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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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遊びが生まれる村

朝。


改変した種を植えた畑を見回っていると、ふと思い出した。


「そういや……抜根機の方はどうなったんだ?」


アイがすぐに反応する。


『確かに、あれから何も報告がありません。確認を推奨します』


「だよな」


俺は鍛冶場の方へ歩き出した。



鍛冶場へ向かう途中――


「ん……?」


思わず足が止まった。

村外れの開拓地で、何かが動いている。


「あれって……」


目を凝らす。


「アイさんや」


『はい』


「既に抜根機が木の根を抜いとるが?」


しばらく沈黙。


『……ですね。しかも、もう数機稼働しております……』


「いつの間に!?」


村人たちは、てこの原理を利用した抜根機を器用に扱い、太い根まで次々と引き抜いている。


「おーい! こっち終わったぞ!」


「次の場所行くか!」


「了解!」


手際も申し分ない。


「なら、いいか」


俺は苦笑する。


「使い方も合ってるみたいだし」


『はい。適応力が高すぎます。問題ありません。これで開拓速度も大幅に向上します』



その様子を眺めながら、俺は小さく呟いた。


「しかし……なんか、みんな変わったな」


以前なら、新しい道具を前に戸惑っていた。

今では説明を聞くだけで使いこなし、自分たちで改良まで始める。


『生きることで精一杯だった状態から、余裕が生まれた結果と推測します』


「余裕、か」


『はい。そこで、今度は違う方向からのアプローチを提案します』


「違う方向?」


『はい』


少し間を置いて、アイが続ける。


『やっと誠様の出番です』


「……そうですか」


嫌な予感しかしない。



『リバーシを製作することを推奨します』


「リバーシ?」


『はい。白と黒の石を使う盤上遊戯です』


「ああ、あれか」


オセロに似たゲームだ。


「でも何でそんな物を?」


俺は首を傾げる。

アイは落ち着いた声で答える。


『余裕が生まれるということは、娯楽が必要になると推測します。食料だけでは、人は豊かになりません』


「なるほど……」


確かに最近は、夕方になると村人たちが談笑している姿をよく見かける。


以前は疲れ切って眠るだけだった。

今は話す時間がある。笑う時間がある。


『リバーシは、誰でも簡単に覚えられます。年齢を問わず楽しめるため、村全体へ普及しやすいと考えられます』


「まあ確かに。難しいゲームじゃないしな」


『材料も木材のみで製作可能です』


「それならすぐ作れそうだ」



俺は近くに落ちていた木片を拾った。


「盤は木板でいいか」


『十分です』


「白黒は……焼き印でも付ければ何とかなるな」


『問題ありません』


俺は笑いながら頷いた。


「よし。なら作るか」


『はい。文明は、生きるためだけでは完成しません。楽しむ文化が加わってこそ、人々の暮らしは豊かになります』


その言葉に、俺は少しだけ考え込んだ。


村は飢えなくなった。道具も増えた。

産業も育ち始めた。


なら次は――笑顔を増やす番なのかもしれない。



俺は木板を切りそろえ、一枚一枚丁寧に磨いていく。

盤の線を引き、小さな駒には片面を焼き、もう片面はそのまま残した。


「……こんなもんで良いかな」


出来上がった盤を眺めながら呟く。

アイがすぐに確認する。


『十分です。遊戯としての機能は満たしています』


「それならよかった」


安心したのも束の間。


『では、可能な限りセットを製作しましょう』


「……そうなりますよね」


俺は苦笑しながら、新しい木板を手に取った。



結局、その日は朝から夕方まで木を削り続けた。


盤を作り。駒を切り出し。焼き印を押し。

最後に数を揃える。

単純な作業だが、思った以上に時間がかかる。


「うぅ……」


俺は大きく伸びをした。


「あー、手が痛いー!」


木を削り続けたせいで、手のひらがじんじんと痛む。

周りには完成した盤と駒が山のように積み上がっていた。


「……かなり作れたぞ」


『はい。村の各家庭へ配布できる数量を確保しました』


「そこまで作ったのか……」


『余裕があるうちに作っておく方が効率的です』


「確かに」


俺は完成したリバーシの山を眺める。

最初は一つだけ作るつもりだった。

気付けば、村中に配れるほどの数になっていた。



夕日が差し込む紙漉き場の隅で、完成した盤が並んでいる。


黒と白の駒。木の香り。どれもまだ新品だ。


「さて……」


俺は一つ手に取って微笑んだ。


「みんな、遊んでくれるかな」


『可能性は高いと推測します。単純な遊びほど、長く親しまれる傾向があります』


「そうだといいけどな」


俺はリバーシの駒を箱へしまい、立ち上がる。


『明日にも配布しましょう』


「そうだな」


明日は畑でも鍛冶場でもない。

村へ、新しい「遊び」を届ける日になりそうだった。

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