遊びもまた、産業になる
次の日。
俺は昨日作ったリバーシを抱え、村を回っていた。
「はい、これ一つ」
「これは何だ?」
「遊びだよ」
「遊び?」
俺は盤を置き、白と黒の駒を並べる。
「簡単だから、やってみれば分かる」
ルールを説明する。
自分の色で相手の駒を挟めば、ひっくり返せる。
最後に、自分の色が多い方が勝ち。
「……これだけ?」
「これだけ」
村人たちは顔を見合わせる。
「簡単だな。じゃあ、やってみるか」
◇
最初に飛びついたのは、やっぱり子どもたちだった。
「ここに置く!」
「違う! そこじゃない!」
「こうやって挟むんだろ!」
「うわ、白が黒になった!」
覚えるのが早い。
一度説明しただけで、もう勝手に遊び始めている。
「子どもってすげぇな……」
『学習速度が非常に高いです』
「俺より早いんだけど」
しばらくすると、その子どもたちが今度は親のところへ走っていく。
「父ちゃん! これ面白いぞ!」
「こうやって挟むんだ!」
「母ちゃんもやろう!」
「ちょっと貸してみな」
そこからは早かった。
子ども同士。親子。大人同士。
いつの間にか、あちこちの家でリバーシの盤を囲む姿が見られるようになった。
「……いい流れだな」
『はい。娯楽が自然に定着しています』
◇
その様子を見ていたタタが、突然動いた。
「これは……」
「登録ですね」
「はい!」
即答だった。
「新しい遊戯として登録します!」
「またか」
タタは楽しそうに羊皮紙へ書き込んでいく。
「それと、誠殿」
「ん?」
「製作をお願いします」
「……俺?」
「はい」
「他の人に頼めばいいのに」
タタは不思議そうな顔をする。
「これなら誠殿にも作れますね」
「一体、俺の存在って……」
『これくらいなら出来るだろうとの判断であります』
「またそれのパターンかよ……」
俺がため息をついていると、タタが続ける。
「ですが、誠殿が最初に作ることには意味があります」
「意味?」
「はい」
「新商品というものは、最初から大量に作られるわけではありません」
「まず現物が必要です。そして、それを見た人が実際に使い、売れると分かる。そこで初めて、他の者たちも安心して生産を始めます」
俺は少し考えた。
「つまり……最初の見本を作るってことか」
「その通りです!」
「なるほどな」
『合理的な判断です』
アイも納得している。
『登録制度があっても、需要が確認されなければ生産者は動きません』
「確かに。いきなり作って売れなかったら、材料も手間も無駄になる。でも、実際に村で流行ってる物なら――」
「作れば売れる可能性が高い」
「そういうことか」
タタが満面の笑みを浮かべる。
「さらに生産者が増えれば、登録料や使用料も発生します」
「……なるほど。最初の一歩が大事なんだな」
『はい』
◇
俺は完成したリバーシの盤を一枚手に取った。
「なら、俺が作るしかないな」
タタが頷く。
「お願いします!」
「分かったよ」
こうして俺はまた、木材と向き合うことになった。
農具。荷台車。紙。
そして今度は――遊び。
村を豊かにするものは、食料や道具だけじゃない。
人が笑い、集まり、時間を楽しめるものもまた、村の暮らしを豊かにしていく。
そして、その「遊び」さえも――
いつか、この村の新しい産業になるのかもしれなかった。
◇
それから俺は、数日かけてリバーシを作り続けた。
木板を切る。磨く。盤に線を引く。
駒を作る。白と黒に分ける。
ひたすら、その繰り返し。
「……よし」
完成したリバーシを並べる。
「かなり作ったぞ」
だが、隣で数を確認していたタタは首を横に振った。
「まだ少ないですね」
「え?」
「もっとお願いします」
「いやいや、こんなに必要なのか?」
目の前には、かなりの数のリバーシが積まれている。
村全体に配るどころか、余るくらい作ったつもりだった。
「まだ必要です」
「何に使うんだ?」
「それは後のお楽しみです」
「……怪しい」
俺はアイへ視線を向ける。
『恐らく、何か考えがあるものと推測します』
「だよなぁ」
タタは相変わらず楽しそうにしている。
「まあいいか」
俺は肩をすくめた。
「これくらいしか俺、作れないし」
『誠様、それは少々悲しい発言です』
「うるさい」
◇
さらに数日。
ようやくタタから、追加の製作指示が止まった。
「やっと終わった……」
俺が腕を回していると――
遠くから、何やら騒がしい音が聞こえてきた。
「……ん?」
村の入り口を見る。土煙が上がっている。
「何だ?」
村人たちも次々と作業の手を止め、入口へ集まっていく。
やがて、その姿が見えてきた。
「……荷馬車?」
一台。二台。三台。次々と続いてくる。
「……嘘だろ」
数える。
「一、二、三……」
「十五台!?」
大量の荷馬車が、村へ向かって進んでくる。
その荷台には、布。鉄材。調味料。衣類。
工具。食料。
見たことのない商品まで積まれている。
「なんだ、この量……」
村人たちも騒ぎ始めた。
「商隊か?」
「こんな大きなの、見たことねぇぞ!」
「何をしに来たんだ?」
俺も呆然と眺めていた。
だが、さらに気になるものがあった。
「……ん?」
荷馬車の周囲を歩く人々。
人間だけじゃない。
耳の長い者。背の低い者。大柄な者。
肌の色が違う者。
見たことのない種族までいる。
「……二十人近く?」
『複数の種族を確認しました』
「この村に?」
『はい』
俺は思わずタタを見る。
「……まさか」
タタは満面の笑みを浮かべていた。
「お待ちしておりました!」
「これ……タタが呼んだのか?」
「もちろんです!」
「何のために?」
タタは、積み上げられたリバーシを指差した。
「誠殿!ここからが、本当の商売ですよ」
俺は荷馬車十五台を見上げる。
どうやら、俺が作っていたリバーシは――
村の中で遊ぶためだけの物ではなかったらしい。




