土の下を作る
「こっちのレンガは、わけねーな」
俺は、まだ焼き上がっていないレンガ用の型を眺めながら呟いた。
「しかし……この下水管ってのは、中々厳しいぞ」
「そうか?」
隣で作業を見ていた焼物担当の男が首を傾げる。
「確かに円柱。その辺りが難しいんだろ」
俺は試しに作った粘土の管を見る。
均一な円柱にするのが難しい。
しかも、中をきれいに空洞にしなければならない。
「これを大量に作るとなると、大変だな」
ブーン。
アイの画面が表示される。
『ならば、U字溝を推奨します』
「U字溝?」
『はい』
画面に、断面がU字型になった溝が表示される。
「あー」
俺は納得した。
「それなら俺も分かる。管みたいに完全な円柱にする必要がないからな」
『はい』
「なら、こんな形で蓋をするのは出来るか?」
俺は紙に簡単な図を描いた。
U字型の溝。
その上に平たい蓋を乗せる。
「こっちならまだ簡単だ。木枠を作って、その上に板状の粘土を置けば、自然とその型になるからな」
焼物担当の男が図を覗き込む。
「なるほど……これなら木型を使って作れそうだな」
「だろ?」
『生産性も、円柱型より高くなると推測します』
「なら、こっちでいこう」
俺は図面をまとめた。
「U字溝と蓋の生産をお願いするわ!」
「分かった!」
男が頷く。
「レンガなら大量に作れるぞ」
「U字溝ってやつは、まず木型からだな」
「頼む!完成したら教えてくれ!」
「ああ、任せろ!」
◇
俺は作業場を離れ、完成した図面をアイに見せる。
「これでいいか?」
『はい。問題ございません』
「じゃあ、あとは完成待ちだな」
『はい』
振り返ると、村人たちはさっそく作業を始めていた。
レンガ用の粘土を準備する者。型を作る者。
U字溝の木枠を作る者。
まだ、何一つ完成していない。
それでも、村人たちの動きに迷いはなかった。
「……みんな、慣れたもんだな」
『新しい作業への適応速度が上昇しています』
「前なら、俺が横で説明しないと何も始まらなかったのにな」
『現在は、誠様の設計を基に自分たちで工程を組み立てています』
「そう考えると、すごい変化だな」
俺は作業場を見渡す。まだレンガもない。
U字溝もない。下水道も完成していない。
それでも、もう村人たちは未来の形を見ながら動いている。
「こうやって、少しずつ形になっていくんだな」
『はい』
『まずは、必要な物を作るところからです』
「だな」
◇
俺は作業場を後にした。
今度作るのは、建物でも農具でもない。
地面の下を流れる、水の道。
それが完成すれば、村の衛生環境は大きく変わる。
人が増えても、汚水が村に溜まらない。
雨が降っても、水が溢れにくくなる。
そして、将来的には家々から出る水も、決められた場所へ流せるようになる。
「村を大きくするって、こういうことなんだな」
『はい』
『建物を増やすだけではなく、人が増えても問題なく暮らせる仕組みを作ることです』
「なるほどな」
俺は村を振り返った。
木造の家。新しく作られ始めた作業場。
農地。水路。
そして、これから作られるレンガとU字溝。
「まだまだ小さな村だけど……少しずつ、町みたいになっていくな」
『その可能性は十分にあります』
俺は苦笑した。
「最初は冬を越すだけで精一杯だったのにな」
『現在は、冬を越すことよりも、その先の暮らしを考えています』
「確かに」
それは、大きな変化だった。
◇
俺は歩きながら、ふと思った。
「さて……完成するまで、別の仕事でもするか」
『誠様』
「ん?」
『次の仕事を提案可能です』
「……」
「聞かなかったことにする」
『了解しました』
俺は苦笑しながら、その場を後にした。
まだ何も完成していない。
だが、村は確実に次の段階へ進み始めていた。
今まで積み重ねてきた技術が、今度は村そのものを変えようとしていた。
◇
「その次の作業ってのは?」
俺が聞くと、アイはすぐに答えた。
『セメントを作る際に必要となる、砂利と砂の確保です』
「ああ……」
俺は頷いた。
「材料集めか」
『はい。その通りです』
「石灰はタタに手配してもらった。レンガも作り始めてる。U字溝もこれからだ。となると、次は砂と砂利か」
『はい』
俺は周囲を見渡した。
「それなら川沿いか?」
『この辺りでは、川沿いが適しています』
「確かに、砂も砂利もありそうだな」
『採取場所を確認し、必要量を確保することを推奨します』
「分かった」
俺は頷いた。
「じゃあ、集めるとするか」
◇
村の数人に声をかけ、川へ向かう。
「砂と砂利を集めるぞ」
「砂利?」
「何に使うんだ?」
「セメントっていう新しい材料を作る」
「また新しい物かよ」
「今度は建物に使うらしいぞ」
村人たちは笑いながら、道具を持って川へ向かった。
川辺には、細かな砂が堆積している場所もあれば、大小様々な石が転がっている場所もある。
「……確かに、材料には困らなそうだな」
『採取環境として適しています』
「よし」
俺は籠を手に取る。
「まずは集めるか」
まだセメントは完成していない。
レンガも焼き上がっていない。
U字溝もこれからだ。
それでも、必要な材料を一つずつ揃えていく。
「なんだか、家を建てる前に山ほど準備するみたいだな」
『文明の発展には、材料の安定供給が重要です』
「なるほど」
俺は川辺に積み上がっていく砂と砂利を眺めた。
「これも産業の一部ってことか」
『はい。必要な材料を必要な時に確保できる仕組みも、村の生産基盤になります』
「……確かにな」
今までなら、必要になってから探していた。
だが今は違う。
必要になることを予測して、先に準備する。
それだけでも、村は少しずつ変わっていた。
「よし。今日は砂と砂利集めだ」
村人たちが一斉に動き始める。
川の音を聞きながら、俺も砂を籠へ入れていった。
村の再開発は、まだ始まったばかりだった。




