく薬草の種類や植木鉢の数を確認し始めた。
「この種類なら需要が高そうです」
「こっちは?」
「こちらは薬師がよく使いますね」
「薬師?」
「はい。薬を調合する者です」
「……薬師までいるのか」
『世界の情報がさらに増えました』
「本当に知らないことばかりだな」
俺は苦笑する。
少し前まで、俺たちは村の中で生きるだけで精一杯だった。
今では商隊が来て、町と取引をし、知らない職業や制度まで知るようになった。
そして今度は――
「薬草まで商売になるのか」
『はい』
「面白いな」
俺は並んだ植木鉢を見る。まだ小さな薬草。
これが育ち、増えて、商品になる。
そして村の新しい収入源になる。
「……また村が一歩進んだな」
『はい』
タタは薬草を眺めながら、嬉しそうに笑っていた。
「これは、しっかり育てましょう!」
「おう」
ミィナも頷く。
「じゃあ、俺たちも世話をするか」
「そうだな」
小さな植木鉢から始まった薬草栽培。
それは後に、この村の新しい産業へと成長していくことになる。
だが今はまだ――ただの小さな薬草畑だった。




