竹が運ぶ水、紙漉き場完成
朝から俺は、ひたすら竹と向き合っていた。
一本切っては、適度な長さに切る。
節を抜き、内部をきれいに掃除する。
また一本。また一本。その繰り返しだ。
「……最初は面倒だと思ったけど」
一本の竹を覗き込みながら苦笑する。
「慣れれば、なんてことないな」
『作業効率は向上しています』
「最近そればっかりだな」
『事実です』
◇
しばらくすると、村人たちが集まってきた。
「誠殿、何か手伝うか?」
「こっちの畑は一段落したぞ」
「俺たちも空いたぞ!」
俺は笑って頷いた。
「じゃあ、この竹を運んでくれ」
「任せろ!」
今では誰かが新しいことを始めると、自然と人が集まる。
鍛冶場もそうだった。
窯も、水路もそうだった。
この紙漉き場も、きっと同じだ。
◇
竹管を一本ずつ繋ぎ合わせ、水路から紙漉き場へ向かって組み立てていく。
高さを合わせ、傾きを確認する。
「もう少し右!」
「そこを少し上げてくれ!」
村人たちと声を掛け合いながら、慎重に位置を調整する。
『勾配は良好です』
「これなら流れるか」
最後の一本を繋ぎ終え、俺は深く息を吐いた。
「よし……水を流してみよう」
堰を少し開く。
さらさら、と音を立てながら水が竹の中を流れ始めた。
村人たちは固唾を呑んで見守る。
そして――竹管の先から、勢いよく水が流れ落ちた。
「おおっ!ちゃんと来たぞ!」
「漏れてねぇ!」
俺は思わず笑う。
「うん。我ながら上手くいったかな」
『問題ありません』
アイも静かに太鼓判を押した。
◇
それから数日。
建物も少しずつ形になっていく。
柱を立て、屋根を掛け、床を踏み固める。
紙を乾かす棚。大きなタライを置く場所。
道具を並べる棚。
どれも豪華ではない。
だが、作業するには十分な造りだった。
「完成だな」
『はい。初期紙漉き場として十分な性能です』
村人たちも満足そうに建物を眺める。
「また一つ増えたな。最近は建物ばかり増えてる気がする」
「でも全部ちゃんと使ってるからな」
誰かが笑い、皆もつられて笑った。
◇
建物が完成すると、今度は細かな道具作りに取りかかる。
木枠。竹で編んだ漉き簀。大きなタライ。
紙を押さえる板。乾燥用の棚。
「思ったより道具が多いな」
『紙作りは工程ごとの道具が重要です』
「なるほど」
一つずつ完成させ、所定の位置へ並べていく。
ようやく紙を作る準備が整った。
◇
俺は完成した紙漉き場を見渡した。
「さて……」
アイへ視線を向ける。
「工程を確認しながら、やってみるか」
『了解しました』
アイの画面に、紙漉きの工程が順番に表示される。
藁を煮る。繊維をほぐす。紙料を漉く。そして乾かす。どれも初めての作業だ。
一部は、手伝って貰って途中まで作業が終わっている。
だが、不思議と不安はなかった。
今までそうして、一つずつ村を変えてきたのだから。
新しい一枚の紙は、もうすぐこの村で生まれようとしていた。
◇
俺は木枠をゆっくりと持ち上げた。
「……アイ、こうか?」
漉いたばかりの繊維は、水をたっぷり含んでいる。
少し傾けただけで、厚い所と薄い所がはっきり分かってしまう。
『なるべく平らに、均一にしてください』
「言うのは簡単だけど……」
俺は木枠を揺らしながら苦笑する。
「難しいな。ムラになってるのが分かる」
何度やっても、端に繊維が寄ってしまう。
その様子を見ていた村人が、笑いながら近づいてきた。
「あーあー、見ちゃいられないなぁ」
「誠殿、代わってみ!」
「……はい」
俺は素直に木枠を渡した。
村人は慣れた手つきで木枠を軽く揺らし、余分な水を切っていく。
「どうだ? こんな感じか?」
アイがすぐに答えた。
『はい。先程より格段に良いです』
「え、そんなに違うのか?」
『はい。繊維の厚みが均一になっています』
村人は照れくさそうに頭をかいた。
「毎日泥をならしてるからな。平らにするのは得意なんだ」
「……なるほど」
畑を均す技術が、こんな所で役に立つとは思わなかった。
『そのまま何回か繰り返してください』
「こうか?」
同じように木枠を揺らしてみる。
今度は繊維がゆっくりと広がり、先ほどよりきれいに並んでいく。
『良い感じです』
アイの声に少しだけ自信が湧いた。
『そのまま乾燥棚へ重ね、同じ工程を繰り返してください』
「了解!」
俺は笑いながら頷く。
「任せろ!」
村人たちも次々と木枠を手に取り、紙漉きを始める。
最初はぎこちなかった作業も、人数が増えるにつれて少しずつ形になっていった。
一枚。また一枚。
まだ薄く頼りない紙だが、その一枚一枚が、この村の知識を残す土台になろうとしていた。




