魔法と技術、その違い
数時間後。
村中を見て回っていたタタが、ようやく戻ってきた。
「ふぅ……いやぁ、驚きました。こんな村、初めて見ました!」
誠は苦笑する。
「少しは落ち着いたか?」
「はい!それでは、ご報告があります!」
タタは革鞄から羊皮紙を取り出した。
「まず、水車ですが――以前登録されていた技術を参考に製作されておりますので、使用料のお支払いが発生しております」
「ああ、やっぱりそうか」
誠は納得したように頷く。
「ですが!」
タタは笑顔で続けた。
「誠様が考案された手引き荷台車の足回り。各種新型農機具。半地下式の焼成窯。水路の設計思想。その他、多数の新技術。すべて登録を完了いたしました!」
「え?もう登録したのか?町へ戻らなくても?」
タタは胸を張る。
「はい!こちらをご覧ください!」
取り出したのは、小さな金属板だった。
中央には透明な石のようなものが埋め込まれている。
「登録内容を羊皮紙へ記入し、この魔道具へ転送します。すると本部へ届き、正式登録される仕組みです」
誠は目を丸くした。
「なっ……!FAXじゃん!」
タタが首をかしげる。
「ふぁっくす……?」
「それは何でしょう?」
「いや、違う。何でもない」
誠は慌てて首を振った。
異世界に来てから、久々に前世の言葉が口をついて出てしまった。
タタは気にせず続ける。
「ですので!私が同行している間は、その場で登録できます!既に登録済みかどうかの確認も可能です!」
「なるほど……」
誠は感心した。
「思った以上に便利だな」
「はい!登録関係は、すべてお任せください!」
元気よく頭を下げると、タタはまた走り出した。
「あっ!まだ見ていない場所がありました!失礼します!」
「あ……あっという間に行っちゃったな」
誠は苦笑した。
ブーン。アイが小さく震える。
『誠様。タタ様にとって、この村は非常に興味深い環境のようです』
「そうだな。でも、不思議なんだよな」
誠は腕を組んだ。
「あんな便利な魔道具がある世界なのに……基本的な技術は、俺のいた世界よりかなり遅れてる。どういうことなんだ?」
少し沈黙したあと、アイが答える。
『一つの可能性があります』
「聞かせてくれ」
『便利すぎる技術が、基礎技術の発展を妨げた可能性です』
「便利すぎる……?」
『はい。例えば。この世界に「種を均一に蒔く魔法」が存在したとします』
「うん」
『その場合、人々は種蒔き機を作ろうとは考えません』
「……確かに」
『魔法で解決できるからです』
アイは続ける。
『しかし。その魔法を使える者が減少した場合。残された人々は、手で種を蒔くしかありません』
「なるほど……」
誠は目を見開いた。
「機械を作る文化そのものが育たないのか」
『はい。便利な技術は、人の工夫を止める場合があります』
「……逆に俺の世界は」
『魔法が存在しませんでした。そのため、人は道具を改良し続けました』
誠は静かに頷く。
「だから水車も、農具も、荷台車も発達したんだな」
『あくまで仮説ですが。現時点では、最も可能性が高いと考えられます』
誠は遠くで農作業をする村人たちを眺めた。
「魔法と技術……どっちが上って話じゃないんだな」
『はい。重要なのは、状況に応じて使い分けることです』
誠は小さく笑う。
「だったら、この村は面白くなるぞ。魔法と技術、両方ある村になるんだからな」
夕暮れの村には、水車の音が静かに響いていた。
そして、新たな可能性もまた、ゆっくりと動き始めていた。




