未知の味、新たな仲間
市場には、いつの間にか長蛇の列ができていた。
「一本くれ!」
「こっちは二本!」
「さっきの黒いタレのやつ!」
「いや、茶色い方も食べてみたい!」
次々と注文が飛ぶ。
「はいよ!」
ミィナは慣れた手つきで代金を受け取り、串を渡していく。
「次のお客さーん!」
串焼き屋の親父は汗だくになりながら炭火の前に立っていた。
「焼きが追いつかねぇ!もっと肉持ってこい!」
その横では、誠がひたすら串を打ち、味噌や醤油を塗って仕込みを続ける。
「親父さん、こっち焼き上がる!」
「よし! どんどん並べろ!」
香ばしい匂いが市場中に広がり、人は減るどころか増える一方だった。
◇
数時間後。
「……終わった」
最後の一本が売れた。
「完売だ!全部売れたぞ!」
親父は腹を抱えて笑う。
「はっはっはっ!今日は人生一番の売り上げだ!若いの!その調味料を売ってくれ!」
誠も笑う。
「もちろん!実は全然売れなくて困ってたんだ。」
親父は豪快に笑った。
「くくく!これで俺も勝ち組だ!はっはっは!」
その時だった。
「うおおおおーーーっ!!」
市場の向こうから、大声が響いた。
「……ん?」
誠が振り向く。
全力でこちらへ走ってくる男がいた。
「あれは……」
ミィナも目を細める。
「さっきの案内所の人じゃない?」
男は息を切らしながら飛び込んできた。
「はぁ……はぁ……やっぱり!やっぱり、あんた達だったか!」
「何だ?」
誠が首を傾げる。
男は肩で息をしながら続けた。
「組合員が昼に珍しい串焼きを買ってきたんだ!食べた瞬間、全員が驚いた!詳しく聞けば、見たこともない調味料を使っていると言う!それで、もしやと思って飛んできた!」
誠は苦笑する。
「何か問題でも?」
男は勢いよく指を突き付けた。
「大問題だ!この未知の食材!登録しておらんだろう!」
「……え?」
誠は目を丸くした。
「食材も登録できるのか?」
男も驚く。
「もちろんだ!」
その横で、串焼き屋の親父の顔色が真っ青になる。
「ま、まさか……未登録品だったのか!?俺、勝手に売っちまったぞ!罰金か!? 営業停止か!?」
男は大きく手を振った。
「安心しろ!未登録品なら問題ない!勝手に他人の登録品を使った訳ではない!」
親父はその場に座り込んだ。
「よ、良かったぁ……寿命が縮んだ……」
◇
男は誠へ向き直る。
「誠殿だったな?」
「ああ」
「早急に登録してもらう!それと、村へ帰る前では間に合わん可能性がある。組織員を一人同行させる!もうすぐ到着するはずだ!」
「同行?」
誠が聞き返した、その時だった。
「はぁ……はぁ……」
小柄な人影が市場へ駆け込んできた。
肩まで届く茶色の髪。少し尖った耳。
ずんぐりした体格。
大きな革鞄を背負い、小さなハンマーを腰に提げている。
「間に……合いました!」
男は振り返る。
「おお!来たか!」
小柄な女性は背筋を伸ばえ、ぺこりと頭を下げた。
「初めまして!私はドワーフ族のタタと申します!本日より、誠様の登録業務および技術調査を担当いたします!」
誠は思わず目を丸くした。
「ドワーフ……本当にいたのか」
タタは胸を張る。
「はい!鍛冶と技術、それから新技術の記録は、私たちドワーフ族の得意分野です!」
アイが小さく振動する。
ブーン。
誠が画面を見る。
『誠様。ドワーフ族を確認。金属加工・建築・技術管理に優れる種族である可能性が高いです。同行による情報収集価値は非常に高いと判断します』
誠は画面を閉じ、小さく笑った。
「よろしく、タタ」
タタは元気よく敬礼した。
「はい!よろしくお願いいたします!」
市場で生まれた新しい味。
そして、その味が呼び寄せた新しい出会い。
誠たちの旅は、また一歩、大きく広がろうとしていた。
タタは、さっそく手引き荷台車の前にしゃがみ込んだ。
「なるほど……なるほど……」
車輪を外し、板ばねを指で押し、車軸を覗き込む。
「これが、さっき話に出ていた足回りですか」
誠とミィナは黙って見守る。
「確かに画期的な仕組みですね」
タタは感心したように何度も頷く。
「荷台の揺れを吸収する発想は素晴らしいです。ですが――」
そこで、鉄の金具を指先で軽く叩いた。
「鉄の鍛え方が甘いですね」
「え?」
「素人に毛が生えた程度です」
誠は苦笑いする。
「ぐっ……」
タタは悪気なく続けた。
「ですが、設計思想は面白いです。本職の鍛冶師が製作すれば、もっと軽く、もっと丈夫にできます。板ばねも改良できますし、車軸も長持ちするでしょう」
「なるほどな……」
誠は素直に頷いた。
確かに、自分は鍛冶を始めてまだ間もない。
アイの知識を頼りに作っただけで、職人の技術には遠く及ばない。
その時だった。
ブーン。
アイが小さく震え、誠が画面を見る。
『……ぷっ』
「おい」
『素人認定、おめでとうございます』
「笑うな!」
『事実ですので』
「慰めろよ!」
『ですが、作ったのは誠様です。技術は経験で向上します』
「……それなら、まあいいか」
誠は肩をすくめた。
タタは満足そうに荷台車を一周すると、ぱんっと手を叩いた。
「では!これから村までご一緒しますので、よろしくお願いいたします!もう夕暮れですので、本日は宿を用意しております!こちらへどうぞ!」
◇
石畳の通りを歩き、案内された建物の前で誠は足を止めた。
「へぇ……」
二階建ての立派な建物。
入口には木製の看板が掛けられ、多くの旅人が出入りしている。
「この世界の宿って、初めてだな」
「私は昔、一度だけ泊まったことあるよ」
ミィナが懐かしそうに言った。
中へ入ると、受付の女性が笑顔で迎えてくれた。
「お待ちしておりました。こちらがお部屋の鍵になります」
女性は鍵を一つ差し出した。
誠は首をかしげる。
「あれ?鍵、一つだけですか?」
受付の女性とタタは、不思議そうな顔をする。
「はい?ご夫婦ですよね?」
「……え?」
誠とミィナの動きが同時に止まる。
「それでは、ごゆっくりお休みください。明日の朝八時に、お迎えに参りますので!」
にこやかに一礼すると、受付の女性は奥へ戻っていった。
しばしの沈黙。
誠は恐る恐るミィナを見る。
ミィナも、ゆっくりと誠を見る。
「……」
「……」
その空気を破ったのは、アイだった。
ブーン。
『誠様。周囲の認識では、お二人は夫婦として判断されているようです』
「余計な分析するな!」
誠が思わず小声で突っ込むと、ミィナは耳まで真っ赤にしながら顔をそむけた。
「……と、とりあえず部屋、行こう」
「そ、そうだな……」
二人はぎこちない足取りで、鍵を握りしめたまま階段を上がっていった。




