筋肉痛と身近な薬草
数日間、俺たちは砂と砂利をひたすら分け続けていた。
「……かなり溜まったな」
川辺に積み上げられた砂と砂利を見る。
最初は大した量に見えなかったが、こうして集めてみると結構な量だ。
「これだけあれば、しばらくは大丈夫そうだな」
『はい。必要量は十分確保できています』
「なら、あとは石灰が来るのを待つだけか」
『その通りです』
石灰が届けば、いよいよセメント作りに入れる。
そう思うと、少し楽しみになってきた。
◇
その間にも、村では別の作業が進んでいた。
レンガは少しずつ焼き上がり、完成したものが積まれている。
「おお……ちゃんとレンガになってるな」
まだ大量とはいかない。
だが、確実に数は増えている。
そして――
「誠殿」
焼物担当の男が、何かを持ってやって来た。
「これが例のU字溝だ」
「おお!」
俺は思わず身を乗り出した。
「やっと一個完成したか!」
「うむ」
完成したU字溝を地面に置く。
形としては、ちゃんとU字になっている。
「これ、何に使うんだ?」
別の村人が興味深そうに尋ねてきた。
「ああ、これはな……」
俺は下水道の仕組みを説明する。
汚れた水をここへ流し、家や作業場から離れた場所へ運ぶ。
そして最後は処理する。
「なるほど」
村人たちはU字溝を覗き込む。
「水をここに流すのか」
「そういうこと」
「なら、もう少し深くした方がいいんじゃないか?」
「え?」
「水が多く流れた時に、こぼれないように」
「……確かに」
俺が考えていると、男はU字溝をもう一度眺めた。
「少し改良してみるか」
「まあ、いいけど……」
俺は苦笑した。
「これ以上改良することなんて、そんなに無いと思うけどな」
『誠様』
「ん?」
『その判断は早計かと思われます』
「……はい」
確かに。
最近、村人たちは俺の想像以上に改良してくる。
「まあ、まずは型になった」
「量産化も、これなら難しくなさそうだ」
『はい』
これで一歩前進だ。
◇
だが――
「いてて……」
俺は腕を押さえた。
「……筋肉痛だ」
砂利を運び、砂を篩にかけ、何度も何度も作業した。
普段から体を動かしているとはいえ、さすがに連日やれば筋肉にくる。
「はぁ……湿布が欲しいところだが……」
当然、そんな便利な物はない。
『誠様』
「ん?」
『地球と似た植物を発見しております』
「似たような?」
『はい』
『同一の植物であれば、成分も類似している可能性があります』
「成分?」
『筋肉痛などに利用できる可能性があります』
俺は少し身を乗り出した。
「それはどれだ?」
『この薬草です』
アイの画面に、植物の姿が表示される。
「……ヨモギ?」
見覚えのある葉だった。
「確か、あの団子とかに使うやつか?」
『はい』
「ヨモギで筋肉痛に?」
『地球では、ヨモギを外用に利用する例があります』
『この世界の個体が同一または類似した植物であれば、試す価値はあります』
「なるほど」
俺はヨモギを手に取る。
「それで、どうするんだ?」
『葉を煮出し、その液を布に染み込ませます』
「それを絞って……」
『患部に当てます』
「なるほど」
俺は腕をさする。
「これなら、また俺でも出来るか」
『はい』
「よし」
今までなら、筋肉痛になったら我慢するしかなかった。
だが、村の周りにはまだ知らない植物がいくらでもある。
「食べ物だけじゃなくて、薬にも使える植物があるんだな」
『はい』
『今後、植物の利用価値を調査することを推奨します』
「それも面白そうだな」
俺はヨモギを眺めた。
レンガ。U字溝。砂と砂利。セメント。
そして薬草。
村が大きくなるにつれて、必要になるものも増えていく。
その一方で――
「身近なところに、まだ使えるものがいっぱいあるんだな」
『その通りです』
俺はヨモギを握りしめる。
「じゃあ、まずはこれを試してみるか」
『はい』
文明が進むということは、新しい物を作るだけではない。
今まで気にも留めなかったものの価値を、見つけていくことでもある。
そんなことを考えながら、俺は筋肉痛の腕をさすった。




