商隊が運んできたもの
商隊の責任者とタタが、何やら真剣に話し合っている。
「……十五台分の物資って」
俺は並んだ荷馬車を眺める。
「すごい量だな」
村人たちも、いつの間にかぞろぞろと集まってきていた。
「服だ!」
「鉄まであるぞ!」
「こっちは塩か?」
「こんなに種類があるのか……」
村では見たことのない物まで、次々と荷台から降ろされていく。
タタはそんな村人たちを見ながら、手際よく指示を出していた。
「これは保存庫へ」
「こちらは鍛冶場へお願いします」
「衣類は女性陣へ」
「食料品は種類ごとに分けてください」
「道具類はこちらです」
「……早いな」
俺が感心している間にも、物資はどんどん分けられていく。
『非常に効率的な物資配分です』
「タタ、こういうの慣れてるのか?」
『恐らく』
「……なるほど」
◇
しばらくすると、今度は商隊の責任者が荷馬車を指差しながら、鍛冶場の方へ向かっていった。
「ん?何してるんだ?」
どうやら荷馬車そのものについて話しているらしい。
鍛冶場の職人たちも集まり、車輪や足回りを確認している。
「まあいいか」
俺は別の荷物へ目を向けた。
「お、新しい服か」
布地を触ってみる。
「中々いいな」
俺とミィナが町へ行った時に買ってきた量とは、比べ物にならない。
「やっぱり商隊ってすごいな」
ミィナも目を輝かせていた。
「こんなに服があるなんて……」
「買い物好きだな」
「悪いか?」
「いや、別に」
◇
その一方で、商隊と一緒にやって来た人々も、タタの指示で動き始めていた。
鍛冶場へ向かう者。窯場へ向かう者。
畑へ向かう者。紙漉き場へ向かう者。
「……あの人たちは?」
俺はアイへ尋ねた。
『移住民でしょうか』
「俺もそう思う」
だが、どうにも気になる。
「ちょっと聞いてみるか」
「タタ」
「はい?」
「あの人たちは?」
俺が尋ねると、タタは何でもないことのように答えた。
「人手が不足すると思いまして、奴隷を買いました」
「……え?」
俺は固まった。
「奴隷?」
「はい」
「奴隷制度、あるの?」
「ございますよ」
タタはあっさり頷く。
「衣食住はきちんと用意しますしここなら、その点は心配しておりませんが」
俺は少し離れたところにいる彼らを見る。
まだ緊張している者もいる。
だが、すでに村人と一緒に作業へ向かっている者もいた。
「……そういう制度なのか」
『この世界では一般的な制度である可能性があります』
「まだまだ知らないことだらけだな……」
◇
俺は話を変える。
「ところで、あの荷馬車は?」
「ああ、あれですか」
タタは振り返る。
「足回りの改造依頼を受けています」
「改造?」
「はい」
「こちらで板ばね式に改造して、完成したら荷物を積んで帰る予定です」
「……なるほど」
俺は思わず笑った。
「流石だな、タタ」
「いえいえ」
タタは胸を張る。
「私もこれでノルマ……」
「……ノルマ?」
「いえ、皆さんのお役に立てます!」
「今、ノルマって言ったよな?」
「気のせいです!」
『誠様』
「ん?」
『追及しない方が良いと思われます』
「……そうだな」
◇
その時だった。
商隊の責任者が、タタへ声をかけた。
「タタ!」
「はい!」
「金を払うぞ!」
「分かりました。こちらへどうぞ!」
二人が何かの機械の前へ向かう。
「……何だ?」
俺も近づいてみる。
タタが何かを操作すると――
ピッ。
短い電子音が鳴った。
「お支払い終了です!」
「……」
俺は目を丸くした。
「……今の何?」
タタが不思議そうにこちらを見る。
「決済ですが?」
「いや、そうじゃなくて!」
「カードで支払っただけですよ?」
「カード!?」
俺は思わずアイを見る。
「アイ!?」
ブーン。
『どうやら、この世界には電子決済に近い仕組みが存在するようです』
「電子決済……?」
『はい』
俺は頭を抱える。
「待て待て。魔法がある。奴隷制度もある。でも電子決済がある。なのに村では、まだ木の荷台車を使ってる」
アイが少し沈黙してから答える。
『……確かに、技術発展のバランスが非常に興味深いです』
「だよな?」
『文明が一方向へ均等に発展しているとは限りません。特定分野だけが極端に発達している可能性があります』
「なるほど……」
俺は商隊を見渡した。
荷馬車。板ばね。電子決済。奴隷制度。
そして、まだ俺たちの村では知られていない様々な技術。
「……この世界、思ってた以上に奥が深そうだな」
『同感です』
アイの声が、いつもより少し楽しそうに聞こえた。
村の外には、まだ知らない仕組みがいくつもある。
そして今回の商隊は、その一端を運んできたに過ぎなかった。




