魔法か、スキルか
夕暮れ。
村の広場で一息ついていた誠は、ふと思い立った。
「……待てよ。アイ」
『はい』
「俺たちさ。そもそも”魔法”って何なのか、ちゃんと調べた方がいいんじゃないか?」
少し間を置いて、アイが答える。
『強く推奨します。現時点で確認されているのは生活魔法程度です。魔法と技術が組み合わされば、大きな発展が期待できます』
「だよな。じゃあ、何から調べる?」
『まずは、生活魔法以外に何が存在するのか確認しましょう』
「聞き込みか」
誠は立ち上がった。
◇
畑で作業をしていた村人へ声をかける。
「なあ。生活魔法以外に使えることってあるか?」
村人は首をかしげた。
「変わったこと聞くなぁ。俺は遠くの声がよく聞こえるぞ」
「遠くの声?」
「山向こうで木を切ってる音くらいなら聞こえる」
「なるほど」
誠は頷く。
別の村人にも聞いてみる。
「俺は遠くまでよく見える」
「獣探しには便利だ」
誠は思わず言った。
「それって、見ようと思えば何でも見えるのか?」
村人は不思議そうな顔をした。
「?」
「獣以外に何を見るんだ?」
「……」
誠は苦笑した。価値観が違う。
そもそも覗こうという発想がないらしい。
◇
次々と聞いて回る。
「俺は夜目が利く」
「私は怪我の治りが少し早い」
「魚が釣れやすいかな」
「雨が近いと分かる」
能力は様々だった。
しかし――。
ブーン。
アイが振動する。
『誠様。まだ人数は少ないですが傾向が見えてきました』
「俺も同じこと考えてた」
誠は腕を組む。
「これ……魔法というより、スキルじゃないか?」
『はい。私たちの世界のゲームでいう「固有能力」に近いと推測します』
「でも、この世界じゃ」
『すべて魔法と呼ばれているようです』
「何でだろうな」
『推測ですが。能力分類や学術研究が未発達なのかもしれません』
「なるほど」
誠は納得したように頷いた。
「魔法って一括りにしてるだけか」
『可能性は高いです』
◇
「ところで」
誠が尋ねる。
「何か面白そうなのはあったか?」
アイは少し考えたあと答えた。
『一つだけ。気になる能力があります』
「何だ?」
『“改変”』
「改変?確かに一人居たな?」
『本人へ尋ねても「何となく出来る」としか答えませんでした』
「説明できないのか」
『はい。ですが。非常に興味深い能力です』
誠は腕を組んだ。
「で?どうする?」
アイは静かに答えた。
『実験しましょう』
「実験?」
『はい』
「何を使う?」
『豆です』
「……豆?」
『豆の種を持って、その能力者のもとへ行きましょう』
「豆で何が分かる?」
アイは少しだけ間を置いた。
『それは、実際に見た方が早いです』
誠は首をかしげながら、保存庫へ向かった。
「……ますます分からなくなってきたな」
未知だった”魔法”。
その正体に、少しずつ近づこうとしていた。
◇
「誠殿か。また何かあったのか?」
改変の能力を持つ村人が、不思議そうな顔でこちらを見る。
「ちょっと試したいことがあってさ」
誠はアイに目を向けた。
ブーン。
『誠様。豆の種を一粒渡してください。そして、「一分後に芽が伸びる」という具体的なイメージを、種へ与えてもらってください』
「なるほど」
誠は豆を一粒手渡した。
「これを持ってくれ。それで、一分後に芽が出て育つところを、できるだけ強く思い浮かべてみてくれ」
村人は首をかしげる。
「はぁ?そんな豆があるわけ……」
「まあまあ。試すだけだから」
「……まあ、いいが」
村人は目を閉じ、しばらく黙っていた。
やがて目を開ける。
「……やってみたぞ」
ブーン。
『では、その種を地面へ蒔き、水を与えてください』
誠は頷き、小さな穴を掘る。
豆を埋め、水をかけた。
すると――
「おい……!」
土が、もぞりと動いた。
次の瞬間。
ぐんっ!
芽が飛び出した。
「うわっ!」
さらに、蔓が勢いよく空へ伸びていく。
ぐん、ぐん、ぐん!
あっという間に人の背丈ほどまで成長した。
「なっ!?何じゃこりゃ!?」
誠も村人も、目を見開いたまま固まる。
しかし。
「……あれ?」
誠が蔓を見回す。
「実が……ない」
葉は青々と茂っている。蔓も立派だ。
だが、花も豆も付いていない。
「本当に成長しただけか……」
ブーン。
『予想通りです。成長速度のみが加速しています。しかし花が省略されたと推測』
「なるほどな……」
誠は蔓を触りながら呟いた。
「便利だけど、万能じゃないってことか?」
その瞬間、誠の頭に一つの考えが浮かぶ。
「……待てよ。これ、一回じゃ結論は出せないな。何パターンか試そう!」
村人も興味津々で頷く。
「今度は何をするんだ?条件を変えてみる。水の量。時間。イメージの仕方。色々試せば何か分かるかもしれない」
ブーン。
アイが軽く震えた。
『誠様。珍しくグッジョブです』
「珍しくは余計だ」
『ですが、実験とは条件を一つずつ変えることです。ようやく科学らしくなってきました』
誠は苦笑しながら、勢いよく伸びた蔓を見上げた。
「よし。魔法なのか、スキルなのか。まずは、この”改変”を徹底的に調べよう」
未知の能力は、少しずつその正体を見せ始めていた。




