初めてのセメント建築
「これが……セメント?」
俺は、出来上がった材料を手に取って眺める。
『はい。必要な材料を適切な割合で混合したものです』
「これに適正な量の水を混ぜて……」
俺はアイの指示を確認しながら、水を少しずつ加えていく。
「混ぜる」
ざくっ、ざくっ。
砂や石灰が、少しずつ水と馴染んでいく。
「こんなもんか?」
『はい。均等になるよう、もう少し混ぜてください』
「了解」
さらに混ぜる。
最初はただの砂のようだったものが、少しずつ粘り気を持っていく。
「へぇ……」
俺は指先で少し触れてみた。
「これが固まるのか?」
『はい』
「今はまだ柔らかいけど?」
『時間経過によって硬化します』
「面白いな」
俺は少量を木箱に入れて、平らにならした。
「じゃあ、これで試験だな」
◇
翌日。
「……固まってる」
昨日まで柔らかかったものが、硬くなっている。
村人たちも次々と集まってきた。
「本当に石みたいになってるぞ」
「水を混ぜただけなのか?」
「これで何が出来るんだ?」
俺は固まったセメントを手に取る。
「これをレンガの間に使うんだ」
「レンガの間?」
「そう。今まではレンガを積み重ねるだけだったけど、これを間に入れることで、レンガ同士をしっかり固定できる」
村人たちは、固まったセメントを何度も触っている。
「……なるほど。これなら建物も丈夫になりそうだな」
『その通りです』
アイの声が入る。
『ただし、実際の建築では基礎や構造も重要になります』
「まあ、最初から大きな建物を作る必要はないだろ」
俺は完成したセメントを見ながら考える。
「まずは、小さい建物で試してみるか」
「そうだな」
「最初は倉庫……」
俺は村を見渡す。
「いや。倉庫はデカすぎるな」
村人も頷く。
「いきなり大きな建物を作るのは大変だ。なら……」
俺は少し考える。
「馬小屋辺りでいいんじゃないか?」
「馬小屋?」
「四角くて、それほど複雑じゃない。材料も倉庫ほど必要ない」
「確かに」
◇
「じゃあ、最初の建築は馬小屋でいこう」
「おう!」
村人たちが動き始める。
レンガを運ぶ者。セメントを運ぶ者。
基礎を作る者。道具を準備する者。
「しかし……」
俺は少し離れたところから眺める。
「まさか馬小屋が、この村初のレンガ建築になるとはな」
『実験施設として適しています』
「だよな」
大きすぎない。形も単純。
失敗しても被害が少ない。
そして、実際に使う建物だから、完成後の評価もできる。
「よし。まずはここからだな」
村人たちが基礎を整え、レンガを並べ始める。
その間にセメントを入れる。
「こうやって……」
「レンガを置いて……」
「またセメントを入れる」
少しずつ壁が高くなっていく。
「おお……」
「建物になってきたな」
俺は思わず笑った。
今までの村の建物とは違う。
木ではない。藁でもない。
土を固めただけでもない。
レンガとセメントで作られる、新しい建物。
『誠様』
「ん?」
『これは村の建築技術における大きな転換点です』
「……そうだな」
最初は、冬を越すための小屋だった。
今は、何年も使うことを前提にした建物を作ろうとしている。
「村も、変わってきたな」
『はい』
「よし」
俺はレンガを一つ手に取った。
「最初の一軒、ちゃんと作ろうぜ」
村人たちの声が響く。
レンガを積む音。セメントを混ぜる音。
道具を動かす音。
その一つ一つが――村が「町」へ向かう、新しい音になっていた。




