広がる荷台車
改変した種を試験用の畑に蒔き終えた頃だった。
「誠殿ーー!」
広場の方から、大きな声が聞こえてきた。
「ん?」
誠が振り向くと、数人の村人が嬉しそうに手を振っている。
「ちょっと来てくれ!」
「見せたいもんがある!」
「何だ?」
誠はアイと共に広場へ向かった。
◇
広場へ着いた誠は、思わず足を止めた。
「……え?」
そこには三台の手引き荷台車が並んでいた。
しかも――。
「全部、板ばね付き……?」
誠は一台一台を見回す。
荷台の構造は少し違う。荷台を広くしたもの。丸太を運びやすくしたもの。
高さを低くして積み降ろししやすくしたもの。
だが共通しているのは、鉄製の足回りと板ばねだった。
「え? もう作ったの?」
村人たちは得意そうに笑う。
「見よう見まねだけどな!」
「誠殿が町へ行ってる間に作ってみた!」
「鉄も村で打てるようになったし!」
「何度か失敗したけど、何とか形になったぞ!」
誠は驚きながら荷車を押してみる。
スッ――。
「……軽い」
以前の木だけの荷車とは比べ物にならない。
「荷運びが楽すぎる!」
「木材も前より倍近く積める!」
「坂道でも荷崩れしねぇ!」
村人たちは口々に自慢し始めた。
◇
その様子を見ていたタタが、目を輝かせる。
「素晴らしい!」
荷車の下へ潜り込み、板ばねをじっくり観察する。
「技術とは、こうやって広まるのです!」
感心しながら何度も頷いている。
「しかも!」
タタは誠を見た。
「誠様が町まで引いていた荷台車より、この板ばねの出来が良くなっています!」
「え?」
「鍛冶を担当した方がおられるのでしょう? 鉄の打ち方が安定しています!」
村人の一人が照れくさそうに頭をかく。
「あれから何度も打ち直したんだ。まだまだだけど、少しは良くなっただろ?」
タタは満足そうに大きく頷く。
「はい! 格段に良くなっています!本職が見ても十分評価できる出来栄えです!」
誠は思わず笑ってしまう。
「あの一言、結構効いてたんだな」
◇
タタは胸を張る。
「しかも安心してください!荷台車は既に登録済みです!皆さんは正当な利用者ですので、安心して製作・使用してください!」
村人たちはほっと胸をなで下ろした。
「登録って便利なんだな」
「盗まれる心配が減るってわけか」
「ありがたい制度だ」
◇
一人の若者が荷車を叩きながら言う。
「これなら森の木材も一度に運べる」
別の男も続ける。
「炭も倍積めるぞ!」
女性たちも笑顔になる。
「収穫した野菜も何往復もしなくて済むね!」
「器も割れにくくなったよ!」
「保存壺もまとめて運べる!」
荷車一台が変わっただけで、村中の物流が大きく変わっていた。
炭も、木材も、収穫物も。
すべてが、より少ない労力で運べるようになっている。
◇
誠は少し離れた場所から、その光景を眺めた。
笑いながら荷車を押す村人たち。
自分たちで工夫し、さらに改良まで加えている。
誠は小さく笑う。
「……俺が作ったんじゃない。もう、村のみんなの技術なんだな」
『技術の定着を確認しました。発明ではなく、文化として根付き始めています』
「……そうか」
誠は新しい荷車を見つめた。
最初の一台は、自分が作った。
けれど、その先を育てたのは村人たちだ。
それが何より嬉しかった。
荷台車は今日も静かに村の中を走っていく。
それはもう、一人の発明ではなく――この村の日常になっていた。




