セメントと増える人手
何だかんだ作業をしていると、時間が進むのは早い。
朝から砂を運び、昼にはレンガの様子を確認し、夕方には水路の計画を見直す。
そんな毎日を繰り返しているうちに――
「お、来たな」
村の入口に、荷馬車が入ってきた。
「石灰です!」
「おお!」
待っていた石灰が、ようやく届いた。
荷馬車から次々と袋が降ろされていく。
「これでセメントが作れるな」
『はい。材料は揃いました』
「よし」
だが、最近はもう一つの光景が当たり前になっていた。
「また荷馬車の改造か」
商隊が持ってきた荷馬車は、そのまま帰ることはない。
鍛冶場へ運ばれ、足回りを確認される。
板ばねを取り付け、必要な部分を補強する。
そして――
「改造完了!」
「では、荷物を積み込みます」
改造された荷馬車には、帰りの荷物が積み込まれていく。
最初は珍しかった光景も、今ではすっかり村の日常になっていた。
「しかし、これ……完全に流れが出来てるな」
『はい。物流と技術交換が循環しています』
「商隊が物を持ってくる。村が技術を提供する。商隊は改造された荷馬車で帰る」
『非常に効率的な循環です』
その時――ピッ。
「お支払い完了です!」
「……」
俺は思わず振り返った。
「またそれか」
『はい』
ピッ。ピッ。
次々と決済が行われる。
「何か、いまだに納得できないんだよな……」
『文明の一部として受け入れることを推奨します』
「そうするよ」
◇
石灰が届いたことで、さっそくセメント作りを始める。
「アイ、配合はこれでいいんだな?」
『はい』
砂。砂利。石灰。そして必要な材料を順番に混ぜていく。
「結構重いな」
ざくっ。ざくっ。
村人たちが材料を混ぜていく。
「これがセメントになるのか?」
「固まるのか?」
「今のところ、ただの粉と砂にしか見えんぞ」
「まあ、試してみよう」
十分に混ぜたものを袋へ入れる。
「これは屋根付きの建物に保管しよう」
『推奨します』
「湿気たら困るからな」
こうして、完成したセメントは少しずつ保管されていった。
すぐに建築へ使うのではない。
まずは十分な量を確保する。
レンガも同じだった。
焼き上がったものを一つずつ積み上げ、必要な数を貯めていく。
「……結構増えたな」
『まだ必要量には達していません』
「まだか」
『はい』
「建物って、大変なんだな」
『基礎となる材料が大量に必要になります』
「なるほど」
急いで建てる必要はない。
材料を揃えて、準備が整ってから始める。
それが今の村には合っている。
◇
そんなある日のこと。
「誠様!」
タタが、また誰かを連れてきた。
「……またか」
その後ろには、数人の人間がいる。
「今回は何人だ?」
「人手不足を解消するためです」
「……そうか」
俺は少し複雑な気持ちになった。
「奴隷……なんだよな」
「はい」
この世界では普通の制度らしい。
だが、俺にとってはどうしても慣れない。
「……」
一人の青年と目が合う。
怯えているというより、緊張している。
「誠殿」
「ん?」
「彼らも、これからこの村の一員です」
タタが静かに言う。
「仕事を覚えてもらい、衣食住を保証します」
「……分かった」
俺は頷く。
「まずは無理をさせないでくれ」
「もちろんです」
俺は彼らに声をかける。
「俺は誠だ。分からないことがあったら、近くの人に聞いてくれ。ここでは、みんなで仕事をする」
何人かが小さく頷いた。
そして、村人たちがそれぞれの作業場へ案内していく。
鍛冶場。窯場。畑。紙漉き場。保存庫。
それぞれの場所へ、人が散っていく。
「……普通の人なんだよな」
『はい』
「話せば普通に笑うし、普通に困る」
『当然です』
「何だかなぁ……」
俺は少し複雑な気持ちで、その背中を見送った。奴隷という制度そのものには、まだ抵抗がある。
けれど――少なくとも、この村に来た以上は。
「ここでちゃんと暮らせるようにするしかないな」
『その考えは合理的です』
「合理的とかじゃなくてさ」
俺は苦笑する。
「同じ村で暮らすんだからな」
『……はい』
その日も村では、セメントが作られ、レンガが焼かれ、荷馬車が改造されていった。
そして、新しく加わった人々も少しずつ作業を覚えていく。
村はまた、少しだけ大きくなった。
人が増えれば、必要なものも増える。
だからこそ――今まで以上に、村そのものを整えていく必要があった。




