受け継がれた薬草の知恵
「誠ー!」
村へ戻ってきた俺を、ミィナが見つけた。
「また変なもん作ったんだって?」
「ミィナか……変なもんじゃない。植木鉢だ」
「植木鉢?」
ミィナは、並べられた四角い鉢を覗き込む。
「何か植えるのか? わざわざこんなのに?」
「そうだ」
俺は山で見つけた薬草の話をする。
「山で薬草を見つけたんだ。それを植木鉢に植え替えて、村へ持ち帰る」
「それで?」
「村で育てて、増やせるか試してみる」
「薬草か!」
ミィナの表情が変わった。
「俺も少しは知ってるぞ。手伝う!」
「本当か?」
「ああ!」
「じゃあ、知ってる薬草を教えてくれ!」
「おう!」
◇
山へ入ると、ミィナは迷うことなく植物を探し始めた。
「あ、これだ」
ミィナが葉を指差す。
「これは傷に効く。こっちは、熱が出た時に煎じて飲む。あと、これは腹が痛い時に飲む」
「……」
俺はミィナの説明を聞きながら、植物を見る。
「……あってるのか?」
「当たり前だろ!」
ミィナが少しむっとする。
『問題ございません』
「アイ?」
『図鑑に記載されている内容と一致しています』
「へぇ……」
俺は改めてミィナを見る。
「じゃあ、これは……」
ミィナは別の薬草を指差す。
「それも昔から使われてる」
「なるほど」
俺は少し考える。
「これって、あれか?」
「何だ?」
「昔から自然に、次の世代へ受け継いでいくってやつ」
「ああ」
ミィナは頷いた。
「俺も、おばあちゃんに教えてもらった」
「なるほどな」
『民間で伝承されてきた知識と考えられます』
「民間の言い伝えか」
『はい』
俺は薬草を眺める。
図鑑に書かれている知識と、村人が昔から受け継いできた知識。
同じものを、別々の道から知ることができる。
「面白いな」
「何が?」
「いや。知識って、こうやって残っていくんだなって」
「よく分からんけど、昔からそうなんだよ」
「それが大事なんだろうな」
◇
しばらく歩いていると、ミィナがまた足を止めた。
「あ、これもだ」
「何に使うんだ?」
「これは……避妊草」
「ぶっ……!」
思わず吹き出した。
『この地域固有の植物である可能性があります』
「……なるほど」
ミィナは不思議そうに俺を見る。
「何だよ?」
「いや……何でもない」
『誠様』
「何だ?」
『非常に興味深い植物です』
「そこを掘り下げるな」
「何をぶつぶつ言ってるんだ?」
「独り言だ」
「またか?」
「……まあな」
◇
俺たちは目的の薬草を見つけると、植木鉢を取り出した。
「で、この植木鉢ってのに植え替えるのか?」
「そうだ」
俺は植木鉢を地面に置く。
「周りの土ごと掘り出す」
「根っこは?」
「なるべく傷めないようにする」
「分かった!」
ミィナが慎重に土を掘り始める。
「こうか?」
「そうそう」
「根っこが出てきたぞ。もう少し周りを広く」
「おう!」
二人で慎重に掘り進める。
やがて、土ごと薬草が持ち上がった。
「おお……これなら大丈夫そうだな」
『根の損傷も最小限です』
「よし」
植木鉢へ土ごと移す。
隙間へ周囲の土を少し足していく。
「これでいいか?」
『問題ありません』
「よし!」
ミィナも満足そうに頷く。
「これで村で育てられるんだな」
「ああ」
「じゃあ、もっと探そうぜ」
「そうだな」
俺は植木鉢を荷台へ載せる。
「ただし、全部持って帰るんじゃないぞ」
「分かってる。山に残しておく分も必要だからな」
『非常に重要な判断です』
「そういうこと」
俺たちは、その後もいくつかの薬草を探した。
知っているもの。知らないもの。
図鑑に載っているもの。載っていないもの。
一つずつ確認しながら、必要な分だけ持ち帰る。
帰り道、俺はふと思った。
この世界には、文字になって残っている知識がある。
そして、人から人へ受け継がれてきた知識もある。
どちらも、この村にとっては大切な財産だ。
「ミィナ」
「ん?」
「これからも、知ってる薬草があったら教えてくれ」
「もちろん!」
「俺たちだけじゃなくて、村の人にも聞いてみよう」
「そうだな」
『知識の収集範囲を広げることを推奨します』
「だな」
山から持ち帰った薬草は、やがて村の新しい資源になるかもしれない。
そして――おばあちゃんからミィナへ。
ミィナから次の世代へ。
そんなふうに受け継がれてきた知識もまた、この村の未来を支えるものになるのだった。




