留守を守る村
誠たちを見送った翌朝。
村には、いつもより少しだけ静かな朝が訪れていた。
広場の片隅では、数人の男たちが誠の作った手引き荷台車を眺めている。
「あの荷台車……便利そうだったな」
一人がぽつりと呟く。
「ああ」
別の男も頷いた。
「荷物をあれだけ積んでも、ほとんど揺れてなかった」
「普通の荷車ならガタンガタンなのにな」
荷台車の足回りを思い出しながら、一人が腕を組む。
「誠殿が改造してるところ、少し見てたよな?」
「見てた見てた」
「……俺たちでも作れそうじゃないか?」
「そうだな」
男たちは顔を見合わせ、笑った。
「帰ってくるまでに、一台作って驚かせてやるか!」
「おお、それ面白ぇ!」
誰かに命じられたわけでもない。
自然と、新しい挑戦が始まろうとしていた。
◇
その頃。
村長は広場の予定板の前に立っていた。
木の板には今日の作業が書かれている。
・水路点検 二人
・畑の手入れ 四人
・窯 二人
・保存庫整理 一人
村長は板を見回し、静かに口を開いた。
「今日は水路点検二人、畑四人、窯二人だな」
「了解!」
返事をした村人たちは、それぞれ自然と持ち場へ向かっていく。
誰も慌てない。誰も指示を待たない。
◇
畑では、鉄の鍬が軽快に土を返していた。
ザクッ、ザクッ。
「やっぱ鉄は楽だな」
「石には戻れん」
笑いながら畑を耕す男たち。
一方、水路では若者たちが流れを確認している。
「少し草が詰まってるぞ」
「こっちは流れ過ぎだな」
「午後になったら堰を一枚足そう」
誰かが教えたわけではない。
村人同士で相談し、判断し、動いていく。
窯では女性たちが器を焼いていた。
「焼き色、いいね」
「もう少し並べられるよ」
「次は保存壺を多めにしよう」
半地下窯から立ち上る煙が、穏やかに空へ昇っていく。
◇
昼前。
村長は村をゆっくり歩きながら、小さく笑った。
「誠殿がおらんでも、普通に回るな」
隣を歩く年配の男も頷く。
「ああ。もう皆、覚えたからな。あの人が教えてくれたことが、今じゃ当たり前になっとる」
◇
保存庫では、女性たちが干し竹の子を並べ替えていた。
「これ、あと一棚分くらい作れそうだね」
「来年はもっと多く干そう」
「味噌も、もう一樽仕込んでおこうか」
「そうだね」
保存食を増やすことも。
味噌を仕込むことも。
誰かの特別な提案ではなくなっていた。
それが、この村の日常になっていた。
◇
夕方。
広場では、男たちが木材を削っている。
「この辺、もう少し削るか?」
「板ばねって、こう曲げてたよな」
「試しながらやってみよう」
誠が残した荷台車を思い出しながら、新しい一台を作ろうとしていた。
「帰ってきたら驚くぞ」
「『いつの間に覚えたんだ』ってな」
笑い声が広場に響く。
◇
夕焼けが村を赤く染める頃。
村長は村の入口に立ち、遠くの山を見つめた。
「あの辺りまで、もう歩いた頃か」
静かに空を見上げる。
「無事に着くといいな」
その言葉は、風に乗って山の向こうへ流れていった。
その頃――。
誠たちは荷台車を引きながら、山道をゆっくりと歩き続けていた。




