魔法という名の力
豆の実験を終えた誠は、勢いよく立ち上がった。
「アイ……どういう事だ?」
ブーン。
『恐らく、土地が植物の急激な成長に耐えられなかったものと推測します』
誠は、実験を行った場所を見つめる。
何種類かの種を蒔いた地面は、色が変わり、明らかに力を使い果たしたようになっていた。
「……土が死んでるみたいだ」
改変の能力を持つ村人も、複雑そうな表情を浮かべる。
「誠殿……俺の魔法の使い方は何となく分かったが……」
村人は乾いた土を掴みながら苦笑した。
「これじゃ土地がいくらあっても足りなくなるぞ」
「確かにな」
ブーン。
『速度を追求するのは推奨しません。成長速度ではなく、病気に強い・収穫量が二倍・乾燥に強い、といった改変を試しましょう』
「なるほど」
誠は頷く。
「急がせるんじゃなくて、強くする方向か」
『はい』
「じゃあ、その改変をした種を普通に育ててみよう」
誠は試験用の畑を作り、改変した種を一粒ずつ丁寧に蒔いていく。
「結果を見るには時間が必要だな」
『はい。長期観察を推奨します』
◇
そこへ、タタが姿を現した。
「なるほど、なるほど!」
どうやら少し離れた場所から、一連の実験を見守っていたらしい。
「実に興味深い!」
誠は振り返る。
「見てたのか」
「もちろんです!」
タタは興奮気味に頷く。
「早速、植物に詳しい者をこちらへ派遣するよう連絡しておきました!」
「えっ?」
「こういう研究は専門家がいた方が早いですからな!」
「行動が早いな……」
「我々の仕事です!」
胸を張るタタを見て、誠は苦笑した。
◇
そこへミィナもやって来る。
「誠ー!また村中を回って変なこと聞いてるんだって?」
「変なこととは失礼な」
「いや、みんな言ってたぞ」
ミィナは笑いながら腕を組んだ。
「『生活魔法以外あるか?』って聞き回ってるって」
「調査だからな」
誠はふと思い付く。
「そういやミィナ。お前はどんな魔法が使えるんだ?」
「俺か?」
ミィナは軽く拳を握る。
「筋力強化だ」
「筋力強化?」
「こうだ!」
ぐっ!
その瞬間。
ミィナの腕の筋肉が一気に盛り上がった。
近くに置かれていた大きな丸太を、軽々と持ち上げる。
「うおっ!?」
誠は思わず後ずさる。
「そんな力あったのか!」
ミィナは笑いながら丸太を下ろした。
「短時間だけだけどな。荷物運びとか木を切る時は便利なんだ」
ブーン。
『誠様。襲っていたら、大変な目に遭っていたと推測します』
誠は苦笑した。
「……そうですね」
ブーン。
『もっとも誠様に、そんな度胸があるとは思えませんが』
「おい!最後は余計だ」
ミィナは事情も分からず首をかしげる。
「どうした?」
「いや……アイがひどい」
「またケンカしてるのか?」
「ケンカじゃない」
『事実を申し上げただけです』
「ほら!」
村には、遠くが見える者。
遠くの音を聞ける者。植物を改変できる者。
そして筋力を強化できる者。
誠は改めて思う。
「……やっぱりこれは、俺の知ってる『魔法』とは違うな」
ブーン。
『はい。この世界には、まだ解明されていない法則が数多く存在すると考えられます』
誠は静かに頷いた。
「よし!技術だけじゃない!今度は、この世界の”魔法”そのものを調べてみるか」
新たな研究対象を前に、誠の目は静かに輝いていた。
その後、誠は試験用の畑を見渡した。
芽吹いたばかりの種は、見た目には何も変わっていない。
「他に気になるスキルは無かったよな?」
『そうですね。今回聞き取りを行った範囲では、特に興味深いものは確認できませんでした。遠視、遠聴、筋力強化など、身体能力を補助するものが大半です』
「やっぱりそうか……」
誠は腕を組んで考え込む。
「なら当面は、改変の実験を続けてみるか」
『はい。植物を対象とする以上、結果が出るまで時間を要します。短期間で結論を出すのではなく、成長過程を継続して観察することを推奨します』
「だよなぁ」
今日種を蒔いても、明日に答えが出るわけじゃない。
芽が出て、葉が育ち、花が咲き、実を付ける。
その一つ一つを見届けて初めて、この能力の本当の価値が分かるのだろう。
「急いでも仕方ないか」
『はい。今回は”待つこと”も実験の一部です』
「研究ってのは、意外と地味なんだな」
誠は苦笑しながら、小さく芽吹いた畑を見つめた。
すぐには答えは出ない。
だからこそ、その先にある結果が楽しみだった。




