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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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紙が生む、新しい知識

抜根機の製作図を書き終えた俺は、大きく息を吐いた。


「……どうにか書けたな」


図面を見直しながら呟くと、アイが静かに答える。


『はい。問題ないと思われます。鍛冶を得意とする方へお渡しください』


「分かった」


図面を丁寧に丸めてしまう。

これで後は鍛冶師たちの仕事だ。


『それと、誠様にも出来る作業へ移ります』


「……言い方」


少し不満そうに返すと、アイはまったく気にした様子もなく続けた。


『藁半紙の製作を行います』


「藁半紙?」


聞き慣れない言葉に首をかしげる。


『今後、紙の需要が高まる可能性があります』


「なるほど……」


確かに今使っているのは羊皮紙や木板ばかりだ。

丈夫ではあるが高価だし、図面を書くにも表面が滑らかとは言えない。


「この皮だと描きづらいしな。それなら俺でも作れるか?」


『それでなければ誠様へ仕事を振りません』


「……言い方、きつくない?」


『事実です』


「ぐぬぬ……」



俺は早速、村の倉庫へ向かった。


「藁なら大量に余ってるよな」


稲の収穫量が増えたおかげで、今年は藁が山のように積まれている。


『はい。今回はその藁を利用します』


「だから藁半紙か」


『まず藁を細かく刻みます』


「ふむふむ」


『その後、木灰を混ぜた湯で長時間煮込み、繊維だけを取り出します』


「木灰って灰汁になるのか」


『はい。不純物を除去できます』


「なるほど」



次は必要な道具だ。


「えっと……木の枠に網を張ったものと」


『タライを複数』


「あと、水場か」


『はい』


「意外と単純なんだな」


『紙は、複雑な道具より工程管理が重要です』


取り出した繊維を水の中でほぐし、そこへ糊を加える。


「糊は?」


『米から作ります』


「なるほど。米なら十分あるな」


『はい』


木枠を静かに沈め、繊維を均等にすくい上げる。


「これで紙になるのか?」


『乾燥すれば完成です』


「思ったより地道だな」



その様子を見ていたミィナが近寄ってきた。


「今度は何を作ってるんだ?」


「紙だ」


「……紙?」


「文字を書く物だよ」


「羊皮紙じゃ駄目なのか?」


「駄目じゃない。でも高いし、数も少ない」


俺は図面を見せる。


「これから設計図や記録が増えるだろ?」


「ああ」


「紙があれば、もっと気軽に書ける」


ミィナは感心したように頷いた。


「なるほどな」



藁を刻む者。灰を運ぶ者。大鍋で煮込む者。

いつの間にか村人たちも加わり、作業が始まっていた。


俺は苦笑する。


「またみんな集まってきたな」


『誠様が新しいことを始めると、村人が自然と集まる傾向があります』


「……もう慣れたよ」


木枠を持ち上げる。

薄く広がった繊維が、水滴を落としながら揺れていた。


まだ紙ではない。


だが、この一枚が完成すれば――。


設計図も。記録も。知識も。

今よりずっと多く残せるようになる。

俺は静かに、その一枚を見つめていた。



アイが続けて提案する。


『誠様。紙漉き場の設計もお願いします』


「紙漉き場?」


『はい。紙作りは大量の水を使用します。毎回桶で運ぶより、水を引き込んだ方が作業効率は格段に向上します』


「なるほど。それなら俺でも出来るな」


俺は周囲を見渡した。


水路はすぐ近くまで来ている。

ここから少し枝分かれさせれば、水を利用できそうだ。


「場所は……この辺りか?」


『ですね』


アイの返事に頷きながら、地面へ棒で簡単な図を書いていく。


「ここを紙漉き場にして……」


一本の線を引く。


「この水路から竹で管を作って、水を引き込む」


『はい。竹管であれば加工も容易です』


「使った水は、そのまま下流へ流す、と」


『排水溝も併設してください。水が溜まると作業効率が低下します』


「なるほど」


俺はさらに線を書き足した。


「ここに大きなタライを並べて、その横に紙を乾かす棚」


『乾燥場は風通しを優先してください』


「屋根も欲しいな。急な雨で全部駄目になる」


『推奨します』


図面は少しずつ形になっていく。

鍛冶場、窯場、保存庫。

そして今度は紙漉き場。

村にまた一つ、新しい仕事場が増えようとしていた。


「……気付けば、随分いろんな建物が増えたな」


『はい。村全体が、一つの生産拠点へ発展しています』


俺は描き終えた図面を見つめ、満足そうに頷いた。


「よし。まずは竹を切り出して、水を引くところから始めるか」


『はい。それが最優先です』


紙を作る前に、まずは紙を作る場所を作る。

そんな当たり前の準備から、新しい技術は始まろうとしていた。

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